220話 宴と2人の魔法使い
この作品では「『』(二重かぎ括弧)」をエルフの言葉を表すのに使っていましたが、それを止めます。やはり、文章表現にこそ必要な記号でしたので、これからは強調や「」内の会話文に使う様に修正していきます。
エルフ言語の表現は…「〔〕(亀甲括弧)」に変更しましょうかね…??
戦闘狂い達が離れていき、シリュウさんが1人で延々とラーメンもどきをお代わりしていると、向こうから2人の人物が近づいてきた。
私が今居るラーメン屋のカウンター的な青空厨房から少し離れた所に、普通のご馳走達が並んでいる大きな長テーブルがある。
私の作った異世界料理ではなく、ミハさん達が作ったこの町で食べられてる真っ当な料理だ。魔猪肉のステーキに、蒸し野菜や新鮮な果物が食べ放題で、さらにお酒も飲み放題である。一般的冒険者達は挙ってそちらに集まった。
振る舞われているお酒も、目新しい種類の物と言うことで人気を博している。顧問さんが持ってきた「蒸留酒」だ。
いつぞや私が作り方を教えてたものを参考に、近くの町で生産ラインを作ったそうで、大樽で何杯もの量が用意されている。私のあやふや知識を上手く昇華させて、風味を良くしてあるらしい。
もちろん彼らに飲ませる分は、魔法生成のお水やお湯で割っている。強烈な酒精が薄まってなお、突き抜ける刺激が有って最高なんだとか。
土エルフである顧問さんはストレートでぐびぐび飲んでいらっしゃる様子だが。
近づいてきたのは女性2人。
蒸留酒には目もくれずに食べ続けてるシリュウさんに気圧されることなく、席に着いた。
「魔猪うどん?を、2つくれるかな?」
確か…。「赤の疾風」の風魔法使い、フーミーンさん、だったかな?
朗らかな雰囲気で笑う、深緑のセミロングが可愛らしい女性だ。私より年上らしいのだが。
「はい。少々お待ちを~。」
私は追加の麺を茹でながら2人の様子を窺う。
フーミーンさんは素面な感じで、もう1人の方は顔が程よく赤いけれど普通に会話はしている。酒休めにこちらに来た様だ。
もう1人の方も同じパーティーで、火魔法使いのラーシエンさん。
ツリ目の美人さんで、真っ赤な短髪がいかにも魔法使いと言った出で立ちだ。火属性魔法の扱いは、あのギルマスも抜いてこの町1番らしい。
まあ、今は火属性の異常魔力持ちのシリュウさんが居るから、その座を空け渡す形になってるとかなんとか?
「──竜喰いさん。魔法戦だったら、やってくれる?」
赤短髪さんが、麺を啜るシリュウさんに声をかけた。どうやら、二刀流剣士さんの誘いを断ったのを聞いていたらしい。
「…。断る。」
「つれないわね。」
「屋敷の庭じゃ、お前の魔法ですら耐えられる訳無いだろ。何言ってんだ?」
「それもそっか。なら、外に行っ──」
「行かん。食事の邪魔すんな。」ズルズル…もぐもぐ!
「替え玉、お待ちです。」
「おう!」器差し出し…
「魔猪うどん、お2つ、お待ち。」ゴト… ゴト…
「わぁー、美味しそう! ラーシエン、食べよ?」
「…、そうね。」
2人はフォークには手を触れず、『魔法手』で食事をはじめる。
風使いさんは右手を延長させる様な形で緑色の魔力体を形成し、麺をスープごと掴んで口に運んでいる。
赤短髪さんは生身の体は全く動かさず、空中に出現させた赤い手で流れる様に洗練された所作で食べている。かなり上品な感じだ。多分上流階級出身なんだろう。なんで冒険者やってるんだろうね。
まあ、2人ともなかなか美味しそうに食べてくれている。お気に召したなら良かった。
更なる追加の準備をしていると、ラーシエンさんが突然私に声をかけてきた。
「ねぇ。あんたって、竜喰いさんの火炎、防げる? 水魔法で、周りに影響出ない様にさ。」
「いやぁ、ごめんなさい。私、水魔法、使えないんで。」
「…? 青の髪色で??」
「はい。水色髪なのに、です。」満面笑顔…
「…ふ~ん。」疑いの眼差し…
「…、」無言で麺ちゅるちゅる…
魔力を弾く鉄なら出せるし、シリュウさんの火属性魔法でも無効化できるが…。まあ言う必要はないな。
酔ってるとは言え、失礼な発言をしてきた彼女に配慮する気持ちが湧かない。
シリュウさんをちらりと見たが、どのみちやる気は無さそうだ。問題あるまい。
「あなた、他の魔法は何か使えるのよね? なら、軽い撃ち合いとか、どう?」
「すみません。今見て分かるとは思うのですけど、料理中なんですよ。私。
髪色で水魔法を連想する頭があるんでしたら。作業してる人間の邪魔をしちゃダメってことくらい、気づきますよね?」満面笑顔!
「…、何? 当たり、強くない? 私、何か悪いこと言った??」首かしげ…
「ラーちゃーん。そこまでにしとこ。ちょっと周り見えてないよ。」
「何よ、フーミーン。私はただ試し撃ちを──」
「酔い過ぎだよー? 今日はお祝いの席なんだから、休むんだよー。」
「酔ってないわよ。普通に喋ってるでしょうが。あっちで『砂塵』さんと脳筋馬鹿の奴が模擬戦してるし、良いじゃない。」
「ラーちゃんは脳筋さんじゃないでしょー?
あ、お水貰えます?」
「はい。どうぞ。」コトン…
木製水差しを容器ごとカウンターのテーブルに置く。中身は魔導具で生成された、程よく冷えた水だ。頭も冷えるに違いない。
不思議そうな顔をしつつも、渡された水を素直に呷る赤短髪さん。
だが、まだ喋り足りないのか再び口を開く。
「ねぇ。あんたって、竜喰いさんとできて──」
「ラーちゃんまだ酔ってるよ『風弾』!」早口&弱魔法攻撃!
「──のぶっ!? 何すんの!?」鼻を押さえる…
「そう言うのは初対面の人に聞いちゃダメでしょうー!? 失礼だよー!」
「良いじゃない。これだけ凄い魔力の人だから当然──」
「──騒ぐなら、他所に行け。」威圧感全開…!
「!! すみません!!」
「!! ごめんなさい!!」
シリュウさんが凄んだ途端に謝罪して、静かになった2人。
食事している人の隣で騒いだらダメだよねぇ。私も少し工夫するかな。
「…、(早く食べ終わって移動しよ──)」
「シリュウさん。ちょっと私、席外しても良いですか? カウンターの中の物、自由に使ってくれて構わないんで。」
「「──!?」」
「…。別に良いが…。争うつもりなら止めとけよ。」
「いえいえ。戦闘じゃなくて、ちょっとした女の喧嘩ですよ。」うふふふ…
シリュウさんは最新版のラーメンもどきを作る練習もしたいはずだし、任せても問題ない。お喋りさんと距離を離す方がお互いの為だ。
「お2人とも。食べ終わってからで良いんで。
…ちょっと向こうに行きましょうか?」にっこり!
楽しいお疲れ様会なのに、何故か不穏に。
まあ、大事にはならないはずなんでご安心を。
皆さんも、お酒には気をつけましょう。
次回は11月2日予定です。




