21話 回復と尋問
角兜の少年は、その日はため息をついて部屋を出ていった。
私はアクアに水を少しずつ貰いながら、ほとんど寝て過ごす。
腕は在った。なんかてらてらした液体が染みた布でぐるぐる巻きされてたけど。
厨二病かな? ついに両腕が疼くようになったか。
ダブル! 邪○炎殺──なんて軽口を言わないとやってらんないくらいに痛い。痛いってか重い? 腕の状態を理解した途端に感覚が戻ってきた。痛覚があるならまだ生きてるのか、この腕。
そんな感じで多分数日後、少年が運んでくる潰した豆のお粥を少量口にできるようになった(何故か少年がスプーンで口に運んでくる)頃、なんとかまともに声が出るようになった。
それにしても、お風呂に入りたい。スティちゃんにお湯で体を拭いてほしい。
もう素肌見せられないとか言ってる場合じゃあない。かなり辛い。もうどうでもいいから、辛い…。
…いやあ、ね? 気づいた訳ですよ。
今の私の服装、戦ってた時と違う。
それは当たり前なんだし、ベッドを汚さない為にも着替えは助かる。
だけど、それって、
素肌、見られたよね…?
今来てる服は多分ハロルドさん辺りの寝間着っぽい。それは良いんだ、有り難いし。
でも、誰が私を着替えさせた?
スティちゃんになら許せるけど、一人で意識無い私を着替えさせるとかまず無理。
レイさん辺りなら着替えさせずにベッドに置く気がする。
ってことは、この少年に着替えさせられた可能性あるよね??
まあ、ブラもどきは外されてるけど、パンツはそのままで助かった。色々とセーフ。
いや、胸見られたならアウトか。潰すかな。
まあ、このパンツは本当に特別で大切なものなんで、動けない現状大いに助かってます…。
うん、ちゃんと機能は動作してる。マジ助かる。
でも、裸見られるだけでも最悪なのに、お腹、見られてるよね…。
いや? 見たならこんな風に接するのはおかしいか??
あー、もうとにかく嫌だ…。
「もう喋れるか?」
「あ、はい。なんと、か。お世話、様です。」
仰向けでの食事よりはマシだけど喋るのも割りと大変。
腕使えないから起きれないし。この人も背中押してくれないし。いや、触れられたくないから良いんだけど。
「礼はいい。今からする質問に答えろ。」
「…はい゛。」
ついに来たかぁ…。
ここ数日ずっと考えてたけど、この人、多分冒険者だ。
来る予定の領主の部下がこんな奇抜な格好はしないはずだし。見た目は少年だけど、多分中身は違う。
エルフは高い魔力を持って生まれ、その魔力が肉体の存在強度を高めるとかで、肉体の成長が遅い。
この人も高魔力を持ってる類いだろう。
子どもだと思って接したら終わる。
しかし、こちとら前世と今世合わせて40代だ! 負けるかぁ!(泣)
そんないつも通り混乱してる私に、角兜の少年が鋭く問いかけてくる。
「…あんたは、『何』だ?」
「…。」
何者だ、でも、何をした、でもなく、正体を聞いてきた、か。
アウトアウト、もうバレてーら。
「…『〈呪怨〉持ち』、で、す。」
表情をより険しくする少年。どう見ても子どものする顔じゃないな。めっちゃ迫力あるね…。
「ついへに、つい、で、に言えば、非魔種でふ…。」
緊張なのか疲れてきたのか呂律が怪しくなってきた。
険しい表情のままこちらを見てる少年。かなり激情を抑えてる感じがする。
どこかでムカデ女みたいなのに家族を殺された、とかかな。
ま、どうせ死ぬつもりだったんだし、処刑されるのも仕方ないって諦めつく。
実験のサンプルで牢獄、とかなったら延々と痛いだけの生活だろうし、流石に自害しよう。
体内の血液全部を鉄にしちゃえば一瞬で死ねるしね!
「…あんたは、10日以上前に食べ物を求めてこの村に来た。で、合ってるか?」
「…? いえ、来たのはそのくらいだと思ひますへど、んんっ! けど。理由は、手紙を渡しに、ハロルド、さ、んて方に…」
「茶色の髪の子どもの家に居候してたか?」
「?? スティちゃんは、藍色…、きれいな深みのある青、の髪の女の子、ですよ?」
なんかおかしい質問だな。私が寝てる間に村の人達からちゃんと話聞いてないのかな?
扉開いた時にスティちゃんと言い合ってるみたいな声が聞こえたから、直接会話してると思ったんだけど…。
「あの金属はなんだ?」
「あれは…私が、〈呪怨〉の力で、生み出したものです…。血を、血液を、金属の鉄に変え、れるんです。」
「…。なんで村にその呪いの金属をバラ蒔いた?」
「私の血か、ら作った鉄は魔法を散らす効果がある、んです。角兎が出現したから、泊めてくれたお礼のつもり…でし、た。」
「なら、これは?」
ベッドの影から、スティちゃんにあげた鉄製50音表が出てきた。
「えっと文字を、覚える練習の為に、です、けど…?」
これってもしかして犯罪者として尋問されてる?
刑事と犯人の会話みたいだ。
さっきのズレた質問って真偽を確認する為の誘導尋問みたいなこと?
「なんでそれを呪いで作って、秘密にしてた?」
「え? いや、紙が、なかったし…。えっと? …作った鉄は形をイメージ…、考えた、通りに変形できる、ので紙の代わり、です。秘密にしてたのは、その時は、村の方々に能力を見せるつもりがなかったので。」
「…。〈呪怨〉を、紙の代わりに使った、だと?」ギロリ…
ええぇ…なんか怒ってる? いや、まあちょっと非常識かな、って思わなくもないけどね? 仕方ないじゃん。
「私、魔法、使えないから、土魔法みたいなこと、固、体生成とか、固体変形、とかができて、便利、なんです…。ごめん、なさい。」




