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222話 貴族と平民の価値観の違い

今回はいつにも増して、意味不明な話になりました。しかもいつもより長いです。


読み飛ばしてくださるのが、賢明かもしれません。

「…、」冷や汗だらだら…!

「…、」真顔で腕組み…


「(修羅場(しゅらば)ったな~。)」超傍観者…


「うむ。来てくれてありがとう、ウルリ。」


「…、あんなこと書かれたら、来るしかないじゃん…。」若干の睨み付け…



 お疲れ様会の翌日。

 実に気持ちの良い青空の下、昨日の女子会メンバーが再びお屋敷の庭に集合している。


 今日はそこにウルリも呼んだ。「もし来なければ、ママさんへの治療行為を止めることを考えちゃうかも。」と書いた手紙を送って強制召喚したのである。



「まあ、もちろん半分冗談だったから安心して。」

「…、(それ、半分本気のやつでしょ…。)」ジロリ…


(だま)したことはごめん。でも、これもウルリの今後の為に必要だと判断したが(ゆえ)の措置。悪い様にはしないから。」

「もう、十分悪いよ…。」小声…


 距離を置いていたパーティーメンバー達と無理矢理同席させられたウルリは、とても居心地が悪そうだ。



「今日ウルリに来てもらった理由は、赤短髪(ラーシエン)さんとリーダー(リグ)さんとの関係について話をしたいから、です。」

「は!?!?」


 驚愕に目を見開き、立ち上がって私を見てきた。



「ま、待って!? なんでテイラ(あんた)が口出すの!? 放っておいてよ!」

「うん。(すご)~く、余計なお世話を働いてる自覚はある。」

「なら!?」

「まあ、でも。ちょっと言わないと不味いかな、って感じたから。上級冒険者パーティーが内輪揉めで解散とか、嫌でしょ?」

「…、」


苦虫を噛み潰した様な顔で沈黙したウルリ。

やはり相当思うところがあったらしい。



「まず私が言いたいことを伝えるね。ウルリが、ラーシエンさんに対して『勘違い』してることを、正したいと思ってる。」

「………、へ…??」困惑…


悲痛な表情から、ポカンと口を開けた間抜け顔になった。



「や。その。え? リーダーに近づくな、とかパーティー抜けろ、って話じゃないの??」


「最終的にはその話に繋がる可能性もゼロじゃない。けど、そこはウルリの自由意思と言うか、私が口を出すところじゃないよ。

個人的には。あのリーダーさん、女の敵みたいな人格(キャラ)してるから、全力で止めとけとは思うけども。」

「えぇー…。」

「まあ、誰かを好きになるのは理屈じゃないし。私も他人にとやかく言える様な人生歩んでないしね。ウルリの好きにしたらいいよ。」

「あ。うん…??」



「先に言いたいことをまとめるとね。

ウルリは、ラーシエンさんが元『貴族』であることを理解してないし。

ラーシエンさんは、ウルリが『夢魔族』である先入観に(とら)われてた。ってことなの。」


「???」頭の中がハテナでいっぱい…



「…凄く簡単に言えば。ラーシエンさんは『ウルリがリーダーさんを好きになること』に、何の悪感情も持ってないよ、ってこと。」

「や。え…? そんな──」

「『そんな訳がない』? これが有るんだなぁ。」


 混乱が加速しているウルリを(なだ)めつつ、話を聞いてくれる様に落ち着かせる。


 赤短髪さんは目を閉じて腕を組んだまま、沈黙している。完全にお任せモードの様だ。



「んじゃ、説明していくけど。

まず、ラーシエンさんがリーダーさんを好きだと、()()して話をするね。」

「…、(いや、でも仮定(それ)、事実じゃ──?)」ラーシエンを見やる…


「まあ、ウルリの言いたいことは聞かなくても分かるけど、そのまま聞いて。

で、リーダーさんもラーシエンさんのことを好意的に思っているとしよう。で、ここにウルリが登場。相思相愛の相手が既に居る男性を、好きになってしまいました。」


「…、」罪悪感から(うつむ)く…


「さて。この時、ラーシエンさんにとって、ウルリは『悪』でしょうか? 『善』でしょうか?」


「…、…、…、何言ってんの…?? 聞くまでないじゃん、そんなの──」


「ウルリは、さ。ウルリ(じぶん)が、恋敵と言う『悪人』──言うなれば『泥棒猫』だと思われてる、って考えてるんでしょ?」

「…、そう、だよ。事実で──」


「それが間違い…! 不正解です…!」

「…、はあぁ?」不快そうな顔…


 ふむ。ちょっと話のノリ間違えたか。もう少し真面目にいこう。



「ラーシエンさんは貴族だったから、一夫多妻的な──『正妻』とか『側室』とか──複数人と関係を持つことに、忌避観(きひかん)があんまり無いんだよ。」

「…?」


「何言ってんの?」って顔で私を軽く睨んでる、一般的感性の持ち主ウルリさん。


 高い魔力を持っていると、一般人と比べて子どもが少々出来づらい。特に女性の身体の変化を、魔力が「弾いて」しまうからだ。

 その為に夫婦間で相手の魔力を定着させることに、並々ならぬ情熱を燃やすのが貴族だ。その一環として、魔力が馴染みやすい相手を増やすことが、子孫繁栄の手段として普通に許容される。


 だから今回の場合、正妻(仮)たるラーシエンさんから見れば、旦那(仮)と相性の良い側室候補が増えることは良いことでもあるのだ。そりゃ、女個人の心情としては色々有るかもだろうけど。


 そんな解説をつらつらと語るのだが、ウルリにはあまり響いた様子はない。



「まあ、他人(わたし)が何言っても無駄か。では、ラーシエンさん。率直な気持ちをどうぞ。」


 ただただ黙って話を聞いていた赤短髪さんが、ゆっくりと目を開いてウルリを見た。



「…、別に、ウルリがリグを好きになろうと。あいつがあんたと関係を持とうと。私にはどっちでも良いことよ。

むしろ、女好きのリグからしたら嬉しいんじゃない? あんた、十分綺麗な顔してるんだし。」


「…!? ラーシエン(ラー)…? もしかして、テイラに(おど)されてる??」


 おい、何故そう考える…。



「…、脅されてないし、本心を()べてるわよ。」

「や。だって、態度があまりにも…。」


「あんたが来る前に色々と…。テイラ(この人)の話を聞いて、ちょっと自分が偏見で動いてたと(かえり)みただけ。」疲れた様に頭を()く…

「どゆこと…?」


「ラーシエンさんがウルリに対して態度がキツかったのは、『リーダーさんを好きになったこと』じゃなくて、『嘘をついて逃げ出した半端者』って誤解が有ったからなんだよ。」

「え? 嘘? 誤解…? (何のこと…?)」


「ウルリがパーティーを一時離脱した理由って…──『生理痛(周期痛)』なんだよね? ラーシエンさんは、それが仮病(けびょう)だと決めつけたんだよ。」

「へ…!?」

「…、」はぁ…自嘲の溜め息…


 こっちの世界では「生理」のことを「周期」と表現することが多い。まあ、「月」が存在しないから「()経」とは言わないし、「2つの太陽」の「回転()()」と結びつけられたのだろう。


 まあ、とは言え内情は大差ない。一月(ひとつき)(こちらでは「一節(いっせつ)」)に1回のリズムで起こることであるし、年齢差・個人差が激しいのも一緒。魔法の有る異世界だが、基本的な「人間」の仕組みは同じらしい。

 まあ、そもそもなんで完全に環境が異なる別の「星系(せいけい)」で、基本構造がかなり近い「人類(生命)」が存在しているのやら…。謎過ぎる…。

 が、まあ、今回それは脇に置いておこう。



「ラーシエンさん、淫魔(夢魔)なんだから『周期』も自由自在に操れると思ってたらしくてね。そこら辺は人間と同じですよ、って話を昨日したんだよ。サシュさんから聞いたことなんかを交えて。」


 地球の動物ではどうだったか調べた記憶はないが、「猫」に生理(周期)は無いそうで、パートナーができると途端に成熟するらしい。

 猫の因子を持つ夢魔であるウルリ自身も、この歳になるまで周期(それ)とは無縁の生活を送ってきたらしく、軽く見ていたそうだ。


 お店で支給される、夢魔(ママさん)特製の「女性の薬」を断って経費を節約して(ケチッて)いたところ、所属パーティーのリーダーに恋をしてしまった。それがスイッチとなり、身体が女夢魔として覚醒。魔猫の身体能力とか見た目とかに変わりはなかったものの、内臓の痛みとかはなかなか(こた)えたらしい。

 普通の薬を飲んでからは日常生活を送れる様になったものの、魔猪なんかの魔物を刺激してしまう体臭変化は残った為、斥候職として使い物にならなくなってしまったそうだ。


 でもって、町の中で活動するしかなくなった上級冒険者(店の稼ぎ頭)は、呪い持ちたる私への闇討ち要員としてギルマスの依頼(魔の手)受けて(掴んで)しまった訳で…。


 因果なものである…。



「つまり。ウルリがリグを好きになっても問題ないし、仮に私があいつと…夫婦…、とかになったとして。あんたがリグの愛人やるのは自由ってこと。

むしろ私は子どもとか産む気無いから、任せられる愛人(やつ)が居ると助かるけど?」


「…、何言ってんの??」引き気味…

「私は魔法を極めたいもの。その為に家を飛び出したんだし。家事とか育児とかは全部他人に譲るわ。」

「や。ますます分かんない…。」ドン引き…

「だから──」

「でも──」


 誤解が解けたから赤裸々に自分の考えを語る赤短髪さんと、それに戸惑うウルリ。

 それを(なが)めながら、私は隣の風使い(フーミーン)さんに声をかける。

 


「私としては、あの(リーダー)さんに2人が惚れ込む価値が皆無だと思うんですけどねぇ。そこんとこ、どう思います? フミさん?」


「んー? リーダーは冒険者としては優秀だから、仕方ないんじゃない?」

「やっぱり金稼げて顔が良いとそうなるんですかね…。」

「男としては願い下げだけどねー。私も胸、ちょいちょい視られるし。」

「「…、」」揃って遠い目…


「最低ですね。」

「まあ、手を出してこないだけマシじゃない? 戦闘中に遠距離魔法使い(わたしたち)が怪我しない様に立ち回ってくれるだけ、助かるしー?」

「肉盾ですか。存分に被弾してほしいですね。」

「『指揮役(リーダー)』だから下がって指示出しが多いけどねー。」

「ふむ。やはり抹殺するべきなのでは? サクッと(のろ)いましょうか。」


「止めて!?」

「止めなさいよ!?」


 恋する2人が必死の感じに待ったをかけてきた。息ぴったりだ。



「仲良いねー。」他人事…

「ですねー。」賛同…


「違う!?」

「違うわよ!?」


 2人とも明るい表情になったな。これで致命的な衝突とかは無くなっただろう。少しは役に立てたかね~?


ちなみに主人公の場合、女性の諸々からは解放されているので薬を飲むことなく旅ができます。

水属性の下着(アーティファクト)の第2効果、「体内ホルモンの循環調整」により身体の変化を制御できるのです。



次回は8日予定です。

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