219話 ラーメン王に、私はなる?
2時間程、投稿遅れました。
申し訳。
グツグツグツグツ…
打ち立て小麦麺を、取っ手の付いた縦長のザルに入れて、煮えたぎるお湯の中へと投入する。
同じ物を3つ、鉄菜箸で麺を解しながら茹でる。
程よくなった辺りで取り出し、アクアの冷水に浸けて締める。
よーく水気を切って、ザルの中身を丼へと入れる。丼には、「タレ」と魔猪骨スープが注いである。
麺がスープと絡む様に箸で整えたら、その上に魔猪肉のチャーシューもどきと、炒めた豆もやしをトッピング。
これにて、チャーシューラーメン──に成り損なった、「魔猪うどん」の完成である。
「魔猪うどん、3人前、お待ちどう。です。」
「」ズルズル!!無言のかきこみ!!
「美味である…。」フォークでちゅるちゅる…
「…、(悪くないね…。)」スープをズズーッ…
はて?何故私はラーメン屋の真似事をしているんだ…?
ラーメンも作る雑多的な飲食店のバイト経験はあるけど、ラーメン屋そのものは無いんだけどなぁ??
──────────
今日は顧問さんの屋敷でちょっとした集まりが開催されている。
メインは「森の探索、お疲れ様!!」ってことで、シリュウさんとダリアさん、そして同行した2つの上級冒険者パーティーの方々を労う会だ。
「北の海岸」の呪具の行方は依然として不明なのだが、その第1報を届けると共に魔猪の森を十数日間探索したシリュウさん達は、しばらく長い休みをとることにした。
森の探索は他のパーティーや騎士・兵士が引き継ぎ、この先の有事に備えて英気を養うことにした彼らは、どういう訳か探索中に提供されたシリュウさんの料理──つまりは私が作った備蓄食──を食べたいと言いだしたらしい。
そこに、最近の私の行動に思うところがあったシリュウさんが「詫びって訳じゃないが、少し働いてくれるか?」と提案してきたので、「了解です!」と承ったのだが…。
まさか麺料理オンリーでカウンター越しに注目されながらだとは思わなかった。初めは、宴会の料理を延々提供し続ける調理補助ぐらいに思ってたんだけどね…。まあ、こんなんで満足するならやらせてもらうけども。
屋敷の庭に作った、カウンター一体型の屋外調理場そのものの使い勝手は悪くない。ダリアさんや顧問さんの土魔法には感謝である。
今日用意したラーメンもどきには、この町に来てから学んだ様々な調理法を詰め込んで、様々な改良を加えてある。
麺はシリュウさんが大量に保有している小麦を鉄臼でかなり細かく粉にした物に、豆の粉を練り込んでいる。豆はこの国の名産である、甘くて黄色い「千豆」を使っている為、より甘くもっちりと仕上がり見た目もラーメンの麺に近くなった。
タレには甘い豆から作られた飴に塩と、旨味成分の塊である蒸留酒の廃液を混ぜて、加熱した物を使用している。
砂糖・醤油・料理酒の代わりな訳だが、存外悪くない味に仕上がったと自負している。ラーメンダレとはかけ離れている感じだが、魔猪骨スープとの相性はまずまずだし、これはこれで美味いので良しとしよう。
チャーシューも、これまた飴と塩で味付けしてある。
豆もやしも程よくしゃきしゃきしてるし、良い感じだ。
この辺りはミハさん達にやってもらった。
特にチャーシューは、魔猪肉や千豆に理解の深い地元の主婦であるリーヒャさんが作ってくれていて、これ単品でも完全におかずになる一品だ。
これらのトッピングが、私のあやふやラーメンを立派な料理として一気にレベルアップしているくらいだ。
そんな現時点での集大成な麺料理を、シリュウさん達はとても美味しそうに食べている。
どうやらもどきとは言え、「ラーメン」の魅力は異世界でも変わらないらしい。
シリュウさんの食べる速度はなかなかなので、お代わりないし替え玉が必要である。
追加の麺を茹でながら適当に様子を窺っていると、ガタイの良い男が口を開いた。
「竜喰い殿が森の中で作ってくれた物よりも、一段も二段も美味いですなぁ!」満面の笑み!
ちょおい!? シリュウさんと比べないで!?
「…。まあ、当然だな。俺がお前らに作ったのは、マジックバッグに保存できる様に調整した物だから、味は数段落ちる。今作ってるのが本物だしな。」
探索中、シリュウさんは、持ち運び用の乾燥麺を茹でる練習として、自ら作った物を彼らに提供していたらしい。携帯食やその場で狩った肉とかに慣れ親しんでいる冒険者達に、簡易版うどんは相当なクリティカルヒットをしたんだとか。
シリュウさん的には実験台程度の認識らしいが、自らの食料を分け与える辺り、彼らに対して良い感情を持っている様だ。
ともすればシリュウさんを激怒させ得る発言にも、普通の顔で返事をしているくらいだし。
「あんまりシリュウを刺激すんじゃないよ、ゼギン。食い物はシリュウの逆鱗だって言ってんだろ?」
「ここでは虚偽・誤魔化しを行う方が危険だと思いましてな! 某、思ったことをそのまま口に致しまする!」
「良い判断だ。」チャーシューもぐもぐ…
「…、(逆に好印象なのかよ…。分かんない奴だねぇ…。)」呆れ顔…
ちなみに、この似非侍みたいな喋り方をしているのは、冒険者パーティー「スリーソード」の前衛ゼギンさん。
なんでも魔法剣の二刀流の使い手で、近接戦闘における強さはこの町のトップ層らしい。
さっきまで庭の反対側でダリアさんと模擬戦闘をしていたんだけど、遠目でもなかなか激しい動きしてたね…。木の巨大棍棒と、2本の木剣が打ち合う音…、えげつなかったもんなぁ…。魔法強化を武器に施せば、木材でも鋼の塊みたいになる…ってね。
「竜喰い殿。この後、手合わせ願えぬだろうか。某、特級冒険者の頂を肌で感じてみとうござる。」
「ござる」て…。
もしかしてあなた、江戸時代の日本人が転生とかしてます??
いや、あれは時代劇の中だけか。なら、俳優さんとかの方かな??
「断る。
俺はテイラが向上させた、この料理をとことん堪能するつもりだ。」もやししゃきしゃき… スープごくっごくっ…
「むぅ。断られ申した。
では、ダリア殿。どうだろうか? もう一戦?」
「お、いいねぇ…。魔法無しで…、次は真剣の武器を使うとするかい?」にやり…
「良いですな! 某の剣、竜の骨にも負けませぬぞ?」にやり…
とりあえず、戦闘大好き地元民っぽいなぁ。放っておこう…。
ちなみに、この二刀流の男、ツルピカギルマスとの初対面の際に脇に控えていた1人だったりします。
あの時はキャラクターとか何も決まってなかったんで、今回色々設定していったら…、何故かこうなりました。
次回は30日予定です。




