221話 ガールズトークと三角関係
「さっきは、悪かったわ…。」
「ごめんなさい…。」
開口一番、2人が謝罪してきた。
シリュウさんの威圧を受けたせいか完全に酔いが覚めた様だ。
とりあえず、鉄椅子を3つ形成して輪になる様に座り、話をする。
「…まあ、自覚してるならもう良いです。
私はともかく、シリュウさんを刺激するのは止めてくださいね? とても危険なんで。」
「そうね…。」改めて自覚…
「うん…。」少し恐怖…
騒ぎを見ていたのか様子を見に来てくれたミハさんに、大丈夫ですと伝えて、持ってきてくれた料理を受け取る。
私も休憩がてら摘まむとするか。
鉄でガーデンテーブル的な台を作って料理を置いた。
「過酷な森の探索を終えたところなんですし、色々と溜まってらっしゃったんでしょう。私で良かったら話くらいは聞きますし、シリュウさんに後で何かしら口添えしても良いですよ。…実現できるは不明ですけど。」
「いや、そんなのは別に要らない。」
赤短髪さんが、あっけらかんとした表情で返答した。
あれ…? シリュウさんに執着してるんだと思ったんだが…??
「…シリュウさんと戦ってみたいとか、お近づきになりたいとか、…そんなんじゃないんです??」
「そう。違う。」
「じゃあ、さっきのやり取りは一体…?」
「あれは…、単に酔ってたから…。」
いや、貴女、普通に受け答えしてましたよね。
「ラーちゃんはねぇ。雨瑠璃のことを知りたいんだよ。」
「な!? 違うわよ!?」
「え? ウルリ…??」
言い澱む赤短髪さんの心中を、風使いさんが横から言い当てたらしい。
仲間からの暴露に盛大にあたふたしている。
「確か、ウルリってお2人と同じ『赤の疾風』?でしたっけ? に、所属してるんじゃ…??」
私なんかよりも昔の知り合いのはずなんだけど…? 今さら何を知るんだ…?
「そうよ! だからフーミーンが言ってるのは的外れ──!」
「もっと言えばうちのリーダーのことを探ってるんだよねー。」
「ちょっ!? ちがっ!?」顔真っ赤!!
リグって名前は、確か彼女らが所属しているパーティーのリーダーだったはず。
まあ、そこそこイケメン系統の細マッチョタイプであり、ガサツな冒険者が多い中では女にモテる感じの男性だ。軽薄、もといチャラそう。とも言う。二股くらい普通にしてそうな。
今日の顔合わせの時、私に馴れ馴れしく握手してこようとして敢えて無視したんだが、それでも仲良くしようと話かけてきたから印象に残っている。軽く鉄針を向けて脅したら、あっさり引き下がったけど。
もちろん、それ以降ラーメンカウンターの方には近づいてきていない。
「ほう…。
つまり、ラーシエンさんはリーダーさんが好きで、ウルリとリーダーの仲を疑っていると?」
「そうなるねー。」
「違うって言ってんでしょ!? リグはただの『腐れ縁』で──!!」
ああ~…。成る程成る程。
幼馴染みとの王道ラブストーリー物ですか~。
「でも、なんでそれでシリュウさんにちょっかいを出す話になるんです?」
「それはねぇ──」
「話を聞けぇ──!」
その後、赤短髪さんを適当にあしらいつつ、風使いさんと情報交換したところに依ると。
私とシリュウさんが、あのツルピカギルドマスターと初めて会った日のことがそもそもの原因であると判明した。
私はすっかり忘れていたのだが、猫耳女に闇討ちされかけたあの日、リーダーさんもあの場に居たそうなのだ。
ウルリが、シリュウさんに隠密がバレた時に逃げ込んだ背中の人、ツルピカの横に侍ってた冒険者の男。必死に思い出せば、リーダーさんだった様な…。違う様な…。
ともかく。体調不良を理由にパーティーから離脱していたウルリと、そのリーダーが、2人揃って(ゼギンさんも横に居たらしいのだが)依頼を受けた。その上、その時に何が有ったのか詳細を誰にも語ることなく黙っている様子に不信感を募らせたと…。
森での探査クエスト中に竜喰いさんの異常性やら格の違いを肌で感じて、リーダーさんが仲間に詳しい説明をしなかったことに一定の理解は示したものの。
今度は、その竜喰いさんのパーティーメンバーである女性(そう言う認識らしい)に対するリーダーさんの言及に怪しいものを感じ、今日の集まりで確認しようとした。ってことらしい。
「成る程~…。それはすみません。呪い女が原因で要らぬ誤解を与えていたとは。」
「いや、でも、その…。あなたが『呪怨持ち』…って本当なの…?」
「ええ。本当ですよ、フミさん。」
愛称で呼ばせてもらえるくらいに打ち解けた風使いさんに、自然な態度で返事をする。
「…、あっさりし過ぎてない…?」
「隠して話が拗れてるんですし、まあ…。
私としたら軽薄男さんと関係を持ってると思われる方が、億倍、嫌なんで。」
「…、(オクバイ、って何…?)」
「…、(心底嫌なんだね…。)」
しっかし、あのツルピカ。本当に私のことを周知させない様にしてたとは…。おかげで余計な手間をかけさせられたよ。
ウルリも他の2人も口が固いんだねぇ。パーティー内に不和をもたらすくらいなら話せば良いのに。
「信じられないなら、〈呪怨〉の痕、見ます? 呪具が刺さった所に『呪印』と言うか、印が有りますけど。」
積極的に見せたくはないが、まあ、女相手なら別にそこまで抵抗はない。色々今さらだと思うし。
「いや、いい…。」引きつった顔…
「ちょっと見たいかも…。」好奇心…
「!? (何言ってんのフミ!)」念を飛ばす!
「(だって、後学の為にさぁ。)」念話起動…
「(喧嘩売る様なもんでしょ!?)」
「(本人が良いって言ってるし、そもそもラーちゃんのせいでこうなったんだよー。)」
「(それとこれとは──!)」
何やら無言で表情を変える2人。念話でもしてんのかな?
私は、誤解が解ければどっちでも良いんだけど。
ちなみに、この場にウルリは来ていない。誘ったのだが断られたのだ。「森の探索には参加してないし、ちょっと疲れてる感じだから…。」とかなんとか言ってたけど、多分仲間──と言うかラーシエンさんとリグさん──に会いづらかったんだろうな。
元気そうに見えるウルリの体調不良とやらも、数日前に同僚さんから聞いた話では、恋患いと魔猫族の体質が影響してのことらしいし…。薬を飲んでれば全く問題は無いんだそうだが…。
ウルリとは色々有ったけど、私もかなり迷惑はかけたし、今では感謝してる気持ちが強い。なんとか力になってあげたいところ…。
でも、あの軽薄男が恋の相手だと、縁を切らせる方が本人の為な気がするなぁ…。なんか女を不幸にしそうな雰囲気を感じるんだよね。
向こうの席から、2人の仲間をちらちら見てる男に視線をやりながら、むぅ~んと悩む私だった。
ラーメンもどきを自作自消中のシリュウ
(テイラの奴、呪怨のことを喋ってやがる気がする…。まあ、もう、今更か…。最悪でも、どうにかできると思うが…。やれやれ…。)
次回は5日予定です。




