216話 トマトの偉大さと竜火の実
「面白い味付けね~。外から帰ってきた男の人とか、凄く好みそうだわぁ。」もぐもぐ
「そうだな。オムライスは、美味い。」もぐもぐ!もぐもぐ!
完成したオムライスを、様子を見に来てくれたミハさんにも食べてもらった。
味はそこそこ好評の様だ。シリュウさんの勢いが凄過ぎて、あまり頭に入ってこないが。
「シリュウったら、がっつき過ぎよぉ。相当気に入ったのね。」
ごくん!
「…豆乳油脂で炒めた砂麦飯が、ここまで美味いとはな…。塩の利いた柔い玉子焼きも、抜群だ…!」
「そこに魔猪の肉汁だものね。なかなか贅沢だわぁ。
息子も食べたがるかしら? テイラちゃん? 作り方、教えてくれる?」
もぐ…、もぐ…、こくん
「…。…あ、はい。なんなら、追加で作りましょうか? シリュウさん、食べるだろうし…。」
「…なんか、難しい顔してるわ? 大丈夫?」
「(そんな顔)してました?」
「ええ。
シリュウに怒られたこと、気にしてる?」
気にはしているが…。自分の行動が不味かった自覚はあれども、やったことそのものに後悔はしていない。
食べる前は「オムライスで、誤魔化せたと思うなよ。」って念を感じるジト目を向けてきてたシリュウさんだけど、幸せそうにオムライスを大皿で何杯もおかわりしている今の姿からは、怒気はもう感じないし。
探索の疲れとか、神経が張りつめていたんだと思う。
相当念入りに森の中を調査したけど、結局呪具に関する異常は見つからなかったらしいし。
雑事から解放されて森の調査に行ける様になった騎士達が、入れ替わりで森に向かったらしいし、私が頑張ったことがプラスに働くと良いのだが。
「いえいえ。このオムライスもどきが目指してた味とはかけ離れてて…。落ち込んだと言うか、もどかしいと言うか…。そんな感じになってだけなんで。」
「え…。十分に美味しいわよ…? 確かにちょっと私には油が多い料理だなとは思うけれど…。」
「テイラが目指してるのは、もっと美味いのか??」
「んー…。これも美味いのは美味いんですが…。味のベクトルが──方向性?が、結構違うんですよね~…。」
私的には「洋風天津飯」…って感じの別物だった。
玉子だけ・バターライスもどきだけ・ソースだけを、味見で単品ずつ食べた時は普通に美味しかったけど、全て合わせて味わうとオムライスじゃない感が半端ない。
やっぱり「ケチャップ」って偉大な調味料なんだなぁ。あんたが味の主役やでぇ…。
「やっぱり、豆乳油脂が独特だったかしら?」
「そっちはそこまで気にならないですね。バターよりも個人的には好きかもです。」
「乳製品は大陸東部には、なかなか無いからな。」
「やっぱり「トマト」がなぁ、代えが利かないよなぁ…。」
「ああ。テイラちゃんが探してた、赤い野菜ね?」
「それが特別なのか。」
「ええ。特別でしたね…。」
生トマトもそこそこ好きだけど、やっぱり塩を利かせたトマトソースの風味の豊かさは…、唯一無二だったね…。
「話を聞く限り、私も見たこともない物だったから難しいわよねぇ…。
赤い拳大の実で、酸味と旨味が溢れる汁がたっぷり詰まってる…、なんて。」む~ん…
「汁が溢れる、って言うなら「水瓜」なんかが思い浮かぶが…。」
水が溢れる瓜で「水瓜」と書くが、読みは何故か土文字で「ミズーリ」だ。アメリカの戦艦とかの名前っぽい響きである。
しかも、これは前世で言うところの「キュウリ」である。水瓜=西瓜のはずだが、こっちの世界では「スイカ」のことではない。とてもややこしい。
ついでに言うとスイカみたいな甘い瓜も存在するのだが、貴族の食べ物としてしか流通していない為、話題に挙がることはあまりない。
「酸っぱい赤い実、って言うなら…「竜火の実」を思い浮かべるが──」
「え!?有るんですか!?」
「ちょっと!?シリュウ!? あんな危険な物を料理に使おうとしないで!?」
私が期待に胸を膨らませた瞬間、ミハさんが悲鳴に近い抗議の声をあげた。
「赤い実だし汁気もたっぷり有るから、近いかもと思っただけだ。」
「それ以上に! 辛くて、渋くて! その上、危険な物でしょう!? 何考えてるのよ!?」
ミハさんの剣幕にシリュウさんが少し引いている…。
何やら相当不適切な物であるらしい。
しかし、その名前…、どこかで…?
「リュカ…。リュウ、カ…。はっ!? 竜に火!? 1口噛れば竜ですら火を吹くと噂の魔法果実…!?」
棘の様な突起がたくさん生えた真っ赤な果実を、鈴生りにつける危険植物だったっけな!?
私の想像では、唐辛子の能力を得た巨大「ひっつきむし」がクリスマスツリーの飾りの如く生えた姿をしているやつである。
「その通りよ! 絶対にテイラちゃんが探してるのじゃないわ!」
「別に火は吹かないぞ? 辛いだけじゃないからな。
まあ、不味いし、体内魔力を乱す効果が有るから悶絶くらいはするかもだが。」
「高魔力持ちには、完全に害になるやつ!?
そんな物、入手困難ですし! 使える訳ないじゃないですか!?」
「そこらに生えてるから、入手は簡単だぞ?」
「はい!?」
私、そんなの見たことないけど!?
「それは、魔猪避けに植えてあるやつでしょう!? 壁の向こうで!
緊急時に魔物にぶつける「武器」だし! 普通の人は触ったら駄目なはずよ!?」
武器ですか…。扱いが完全に催涙スプレーなんですけど…。絶対に食べ物じゃない…。
「味は確かに不味いが、複雑な魔力を溜め込んでるから割りに食えるぞ? 暇潰しの刺激にもなるっちゃなるしな。」
【悲報】シリュウさん、暇過ぎて激不味毒を食べてた【救いようがない】
いや、まあ…。前世では、トウガラシとかコーヒー豆とか食材になってる、致死量未満の毒物ってのは存在してたけども…。
「シリュウは…、普通じゃなかったわ…。」ず~ん…
「暇をもて余した、神々の遊び過ぎる…。」呆れ…
「…。「神」扱いすんな…。」凄く嫌そうな顔…
おかしいな…? 明るい話にならない…。
まあ、しばらくはゆったり日常シーンを続けたいとは思います。
次回は21日予定です。




