212話 おバカ貴族との素敵な再会
「ここがマボア第2拠点…。」
私の目の前に有るのは、巨大な木目調の壁である。
第3拠点からここまでずっと外壁に沿って移動してきたが、その風景と何ら変わらない場所で案内人が立ち止まったのだ。
第2拠点は壁の向こう側、魔猪の森に接する部分に拠点機能が有り、通常は森で活動する為こちら側には人の出入りはないらしい。
この場所は森で出た廃棄物──使い道のない魔物素材や毒性のある骨や内臓──を処理する所であり、体力のある兵士や魔法が使える騎士達が主に駐在しているそうだ。
でもって。今回の目的であるおバカ貴族は、謹慎処分の一環として処理設備への魔力奉仕を行っているんだとか。
ナーヤ様の召喚した竜が上空から監視しており、そいつの魔力反応が未だ動いていないそうなので、この場所から移動していないのは確定である。
まあ、ローリカーナの監視がメインだから、その侍女であるバンザーネはこっそり移動できたってことらしいが。
「…、こちらですわ…。」
バンザーネの案内に従って、外壁の根元に存在する、魔力で開く扉を潜って中へと向かう。
──────────
まずは話し合いをする為に、1度正面戦闘をしたフーガノン様には離れた所で待機してもらう。
ナーヤ様の召喚竜を1体付けているので、私達の状況はリアルタイムに伝わるそうだ。いざとなったら強制的に介入してもらう手筈になっている。
残りのメンバーでローリカーナが待機している部屋の前までやってきた。
ナーヤ様が険しい表情で頷いていることを見て、ウルリも心の準備ができていることを確認する。
とっととやれ、との意思を込めてバンザーネに顎で指示を出す。
コンコン コンコン…
「ただ今、戻りました。バンザーネ…です。」
「バンザーネか!!遅い!待ちわびたぞ!」ガコッ…
部屋の中から頭の悪そうな女の声が響き、すぐさま扉が開かれた。うん。聞き覚えあるね、この声…。
扉を開けたのは、赤い長髪の女だった。
根元から毛先に向かって、濃く暗い深紅から艶やかで明るい緋色の段階的変化になっている。割りと綺麗な見た目してるんだけどな。
つーか、寝間着に近い部屋着なんですけど、この人…。
「ローリカーナ様!?!?
侍女はどうしました!?」
「あいつならば、バンザーネが出発してすぐに出ていったぞ!自分も仲間を集めてくると言ってな!」
「なっ…!?それではローリカーナ様がお1人になるではありませんか!?あの子はいったい何を考えて──」
「良い良い!数が必要だからな!」
赤長髪はやはり、おバカ貴族だった。
とても頭痛が痛い(二重表現)会話をしている…。
バンザーネの話では、侍女が1人付いているとのことだったがどうやら逃げ出したらしい。
敵戦力が減っている…ということで喜ぶべきか。
「お怪我を負った主を置いて勝手に行動するなど…!お身体を看る者がいなく──」
「そんなことはもう良い!
それよりも貴様が連れてきた者どもを見せよ!私自ら、裁定してくれるわ!」
お前はどこのギ○ガメッシュ王だ。
他人を見定める前に、己を省みることを学べっての。
バンザーネに付いて、フードを被ったままの私達も部屋の中へと入る。
部屋は木造。恐らく外壁と一体化している構造だろう。
ただ元々魔力耐性の高い魔木に、耐久力を上げる様に親和性の有る魔力を流しているらしいので、火魔法が放たれても火事になる心配はないはずだ。
ローリカーナは攻撃魔法の才能も大して無いそうだし、直接ここで戦闘になっても問題ないだろう。
そも。こいつの面倒な所は、自己発動の超回復魔法による虫並みにしぶといらしい生存力と実家の権力なので、制圧するだけなら簡単なのだそうだが。
「こ、こちらの者達で──」
「ほう!そちらの者、強い風魔力をしているな!顔を見せよ。」
「!!(いきなり私!?どうしよう!?)」あたふた!
「ロ、ローリカーナ様。この者は少々問題がございまして…。」あたふた!
「──ローリカーナ様。お久しぶりでございます。」ずいっ
ウルリに向かった会話の流れを断ち切る様に、フードを外しながらナーヤ様が傅く姿勢をとった。
「ナーヤ──。
ようやっと戻ってくる気になったか!!良い!許そう!」
「ローリカーナ様。お願いしたき議がございます。」頭下げ…
「何…?お前の意見など求めておらん。さっさと召喚竜で集めた内情を話せ。」
「話を、聞いてくださいませ。」さらに頭下げ…
「くどい!!
私の下に帰ってきたのではないのか!!」
「私は、この国の安寧も、ローリカーナ様の未来も守りたいのです。その為に──」
「バンザーネ!!これはどう言うことだ!!」
「…、ナ、ナーヤは、ベフタスの意向を酌むつもりの様でして──」
「そんな奴を何故連れてきた!」
「も、申し訳ありません…!!私の力不足で、奴らに、敗北した次第です…!」
「お前まで奴らの軍門に降ったのか!!」
「その様な、ことは決して──」
「もうよいわ!!」
ふーむ。これは交渉失敗かな。
ウルリに目配せして、私が動くことを伝える。
とっとと呪って、こいつの両腕を鉄屑に変換し──。
「──ローリカーナ様。」ごとり…
ナーヤ様が懐から短剣を取り出し、鞘を外して自身の前に横向きで置いた。
刀身が赤い金属で出来ている…、魔剣だろうか?
他の2人が何故か黙って見つめる中、ナーヤ様が右手で短剣を握りしめ──
──自らの左腕に突き刺した。
次回は9日予定です。




