205話 口封じとスライディング土下座
根暗で過激な主人公の横暴が続きます。
致命的なことはしませんが、苦手な方は無視してください。
兎にも角にも、まずは「口封じ」をしよう。
鉄ハンマーを振り上げて~、
「むぅ~~…!?んん~~っ…!?」
鉄で頭と両手を拘束されて動けない、フード女の顔面に~…、
「んぐぅ~~…!?」
振り下ろす!!
ビュンッ!!ガイン!!!
「…っ…………、」……ぱたりっ…
超エキサイティング!!
…いやぁ?大した感慨は無いなぁ。
ただひたすらに煩わしいだけだ。
「悪は、滅びた…、と。」ふぅ…
「やり過ぎだって…!!(泣)」ブルブル…!
「やだな~、ガチの撲殺はしてないって。
鎚は中空にしてあるから軽いし、顔の前に差し込ませた鉄板に当てたから直撃はしてないし。とりあえず気絶させとく、って言ったでしょう?」
「いや、手段!!?」
「鈍亀ちゃんに威嚇の魔法を撃ち込んだんだから、顔面で金属を激突させても、因果応報。無問題無問題。」
「大有りだよ!?」
「非魔種ならともかく。お貴族様のくせに単なる衝撃だけで気を失うとか、胆力が足りてないよね。」
「誰でも気絶するよ!?」
私の戯れ言にしっかりツッコミを入れるとか、真面目な奴だねぇ、ウルリ。
「さって。気絶してる間は話を聞かれることは無いし。この後どうするか、考えるとするか~。
ウルリ?
とりあえずエギィさんと鈍亀ちゃんと、町に戻ってくれる?」
「え…!?」
「こんな頭がおかしい奴でも、お貴族様はお貴族様らしいし。どう対処するにせよ、無関係な一般市民は遠ざけておくべきかな、って?」
「いや、あんたはどうすんの!?」
「ん~?とりあえず選択肢は…、
このまま放置。
殺害して埋める。
他の貴族に引き渡す。
…くらい?」
「物騒なこと、止めて!?!
私はテイラの護衛でもあるし、終わるまで側に居るからね!?」
「ウルリはちゃんとした冒険者なんだし、町の為にも無関係でいるべき──」
「だあああ!?あんたが居なくなったらママの治療ができなくなるんだよ!?自重して!?」
「いや、日光とか肥料がプラスに働くって分かったんだし、他に代用手段なんていくらでも有るでしょ。
アクアの水だって、回復ポーションとかでなんとかなるって。」
「ならないし!!
そんな薄情な真似できないってば!?」
「魔猫族なのに律儀だねぇ。」
「今関係無いでしょ!?!?」
自分では私を説得できないと思ったウルリは、小屋の中のエギィさんを会話に引き入れようと動く。
しかし、エギィさんは私の凶行に完全に及び腰だ。
「あの人、ヤバ過ぎるじゃん!?」「ギルマスを正面から打ち負かすヤバい奴だって言ったでしょ!?」「あれ、ガチなの!?」「ガチのマジだよ!!!」「なんでそんな人が下級クエストに付いてきてんの!?」「ママの為だよ!」「意味分かんないじゃん!?」「本当にね!!?」
と、混乱した会話が聞こえてくる。
うん、鈍亀ちゃんと共に離脱してもらうのが良いと思う。
現状の再確認しておくか。
今居るのは、町の南西側の草原。
周囲に人の気配は無く、距離的に町の警備にも気付かれてはいないはず。
時間はそろそろお昼。日差しが強くなってマントが無くても活動できそうかも。
甲羅に籠ったままの亀の魔物はなんとか町に帰してあげたい。岩の檻は勝手にボロボロと崩れたから、物理的には移動できるだろう。
荷車は完成してる車輪・車軸を嵌め込めば動くはず。最悪、土ごと廃棄するのも視野に入れるべきか。
しっかし。傲慢フード女の、目的とか意図が不明過ぎるなぁ…。こんな町の外で正体隠して1人で行動とか謎過ぎる。
ウルリを戦力に加えたい…みたいなこと言ってたけど…。貴族が私兵を雇う的なことなんだろうか?
普通にお付きとか護衛とかぞろぞろ引き連れて、自分の家名を全面に出して偉そうに命令するとかならまだ分かるんだが。
ん~…。最悪、シリュウさんを召喚すれば超強引に解決には持っていけそうではある。
ベフタス様の協力をもぎ取るも良し。骨まで消し飛ばす闇色炎で痕跡ごと全てを灰にするも良し。超パワーの移動で国外まで運んで適当廃棄するも良し。
まあ、シリュウさんに人殺しさせるのは無いけど。他の選択肢なら貴族嫌いなことを加味して、新作料理レシピいくつかで請け負ってくんないかな…。
私が引き起こしたことだし、自己解決するべきかぁ…。
やっぱりこのまま町の警備に引き渡すのが無難かなぁ。「草原で変な女に絡まれました。反撃したら気絶して誰だか不明なんです。」的な。
そうだな。貴族だから面倒なんだ。
大した会話もしてないことにして、「単なる不審者」を捕まえたって体で──これだ。これなら、諸々が丸く収まる気がする。
「ウルリ~?相談があるんだけどー?」
──────────
「うん、多分…。さっき言ってた奴…で間違いないと思う。」
「そうか~…。」外した鉤爪を再度顔面に…
相談した後ウルリにフード女の顔を確認してもらったら、一応知り合いの貴族であることが判明して不審者作戦は遂行が難しくなった。
なんとこいつ、私とも会っていた奴だった。顔は知らなかったけど…。
この町に来た時に絡んできてシリュウさんの威嚇火柱で逃げた、あの頭の悪そうな女。イグアレファイトとか言う竜騎士の名家の娘、ローリカーナ。
ギルドや町の貴族に迷惑をかけまくって、最終的にドラゴンブレスで吹き飛ばされたらしいダメ貴族。
あの時あの女に付き従っていたキンキン声の女騎士が、今目の前で、白目剥いて口から泡吐いて気絶してるフード女と同一人物らしい。
思い出してみたら声の感じはそっくりだった。ウルリも名前は知らないが、他人のフリをするには無理がある、と。向こうはウルリのこと知ってたか微妙な反応だった気もするが…。
「う~ん…。どのみち1番無難なのは、ベフタス様に引き渡すことかなぁ…。シリュウさん居ないから、不安だけど…。」
「いや、私が門の兵士に説明するよ。一応上級冒険者だから、話は聞いてもらえるはずだし…。
貴族への反逆罪も…、なんとかなる、はず…。」
「いや、フード女自体が、ベフタス様に反逆してるんだし大丈夫だよ。」
「その話、良く分かんな──
!!誰か来る!」
「敵の増援!?」
「不明!
けど。あれ?なんか、弱気な感情が乗った魔力波が──?」
「え?でも、とりあえず逃げるか何かした方が良くない…?」
「この感じは、平気か、な??」
町の方から妙な感じにこちらへと向かう人が居るらしい。敵意と言うか危険は無いとのことだが…。
そちらに視線を向けていると、茶髪の若い女性が全力で走っているのが見えた。
「あれは確か…、ナーヤ様…?」
「やっぱり…、平謝りしてる…。」
ナニソレ?
「どうかー!どうかお待ちをー!!」ズザァ!
何やら懇願を叫ぶ彼女が繰り出したのは、草原の地面で自身の顔を擦り下ろす勢いの、超低姿勢スライディング土下座だった…。
小屋の中の下級冒険者「また何か来た…(泣)」
次回は14日予定です。




