213話 献身の結果と一刀両断
「ぐぅ…っう…!!」ググッ!
自らの左腕に赤い短剣を突き刺したナーヤ様。
痛みに耐える為に壮絶な顔になって、呻き声をあげている。
短剣が刺さったままの左腕から、赤い液体が、つぅーと細く流れ落ちていた…。
「身命を賭して、事に臨みます。」って言ってたけど、文字通りの意味だったとは…。
血から目を逸らしつつ、その行動力に震える。
こいつにそこまでする価値は無いと思うんだけど。
「私の、左腕を、捧げます…。
何卒…、何卒、話を聞いて、くださいませんか。」
「ナ、ナーヤ…、貴女…。」
「…、良いだろう。」
ナーヤ様の献身が身を結び、ローリカーナが話を聞く姿勢を示した。
「有り難う、ございます…。
先ず、私はローリカーナ様に、健全に生きていて、ほしいのです。」
治療する暇も惜しいとばかりに、短剣を腕に刺したまま自分の想いを話しはじめたナーヤ様。
今の国の状況、ローリカーナの実家の思惑、ベスタス様の本音等々…。かなり貴族の内情に踏み込んだ内容を絡めて、主の今後について話をしていく。
ローリカーナはその間、ただ静かにナーヤ様をジッと見つめていた。
「──ですので。ローリカーナ様。この地で反乱を起こすことは、ご自身の為に成りません。どうか、お考えを、改めてはいただけません、か…!」
「…、お前が単純な損得で動いた訳でないことは分かった。
バンザーネ、ナーヤの腕を治せ。」
「は──はっ。」頭下げ…
バンザーネが部屋の隅の戸棚から竹筒…?を取り出した。中身は回復効果の水薬が入っていたらしく、短剣を抜いたナーヤ様の腕にかけるとすぐさま傷が塞がったみたいで血が止まった。
「お手間を、取らしました──」戸惑い…
「だが。私はベスタスへの追及を止めるつもりは無い。」
おバカ貴族の口から出た言葉は、ナーヤ様の想いを拒否するものだった。
「な…!?
り、理由を、お聞かせくださいませ…!」
「…、あの裏切り者を打倒しイグアレファイトの名を知らしめる。それが私の使命だからだ。」
「ですから、それは──!」
「それ以外に。この私に、残された価値など無いのだ。」
頭の悪い子どもの様な雰囲気は薄まり、ただ真剣な眼差しで自身の思いを吐きだした。
「私を捨て駒にしようとする考えが有ることは分かっている。
ベスタスへの追及が成せれば良し。しくじったとしても、その責を負わせて追放できればこの町、この領地を弱体化させることができる。悪くない役目ではないか。」
「──!!ご自分の命を投げうってまで、そんな役目を果たそうと!?」
「そうだ。
それに、あのベスタスを引きずり落とせるのだ。悪くはあるまい?」
「何を──何を!世迷い事を仰っているのですか!」
「断じて世迷い事ではない!
私はあの男を認めん…!竜と契約できない己を笑い、竜騎士であることすら放棄し、誇りに背いて生きる奴など!ただの恥さらしだ!
私は!私は、ローリカーナ=イグアレファイト!!
勇猛たる竜騎士の血をひく者!その誇りを捨てることなど断じてない!!」
これは、あれか。
竜と契約できなかった自分が、最後に家族の役に立つ方法は、実家の思惑通りに命を捨てることだと悟ってるのか。
バカな話だ。全く以て、バカだ。
貴族で、魔法が使えて、見目も良く、五体満足で、そこそこの知能も有るのに。
竜をペットにできなかったぐらいで、人生を放り出す?
バカにも程があるだろうが。
そんなことで、周りに迷惑かけながら盛大に自殺するってか。
ふざけんじゃねぇよ。
「それは決して──!」
「黙れ──!」
「大いなる御方。その崇高なる決意、感服致しました。」
「お待ちを!テイラ殿──」
悪いけど、もう待つ気は無いです。貴女の説得は失敗ですよ。
ナーヤ様の言葉を無視してローリカーナとの会話に割り込んでいく。
「実は、私は冒険者崩れをしておりまして。今回ベスタス様にあなた様を止めるように仰せつかったのです。」
「貴様如きの低魔力で、私を止める…?笑い話にもならんな。」
「ええ。全く。笑えませんね。本当に。」
私を軽く見ているらしく、直答で返してくる。話が早くて助かるよ。
「ですので、──たった一撃。
一瞬で終わる様な攻撃を1つ出しますので、受けてくれませんでしょうか?
それで貴女様の心を動かすことができなかったなら、ベスタス様との約束は反古にし、貴女のご野望に力添えをすることをここに誓います。」
「テイラ殿、まさか──」
「はん。どこの馬の骨とも分からぬ者の力なぞ要らぬわ。
だが、一撃は食らってやろう。」
「!?ローリカーナ様お待ちを!!この者は危──んぐっ!」
捕虜女が忠告しようとするが、誓約の効果で言葉を続けることができない様だ。
2人とも安心してください。命を取る気はないし、呪う気も無いですから。
「良い良い!ベスタスの吠え面を見たいからな。己の無力を嘆くが良い!!」
「ありがとうございます。
では、一瞬で終わらせます。」
私は立ち上がって部屋の入り口付近まで移動し、バンザーネとナーヤ様を下がらせて、真正面からローリカーナを捉える。
『世界を 巡る 強き 風よ。』フォン…!
髪留めを起動させ、風属性身体強化魔法を詠唱していく。
『暖かき 風よ 巡れ、 冷たき 風よ 巡れ。
速き 風よ 貫け、 鋭き 風よ 吹き抜けろ。』
「ほう!そちらの者の補助魔法か?なかなかの風魔法だな!」
どうやらウルリの魔法だと思ってる様だが、訂正する必要もないので放置する。
エルフの言葉で詠唱を続けながら、左の腕輪から鉄の塊を出し、鍔の無い大刀へと形成。中空にして見た目よりは軽いそれを右手で握りしめつつ、真っ直ぐ前へと突き出す。
「その剣で斬るのか。面白い!やってみよ!」
『瞬閃の疾風。』コオォォ!!
余波の突風が渦巻くと同時、この魔法とセットで言うべき台詞を叫ぶ。
「卍、○──!」
突き出した大刀を形態変形させることで、黒く細い刀へと圧縮していく。
大きめの部屋の中ではあるが、広さ的に振り回せる限界を考え、短刀くらいの長さまで縮める。少々不恰好だが「刀で斬る」動作を行えればそれで問題はない。
「──天○斬月。」
そして、気休め程の反り血対策でしかない鉄の仮面を生成し、顔に装着する。
有名死神マンガの主人公の完全なパクりではあるが、何もふざけている訳ではない。
この風魔法を制御する為に必要な動作なのだ。
ただ、踏み出し、刀を振り下ろし、すぐさま退く。
その動作を、風魔法が超加速させ──
フッ!ザン!スンッ!
「は──?」ぼと!
一閃の後、ローリカーナの右腕、肘から先が肉体から切断され床に落ちた。
部屋の隅に退いた私は、反動の痛みに耐えながら表面に出ない様に取り繕って言い放つ。
「一瞬だって、言ったはずです。」
まあ、日本人が第3者目線で見たら、明らかにふざけてると思いますよね。
少なくとも作者はそう思ってます。
次回は12日予定です。




