207話 取り調べと貴族の提案
この場に居る、イカれたメンバーを紹介するぜ!
町の貴族長!ベフタス様!!
赤熊とか言う異名持ちの凄い方!
シリュウさんと仲良い豪快貴族様だ!
おどおど侍女!ナーヤ様!!
沈痛な面持ちのまま佇んでいる!
千里先まで見通す(実際のところは知らないけど)眼を持つ女性竜騎士様!
色白優男!フーガノン様!!
穏やかな微笑みの裏には戦闘狂の本性が有るらしい!ドラゴン召喚できるしブレスも吐ける、武闘派なお方!
白く見える魔法腕で、捕虜の首を握りしめてる光景はヤバいの一言だ!
おバカ貴族!バンザーネ!!
口や手を覆う拘束魔導具がとっても危機的!首根っこを物理的に押さえられてる姿はとても貴族とは思えない!
場違いにも程があるだろうが!?なんでこの場に居るんだよ!?
その他のメンバー紹介といこう!!
私!!そして、ウルリ!!
なんてこった味方が弱い!
貴族と顔を合わせる機会も有るはずの上級冒険者は完全沈黙中…!その姿、正しく借りてきた猫状態…!そもそも人間形態だし、勝ち目無し!
以上!!
現場からお伝えしました!!
スタジオ(どこだよ)のシリュウさーん?そちらお返ししまーす。
…ダメ?
ですよね~…。まだ魔猪の森ですもんね~…。マジピンチになったら〈呪怨〉の発動で救援信号送りま~す…。
アホなこと考えても仕方ない。現実と向き合おう…。
草原でおバカ貴族に絡まれた翌日。
入れ換えたベッドの土の具合と、精神的に疲れ果ててたエギィさんの様子を確かめる為、迎えにきたウルリと朝からお店に向かっていたのだが。
その途中で、沈痛な雰囲気バリバリのナーヤ様が私達に声を掛けてきたのだ。「昨日のことでお2人に確認したいことが有る…、と専任官が申しております…。指令所までご足労願えますか…?」と。
拒否権の無い実質的な命令に渋々──表面的には素直に──従って、町の北に有る建物の中に案内されたところ、
聞き取りの文官等ではなくガチのベフタス様本人が応接室的な部屋の中で待っていた…。
…と言うのが私が現実逃避に、バンドメンバー紹介風ナレーションをしていた理由だ。
「悪いなぁ、わざわざ呼び立てちまって。
ああ、畏まらんでいい。直接言葉を交わしてくれや。」
貴族対応の挨拶をしようとした動きだしを見て、ベフタス様がまたもや無茶な指示を出してきた。
行政府的な建物内で直答って大丈夫なのかなぁ…。知らない貴族様達は居ないみたいだけども…。
「…寛大なお心、感謝いたします…。」
「シリュウと喋る時にみたいに、砕けてくれて構わないぜ?」
「…いえいえ、そんな畏れ多いこと…。」
「ここに居るのは礼儀に頓着しない奴だけだから、安心していいんだが…。まあ、自由にしてくれや。」
「…むぐぐ、」
「お黙りなさい。」ぐっ!
「っ!」体が強張る…
捕虜女が文句を言おうとしたのか呻き声をあげるが、即座にフーガノン様の首締めが強くなって強制的に黙らせられる。
何なんだろうなぁ…。この状況…。
「今日は確認したいことが有ってな。昨日の件で見聞きしたことを教えてもらいたい。」
「了解しました。詳細にお話いたします。」
「頼むわ。」
花美人の女主人さんの為、栄養豊富な土を南の草原に採りにいったこと。
その帰りに荷車が壊れて修理をしていたこと。
フード付きローブの人物が近づいてきたこと。
魔法を撃ってきたので反撃に出たこと。
制圧したらその人物が女貴族だと分かり動揺したこと。
困っていると、ナーヤ様がやってきて手助けしてくださったこと…。
途中から許可を貰って、鉄人形を使った当日の位置取り模型まで披露して、超詳細に解説した。
私は貴族に手を出したけど、正当防衛ですよ~。
その件もナーヤ様との取り引きで問題無いことになってますよ~。
そんな念が届く様にそれはもう入念に。
「ふむ…。なるほどなぁ。
ナーヤ。この話に間違いないな?」
「…、はい…。間違い、ございません…。」
ナーヤ様の沈痛な表情が一段と強くなっている。私の解説、なんか不味かっただろうか。
そう言えばナーヤ様は昨日、他の貴族が私達のところに調査に来ることはないみたいなことを言っていた。が、現実として私達は今ベフタス様の前に居る。なんかしら想定外なことになってんのかなぁ…。
まあ、ここで隠し立てしても不利になるだけだし、どのみち全部喋るけど。
嘘ついて話が拗れるくらいなら、正直に話して処罰される方が気分的にはマシだし。
「そっちの魔猫の嬢ちゃん、上級冒険者だったな?」
「っあ、はぃ…。」
「確認だが。そこのバンザーネはあんたを従わせようとした、で間違い無いか?」
「──ぁぃ…。」こくこく!
上手く声が出ないほど緊張しているのか、頻りに首を縦に振ってなんとか肯定の意思表示をするウルリ。
めっちゃ挙動不審だ。逆に怪しまれるよ?
「どうやらそこのバンザーネは、戦力を集めて反乱しようとしてたようでなぁ──」
私の話から裏付けを取ると同時に、捕虜女の反応──多分、魔法的なやつ──から事実を見極めるのがこの場の目的であったそうだ。
ローリカーナのその仲間達は、ベフタス様の警告とフーガノン様の攻撃で相当数が減った為、その穴を近場の冒険者で補うつもりだったらしい。で、騎士や兵士の目が多い北側ではなくバレにくい南側で使えそうな冒険者を探していたら、風属性魔力がそこそこ有る魔猫を見つけた…。そんな流れであるそうな。
事情をわざわざ伝えてくれるなんて、良い貴族様だなぁ…。次からは書面で送ってくれると助かります。
なんなら教えてくださらなくても大丈夫です。そっちで勝手に処理してください。
「貴族の面倒事に巻き込んじまって悪かったな。」ぺこりと頭下げ…
「!?んぁ?」
「!?
…私達の行動が、治安を守る一助になったのでしたら幸いです…、とウルリも申しております。」
「え。あ、はい!そうです!!」
「そう言ってくれると助かる。」
「この町を守ってくださっている方々への、当然の奉仕ですとも。ね?ウルリ先輩?」
「!?そ、そうね!?」
フーガノン様が、捕虜女の目と耳を塞ぐ追加の拘束をかけはじめた。取り調べは終わったらしい。
良し。このまま良い感じにまとめに入ってこの場を去ろう。
「そうだ、これを返しておく。」
ベフタス様の指示でナーヤ様が運んできたのは…、あ、フード女に付けてた鉄の拘束具ですか。
こいつに直に触れてたやつとか再利用したくないし捨てておいてくだされば──いや、それはダメか。仕方ない、私が処理するのが無難だな。持って帰って、汚れた所を薄く剥がして捨てるとしよう。
「にしても、変わった金属だな。何て魔法金属なんだ?」
「私はただの鉄だと思っております。」
「魔力を通さないってのは面白い性質だな。」
「いえ、多少弾くことができるだけで、完全に遮断する訳ではございません…。」
「そうなのか。
生成するのにどれくらいの魔力が──」
「朝昼晩の食事で、拳大の塊が数個ほどになりますかね──?」
おやぁ?私の鉄に興味をお持ちで…?
あまりよろしく無い流れかなぁ…?
「ふむ。これは頼み事なんだが…。この金属で作った小屋を、譲ってはくれねぇだろうか?」
ちょっと1回お休みします。話の筋道が弱いんで…。
次回は23日予定とさせてください。
台風が近づいてますが、皆様お気をつけてお過ごしを。




