204話 逆テンプレ、あるいは壮大に何も始まらない浦島太郎
うにょーん… ちまちま…
まあーるく車輪… 骨太シャフトの枠組み形成…
現在、草原の土を採取した帰路の途中。
即興で作った鉄の掘っ建て小屋内部にて、荷車の車軸を修復している。
うん。荷車が壊れたんだ。
こう、車輪を繋ぐメイン車軸が、バキッ!!とね…。
私とウルリは荷台に乗らずに横を歩いてたから無事だし、エギィさんも鈍亀ちゃんを引いて移動してたから被害はしなかったんだが。土が満載の荷車は完全に破損し立ち往生となった。
鈍亀ちゃんも直接の被害は無くて良かったよ。
ちょっと衝撃に怯えて、甲羅に引き籠っちゃったけど。
「悪いね。私の点検不足で。」
「いえいえ~、エギィさんだけのせいじゃないですよ。調子に乗って土を積み過ぎたのかもですし、シャベルを3つも出した私にも責任がありますから。」
「にしても、金属の魔法って便利ね。」
「…まあ、私のこれは「擬き」と言うか…。空中に浮かべて射出とか、1度に大量展開とかできないんでそこまで便利でも…。」
「そうなんだ。でも、十分凄いじゃん。」
「今だって手持ちの鉄だけじゃ足りないから、壊れた車軸に鉄を纏わせて嵩増ししてるくらいなんですけどね…。」
「長く走ったり、ポーションの回復が多少速い程度の身からしたら、羨ましいくらいだけど。」
体内魔力の操作ができる時点で、非魔種より上なんだよなぁ…。
ウルリと2人がかりとは言え、あんな重い荷車を持ち上げれるんだから、ねぇ…。
ジャッキがあれば私1人でも作業できたかもだけど、生憎アレの構造を知らないから再現もできないし。
持つべきものは、魔法が使える仲間ですよ。
──────────
カン!カン!…カン!!
「!」
「ん?ウルリ?」
極薄の鉄壁を何かが連続で叩く音がした。
「警戒の合図!何か有ったっぽい!」
「え!?」
作業中断。
鉄の壁に形態変化で覗き窓を作成する。
ウルリは…そこか。
鈍亀ちゃんの甲羅の側に立ち、小屋の外──お昼近くで燦々と太陽光が降り注ぐ草原の方を見てる。
魔物でも近づいてるんだろうか?この辺り一帯は下級冒険者でも戦える程度のやつしか出ないはずだが…?
雑めに出口を作り、エギィさんと一緒に小屋を出る。
「雨瑠璃?」
「人が近づいてくる。数は1。…もしかしたら、貴族…かも。」
「貴族…!?」
「魔力の流れ的に…ね。
とにかく2人は中に居て。私が対応する。」
「いや、1人じゃ──」
「任せた!」
「エギィさん!?」
「上級冒険者だったら大丈夫!」
「えぇ…。ウルリ!何かあったら出るからね!」
「…、」手ヒラヒラ…
ウルリからの「とっとと戻れ。」のジェスチャーに従い、鉄小屋に入り出口を閉める。
覗き窓をもう1つ分作り、外を窺い息を潜める。
強化した視界に人影が見えた。馬とかにも乗らず、徒歩でこちらに向かっている様だ。
草原に溶け込む薄い緑色のフード付きローブを着ており、詳細は分からない。
つーか、こんな草原を、貴族が歩いてるとか日常的に有るのか??
普通馬車・乗馬での移動が基本だし…。単身、だとしたら作戦行動中とかか…?
もしかして戦闘演習でもしてる領域に私達がいつの間にか突っ込んだりした…?
悩んでいる間にも距離は縮まり、遂にウルリが声を発した。
「何か用でしょうか──?」
「ふん。」
フードの人物が右手を上に上げると同時、大剣くらいのサイズの岩塊が4つ出現した。
土魔法だろう。攻撃してくる気──?
「あなた、夢魔か何かでしょう?口答えは結構。
私達の偉大な計画に組み込んであげる。平伏して、従いなさいな。」ドヤ!(威厳を出してるつもりの雰囲気…)
「…??」混乱中…
いきなり何言ってんの…?こいつ。
声色的に女みたいだけど…、あれ?何か聞き覚えが有る気も…。
はて?どこだ?下の姉上様っぽいセリフではあるが、ここに居る訳も無し──
「平伏なさい、と。言ってるでしょう!」スッ…!
「!!」
フード女の周りから、岩塊が射出される。
ウルリはすぐさま飛び退いて躱すが、岩塊はそのまま地面に突き刺さ──
あの位置は!!
「何するの!?」
「汚ならしい亀の魔物…。これ、あなたのペットでしょう?これ無しに移動できないんじゃないからしら?
従う気になった?」
甲羅に籠ってジッとしてる鈍亀ちゃんの周りに、魔法の岩が檻の様に囲う。
このフード女…!!
「いきなり、意味分かんないだけど!?貴女、何様!?」
「さあ!とっとと従いなさいな!醜い夢魔──」
身体強化全開。
壁面開放。全力加速。
真っ直ぐ行って、ぶっ掴む!!
女が私に気づいて反応しようとするが、数段遅い。
鉄を纏い巨大な鉤爪となった右手を、フード女の顔面目掛けて突き込む。
頭を殴る勢いの右手が、女の顔に激突し、がっちり掴んだ。
「何──!?ぃがっ!!」ガンッ!!
アイアン・クロー(物理)…!!
そのまま地面に押し倒す。
下顎と頭を完全固定。これで口は動かせない。魔法詠唱は止めた。
左手と右足を使って女の両手を鉄で殴打、そのまま鉄を打ち付ける様に包み込む形で両手を封じる。
鉄の鉤爪の隙間から見える女の右目が、困惑と混乱を私に訴えかけていた。
「鈍亀ちゃんに手を出す奴は、ぶっ潰す…!!」激憤オーラ全開…!
「私じゃなくて!?」
「ウルリィ!鈍亀ちゃんは無事!?」
「無事に決まってんでしょ!?甲羅の堅さは上級並みだよ!?」
「怯えたり不快に思ったりしてないか!って話!」
「ずっと寝てるって!?」
「ならば良し!!」
「いや、良くないってー!?どうすんのそれ!!」
改めて、私が組み敷いた女を見る。
…。
あれだな。貴族の馬車が壊れた所を助けて信用を得るシチュエーションとか、小説の王道だよね~。
立場とか状況が丸っきり逆さまだけど。
いや、そうではなく。
亀を虐める悪者を退治したんだし、これから竜宮城行きかな?
この子は陸亀だし、ここに海は無いんですけど。
はっはっはっ、テラワロス。
…。
「…。…どうすっかな…。」
次回は11日予定です。




