218話 モンブランのレシピとミキサー
やはり料理をしない作者では料理描写に限界があります。
ご都合主義の調理工程が満載ですので、お目こぼしをば…。
ぐるぐるぐるぐる…
シャカシャカシャカシャカ…
「──で。蒸し終わったトーケーを、裏漉しする。熱くて柔らかい内に擦りおろしておくと、少し楽に作業できる。」
「なるほど。栗もどきの剥き身を、滑らかなクリーム状にすると。」
「そう。乳脂。これが『美人強壮』の、見た目・味・食感、全てに大きく関わるから手を抜かない様に。」
「はい…!」
本日は念願の、極美味甘味のレシピを教えてもらえる日だ。
「蜜の竹林」の厨房にて、サシュさんに手取り足取り作り方を教わっている。
お菓子は分量の些細な差で、味がひどく変化してしまう難しいやつだ。ゾーンに入るくらいの集中力で余すところ無く、鉄の薄板にメモっていく…!
「それで、裏漉ししたら千豆飴を加えて、しっかり丁寧に混ぜてく。」
「ふむふむ。」メモメモ…
「そしたら、ここに『スライム粉』を混ぜる。量は…、これはクリームのとろみを考えて、その日その日で変わる。まあ、これ自体は無味だし、単に食感に違いが出る程度だから、あんた達がやる時は省けば良いと思うよ。」
「そこは秘密にしちゃうんですね…、仕方ないか…。」
「だって、手に入らないでしょ…? 私達も必要な分しか買ってないし…。」
「そうね~…。私も聞いた事無い素材だもの。普通の手段じゃ手に入らない物なんでしょうね~…。」ぐ~るぐ~る…
後ろで作業してくれているミハさんが、残念そうに呟く。
野生の魔物を倒してドロップするなら話は早いのだが、その手段じゃ入手不能らしいからね…。
そもそもスライムは、絶命したかどうか分かりにくいし、倒しても灰色のドロドロが地面に溜まるだけだしな…。天日干ししたら、乾燥して粉になるか…?? 激しく微妙そうだな…。
「本当に欲しいなら、顔繋いであげても良いよ。売ってくれる所は、ママの伝だし。事情話せば少し分けてくれるかも…?」
「よろしくお願いします…!!」頭下げ…!
「まあ、また今度、ね…。」
聞いてる限り「スライム粉」とやらは、水分を溜め込む能力が有りクリームの滑らかさを向上させる。そして食べれば肌に潤いをもたらすらしい。やはり、コラーゲンとかのゼラチンに近い感じ。
必ずこの先の料理作りで、活躍すること間違い無し…!
ぐるぐるぐるぐる…
シャカシャカシャカシャカ…
「…、土台になる小麦生地は、さっき言った通り。
膨らんできたみたいだから、起動して熱しておいた魔導調理窯に入れて焼いていく。」
「材料は、小麦粉、水、卵の黄身、そして少量の、石灰の粉…。それをこの比率で混ぜて寝かせておく、と…。」メモ確認…
石灰は、前世のものと恐らく同一で、水に混ぜると気泡を発生させる。これはモンブランの土台部分をふんわりさせる為の物、つまりはベーキングパウダー代わりだ。
今回使うものは、魔導具で生成されたものらしい。自然界の鉱物の粉末よりも、食べ物に添加しても安全で、粉のキメが細かくて食感への影響も全く無いんだとか。
また、土属性の魔力が染みこみ栄養的にも良い効果があるそうだ。多分ミネラル補給的な意味合いだろう。ただ味は少々変化するそうで、そこを上手く整えるのが土属性亀魔物の卵(の黄身)と言う訳らしい。
「…、(良し…、と。)
それで、後は…。生地の上に乗せる…、もう1つのクリームを作るんだけど…。」ちらり…
「…、どうかしら…? サシュさん。」ハンドルを止めて振り返る…
ミハさんがずっと動かしていた鉄装置から手を離し、延々とかき混ぜ続けられていたボウルの中身をサシュさんが確認した。
「…、」ず~ん…と落ち込み顔…
「あら、ダメだった…?」
「ご、ごめんなさい、サシュさん…。やっぱり上手くいかなかったですか…。」がっくし…
事前の説明を聞いた時に、ここの工程があまりにも大変そうだったので、ちょっとした調理器具を鉄で作ったのだ。上手く役目を果たしていると思ってたんだが…。
「違う…。もうほとんど出来てる…。
いつもなら生地を焼きながら…、1時間くらいずっと…、ずっと混ぜて、ようやく出来る、のに…。」ず~ん…
どうやら落ち込みの原因は、自分の今までの苦労が、あまりにも簡単に短縮されたことに対する「やるせなさ」の様だ。
「テイラ、凄いね…。ママを回復させるし、こんなのまで作り出せるし…。」自嘲の表情…
「サシュさん、それは違います。私がやったのは、単なる改善です。貴女の頑張りが有って、それを積み重ねてきたから、そこにほんのちょっとの手助けができただけなんです。
凄いのは、このレシピを生み出した女主人さんと、受け継いで研鑽し続けたサシュさんですから…!!」
私が今回作ったのは単なる「ミキサー」だ。
理想はハンドミキサーサイズの物だったが、結果的には結構巨大化したし誇れるところはあまり無い。
ハンドルを回転させれば、3つの回転羽根が大きなボウルの中の物をかき混ぜるだけのシンプルな構造だし…。軸を分割して角度付けたりはしたけど…。
ミキサーの機構は、「遊星歯車」を参考に作った。
1つの太陽歯車周りに小さな遊星歯車3つが噛み合っていて、その外周に円環歯車が嵌まっている構造になっている。
ハンドルからの回転力を太陽歯車に伝わる様にすれば、それを受けた遊星歯車達がそれぞれ逆回転で高速に回り、そこから伸びるミキサーの羽根も自転しながら公転運動をするのだ。
機械工学を学んだことはほとんど無い私が、こんなこと知っているのも、単にアニメのおかげだしね。
蟹頭の主人公、ありがとう…!! 貴方の名前を調べたことで得た知識が、異世界にて光差す道となりました…!!
「…、まあ、これで卵の白身と豆乳油脂のクリームはいけるね。後は季節の果実を刻んだりして果汁を混ぜたら、魔導冷蔵に入れて冷やして少し固める。
それで、焼けた生地にこのクリームを山盛りにして、トーケーのクリームを細く絞り出しながら巻いて乗せる──。」
納得いかなさそうに、それでもレシピの解説を続けるサシュさん。
非魔種の私からすれば。魔導コンロとか、魔法の調理器具を起動させられる「一般人」の方がよほど凄いことをしているのだが。
「──んで、完成。
後は個人で勝手に調整したらいいよ。」
「なかなか応用ができそうね~。サシュさんみたいに上手くなれる様に工夫してみるわ。」
「後はオーブンとかの様子見しながら待機ですね。もしかしたら、私のミキサーじゃ不都合な結果になるかもですし。」
「多少変化したとしても問題無いでしょ。どう考えても時間を縮められて疲れない、あんたの道具が上。」
「いや、デカいし重いし、素人が考えた粗悪品ですって。放っておいたら数日で錆びて使い物にならなくなりますし──」
「魔法で簡単に作った物なんてそんなもんでしょ。高魔力種族じゃあるまいし──」
「いや、これは魔法じゃなくて──」
「2人とも。その辺りにしておきましょう?
両方、凄いわよ?」
「…、(違うと思う…。)」
「…。(そうかなぁ?)」
その後、雑談を交わしながら暇を潰し、モンブランを完成させた。
もちろん、その場で食べてみた。美味しかったけど、普段頂いてるやつよりワンランク味がダウンした気がする私だった。
「やっぱりミキサーがダメだった…?
いや、単に羽根の形状が良くないのか…? 羽根状だから── やっぱりワイヤー形に──? 歯車の大きさを変えて回転数を──?」ぶつぶつ… もぐもぐ…
これは挑戦しがいある…!
次回は27日予定です。




