22話 返せ
魔法の代わりに呪いの力を使ってるって言ったら、すっごく渋い顔で私を見てくる角兜の少年。
あ、怒ってるんじゃなく呆れてるのかな?
めんごめんご、すまんな、常識無くて。
「腹の紋様を見て、予想はしてたが。中身は化け物じゃ無くて、馬鹿、かよ…。」
なんか急に脱力したと思ったら、ディスり始めやがった。
私のお腹には大きな入れ墨みたいな赤黒い紋様が走ってる。
左脇腹に刺し傷があって、その周りを黒い太陽が輝いているような、十数匹の黒蛇がのたうっているような感じになってる。
マンガに出てくる呪印みたいなやつ。てか、マジで呪いの証なんだけど。
この世界では一般的な概念である、魔法。魔の法。
物の理の外に居る『魔』が使う、超常の力。
その超常の力をも歪めるのが、〈呪怨〉と、この世界では呼ばれてる。
体系的に学問として定着している魔法と違って、意味不明で出鱈目で、深刻な害をもたらす災いの力。
魔法文明が頂点に達した千年前に突如して現れ、文明を破壊し尽くした大魔王と言う存在が、この世に産み出したモノ。
勇者達に倒された大魔王が世界にばら蒔き、何体かの魔王が現れて混乱を呼び続けた忌まわしい力。
魔を殺す毒。
魔力持ちを妬み続ける非魔種の私にぴったりの力だ。
「…はあ。追加の質問だ。この腕輪どもと髪飾り、あとあんたが穿いてる下着。これらはなんだ…?」
少年が私の装備を取り出す。
「ちょっ、それは、返してください!」
「答えろ。こんな異常物、放置する訳ないだろ。」
「大切な! ものなんでっ! すっ!」
「だから答えを──」
〈鉄血〉発動。
顔面と腕に向かって鉄針、伸長。
横になってる私の右太ももから鉄が飛び出して、角兜野郎に伸びる。
動けないし足めっちゃ痛いけど、親友との絆を取り戻す方が先!
しかし、野郎は驚いた顔のまま、飛び退いた。私の視界から姿が消える。
クッソッ! どこに居るか分かんないと当てられない!
「待て! そんな状態で血を使うな! 死ぬ気か!?」
こちとら元々死ぬ気じゃ!ボケェ!
「返、せ…!!!」
「分かった! 手を離す! とりあえず止めろ!」
ゴトンゴトンと床に何かを置いた音がする。
見えねぇだろうがボケェ!
「訳分かんねぇ物を馬鹿に渡す訳にはいかん。とりあえずこれで攻撃を止めろ!」
チッ、正論でございますねぇ! どうせバカですよ! 足痛い!
攻撃が止まったと判断したのかそろりと私に近づいてくる角野郎。わざわざ鉄が伸びてない左側からの登場である。
左側からも針出してやろうか!?
「落ち着いたか?」
「んな訳、無い、でしょ…!」
「〈呪怨〉持ちをあっさり暴露しといて、何にキレてんだ…。」
「だから、大切な、もの、なのっ…!」
右足の鉄を、貫いた傷口を覆うように変形させて、他の血が漏れないようにしておく。痛いぃ…。
「次に触った、ら、全身の血を屑鉄に変えて、やるから、ね。」
「…。死にかけが何脅しにきてんだ…。本当にされそうで肝が冷えたぞ。」
「本気、だけど?」
「…。分かった分かった…。」
そのまま少し離れた位置に移動する角野郎。
私はゆっくり息をして呼吸を整える。
喉が乾いた…。
目線を頭の周りにさ迷わせると、アクアの貝殻があった。目を向けたくらいに蓋がパカッと開いてアクアが顔を出す。いや、顔は無い(略)
私の意図を察したのか水球を作り、そこから糸のように伸ばした水が私の口に触れる。美味しいぃ…。生き返るぅっ…。
「ふぅはぁ…。ありがと、アクア。」
触手を1本振って、蓋を閉じるアクア。
視線を戻せば、角野郎が理解不能と言いた気な顔をこちらに向けている。
「何? 水欲しいの?」
「…。要らねぇ…。」
そう言って、そのまま立ち去ろうとする。
その背中に向けて、私は声を掛けた。
「──腕輪とかの装備は、〈呪怨〉を利用して、親友と作ったの。私の、大切なもので、生命線。名前も知らない奴に、渡したくない。」
大切なもの(下着以外)が近くになかったので、ずっと不安になっていた主人公。
ナイーブ()ですね。




