211話 ネズミとネコと条件反射
主人公の暴力的場面が有りますので、苦手な方はスルーしてください。
こんなストーリーで申し訳ない。
「しっ!!」
「チュヂュ!」
「風爪!!」
「ヂュ──」
「ふっ!」ザン!!
猫耳状態のウルリが飛び跳ねる様に素早く移動しながら、ネズミの魔物達と戦っている。
爪に風の斬撃を纏うと言う魔猫族らしい戦闘法は、とても格好よく、そして強い。
下級の魔物だったとは思うが10匹近い群れを、1人で討ち漏らすことなく殲滅してのけた。
「あの…、死骸は埋めて処理で、よろしい、ですか…?」
「そうですね。冒険者が素材にしないのなら処分で良いかと。
ナーヤ。地面に穴をお願いできますか?」
「はい。」
「いえ!?土魔法なんか、使わないでも!?掘ります!?」
「お気になさらず。この方が早いですから。」
「ひゃ…──は、い!」
ウルリがおっかなびっくりに貴族達と会話している。戦闘時の姿とはまるで違うな。
ナーヤ様もフーガノン様も作法にはうるさくない方々だから、砕けた口調でも良いと伝えたんだけどね。
しかし、瞬殺したとは言え移動中に魔物に遭遇するとはなぁ。
ウルリとナーヤ様の感知で接敵することもなかったし、一休みできたからむしろ助かるけど。
水筒のお水を飲んで、喉を潤す。
ふぅ…、美味し。
マントを着けて体を動かしたから上がっていた体温が、ゆっくりと落ち着いてきた。
それにしても、ネズミ型の魔物か…。
「(…ん?)どうかした?」
「え?いや、何でも、ないよ…?」目ソラシ…
「や。私のこと見てたから。言いたいこと有るなら言ってよ?」
「…あー、その…。ちょっと失礼なことを考えてたんだ…。ごめん…。」
「やっぱ、丁寧な言葉、使えてないよね…、私…。」
「そっちじゃなくて…。
あー…、ほら?ネズミだから、魔猫族だと食べないのかな、ってさ?」
「あ。そう言うこと。
あいつらの肉、不味いじゃん。死にそうなくらい食べ物が無い時じゃないと食べたいとは思わないよ。」
「だよね。ごめん。」
「別にいいって。」
「あ、じゃあお詫び代わりに。はい、お水。お疲れ様。」
「ちょ。それ、精霊様の水でし──」
「──ふん。魔猫族にはお似合いですわよ。」
フーガノン様の横で待機していた、捕虜女がいきなり口を開いた。
「…、(あー、はいはい。こう言う奴だったね。)」とりま無視…
「全く…。強い風魔力を持っていたから勧誘して差し上げたのに、人間もどきだったなんて最悪ですわ。」
「…、(上から目線だなぁ…。)」
「バンザーネ。口を慎みなさい。」
「あら?下賤の者を庇うだなんて。不出来な者同士、通じあったのかしら?それとも一晩を共にでも──?」
「少し。お黙りいただけますか?バンザーネ様?」にゅっ!
「ひっ!…!」即座の口閉じ!
棒手裏剣の如く伸ばした鉄の針を、見える様に指で挟んで構える。その途端、捕虜女は悲鳴を上げてすぐさま黙りこんだ。
完全に負け犬根性が染み付いたみたい。扱いやすくて助かるよ。
そのまま永遠に口を噤んでろ。
──────────
実は既にバンザーネを軽く呪っているのだ。
私の〈呪怨〉の効力をベフタス様達に見せる為、かつこの捕虜女を大人しくさせる為に実行した。
ベフタス様がバンザーネ相手に強制的に色々な誓約を結ばせたから、こいつが呪いのことを他人に話すことは無い。主の命までは取らないことを条件にナーヤ様を穏便に案内することが、メインの誓約ではあるのだが。
シリュウさんが感知したとしても大して気にならないであろう極小規模の発動を、バンザーネの左足の小指の先に実行。手でも良かったけど、魔力操作に支障が出ない様にする代わりに反抗しない様にさせたからベターな選択だろう。
私の血がうっすら付着した鉄の針を、椅子に拘束されてる奴の足の指に突き刺す。
ダリアさんを亜人呼ばわりしたり、鈍亀ちゃんを虐めたりした時のことを思い出し、その怨みを以て〈呪怨〉を起動。
誓約 適合 〈鉄血〉発動
「っ──!んぎゃああああぁぁぁあああ!?!?」ガタガタじたばた!
まあ、タンスの角にぶつけて超絶に痛い箇所に、呪いの鉄が内側から花開いたんだ。痛覚無効を貫通する訳だし、想像を絶する痛みだろうね。耳障りで敵わないけど。
ナーヤ様は顔面蒼白になっていたが、ベフタス様やフーガノン様は動じてなかった。拷問とか慣れてらっしゃるのかな…。
「はひっ!…はっ!あ…!」ガクガク痙攣…
「もし、貴女が私達に反抗したり、主の説得に失敗した場合。この痛みが、貴女の主に、もたらされます。
そうならない様に、全力で、努力なさってくださいね?」
「ひぃっ…。」
本物の恐怖が目に浮かんでいた。これで早々おかしな真似はしないだろう。
足の指から鉄を引き抜いて、回復薬をかければ肉体的には元通りである。小指1本分、足への魔力強化が減ってるかもだが。
流石に暴力的過ぎるとは自分でも思うけれど、向こうは一瞬でこちらの命を奪える力を持った魔法使いだ。これくらいしなければ、こちらの意見を聞くことさえしないのだから仕方ない。
──────────
くいくい!
ん?なんかマントを引っ張られてる。
「…あんた何やったの…!?…恐がり様がヤバくない…!?」小声…
怯えて黙りこんだバンザーネを見たウルリが、恐々質問してくる。
「何日か前に、あの捕虜女をちょっと呪ったんだよ。言ってなかったっけ?」
「…ちょ…!?…聞こえちゃうからもっと声小さく…!」小声…
「誰に何を聞かれたら不味いの?」
「呪怨だよ…!…竜騎士達が聞いたら…!?」小声!
「いや、皆様の見てる前でやったからもう知ってるよ?」
「貴族が見てる前で呪ったの…!?」
「うん。」
「なんで!?」
「なんで、って…。もう皆様、察してらっしゃると思ったから…?」
「黙ってたらバレないでしょ!?」
「いやあ?この町をまとめる長とそのお付きの方々だからさ?
きっとこの町に来てからの諸々の情報を集めてたら簡単に推測できたと思うんだよね。
そうでなくても、ツルピカギルマス辺りが報告上げてただろうし。」
「いや!?ギルマスだってそんなことしないよ!?」
「いやいや。むしろ報告は義務だって。」
「竜喰いさんと事を構える訳ないじゃん!?」
あ、私達がわちゃわちゃしてる間に、魔物処理を全てやってくれたらしいナーヤ様が戻ってきた。
「まあまあ。もう実演した後なんだし。
──フーガノン様、お騒がせしました。もう大丈夫なんで出発しましょう。」
「(ちょ!?)」
「いえいえ。こちらこそお手数をかけて申し訳ない。」
「(何なんですの!?この状況は…!?!)」無言の憤慨…!
「…、(バンザーネ…。)」
「ナーヤ…!憐れむ様な目を向けるんじゃ──」
「ん?」にっこり鉄棒手裏剣出現!
「っ!」口閉じ!
条件反射が弱いのかなぁ。すぐに口を開くな、こいつ。
もう一回同じ所に鉄を刺すべきか…?
移動に問題が出る方が面倒か…。やれやれ…。
ちなみに、女主人さんにはアクアの生成水をたっぷり置いていってるので、主人公が居なくても順調に回復しております。
むしろウルリは主人公を無事に帰すことがメインです。
次回は6日とさせてください。




