203話 体温調整とマントの重要性
「鈍亀ちゃ~ん♪今日はよろしくね~。」ゴリゴリ!
「ギュ~♪」もしゃもしゃ♪
なーんか唐突に過去のことを夢に見ちゃって少々憂鬱な気分になっていた今日この頃。
シリュウさんとの旅に慣れてからはあんまり見なくなっていたんだけなぁ…──あれ?もしかしてシリュウさんと離れ離れになって寂しいのか、私…??
いやぁ?そんなことあるかぁ?どうだろ…?
そんな感じにモヤモヤ?してた私だったが、大人しくて愛らしい亀の魔物と出会って鬱々気分は吹き飛んだ。
スキンシップでリフレッシュ!!
この子は今から私達と帰りの荷物を運んでくれる大切な労働力なのだ。阿ることに何の問題もないのである!
「…、ねえ、ウルリ。あの人、大丈夫…?」
「…、まあ、多分…?」
鉄ブラシで甲羅を擦る私に、同行者達から白い目が向けられている気もするけど、問題ないのである!!
──────────
今日はウルリとエギィさんと一緒に、町の外で土の採取クエストに行く日だ。
「蜜の竹林」の女主人さんが少しずつ体調を回復してきた中で、困り事が発生した。
私は全く気づかなかったのだが。花美人のママさんの体から、土のベッド──特に砕いた魔猪骨を入れた鉄筒の周りに、とんでもない量の根が張られていたらしい。
僅かに起きたママさんに質問したところ「とっても美味しいわぁ~…!」とのことで、大変気にいってくれていたそうだ。
スープをとった時に骨は大量に出たし、その一部が屋敷に有る。土の肥料になるから実験したいと頼んで、灰なんかと一緒にシリュウさんが置いていってくれた物だ。
これを使って本格的に土の富栄養化を図る作戦を発動、町の南側に広がる草原へと入れ換え用の土を取りに行くこととなったのだ。
──────────
顧問さんから貰った食客としての身分証明書を提示すれば、何の問題もなく町の門を通る許可が下りた。
ふぅ…、ちょっと緊張したけど、今の私には後ろ楯が有る。そう怯える必要も無いってことだな。
私は晴れやかな気持ちで鈍亀ちゃんが引く荷車へと乗り込み、ゆっくりゆっくり門を潜る。
その向こうに広がる、久しぶりの雄大な景色に感嘆の息を──
「──寒!?」
「へ?」
「どうした?」
寒い!?何これめっちゃ寒い!?
秋の涼しい空気ってレベルじゃないよ!?真冬直前くらい寒いんですけど!?
「ちょ。大丈夫?」
「無理!!
寒寒寒!?」ぶるぶる!
「もしかして体温調整の魔法、使えないの?」
「無理ですー!?」
こちとら魔力無いなんすよ~!!
ええい!仕方ない!
こうなったら、火の腕輪起動…!
「身体強化…!!」
説明しよう!
私が扱うアーティファクトは外に向かって魔法を放つことはできない!しかし、体内に作用する魔法なら発動可能なのである!!
今回は体に備わっている発熱能力に強化魔法を施し、無理繰りに体温を上昇させているのだ…!!
「寒死するかと思った…。」ふぅ…
「…、(さむし、って何?)」
「なんだ、火属性魔法使えんじゃん。」
「いや、これ、ちょっと色々問題が有って…。」
「うん?」
「火属性で気温操作してるんじゃなく、体内の発熱能力を強化してるだけでして…。」
「…、一緒じゃん?」
「過程は同じなんですけど…。これは結果的に体内の熱量をガンガン消費するんで…。」
「…、(かろりー?)」
「…、(って何?)」
「要するに。お腹減って、そのうち倒れます…。」
「何それ…。」
「ダメじゃん…。」
──────────
「なるほど…。町で冒険者の人達が皆マント付けてたのは、防寒対策だった訳か。」ほくほく…
「マボアはだいぶ北に有るからね。他所から来た人にはこの時期の寒さはキツいかもね。」
ウルリが簡易魔法袋に入れてあったマントを貸してくれて、装備した私はほっと安堵の息を吐く。
いやぁ、マントってやっぱり暖かいね。体温を逃がさず包みこんで、冷気はシャットアウト。野宿の時は布団や枕の代わりにもなり、多少の雨避けにもなる。
やっぱり冒険者の必需品だな!(社会不適合者の学習能力ゼロ発言)
「にしても町中と温度差、有り過ぎじゃありません?」
町の中がずっと気温変化無かったから、完全に油断してたよ。シリュウさんもダリアさんもマントなんか用意してなかったし。
「領主…じゃないや。町の貴族様、が発動してる結界で暖めてくれてるらしいよ?」
「ああ~…。専任官…のベフタス様か…。」
「そう、それそれ。」
「猛烈な雨とかになったら物理障壁の結界を起動してくれたりするし、良い貴族様だよ。」
「それは凄い。」
「ウルリは会ったこと有るんだっけ?」
「まあ、数回?
会話するのはリグだし、顔見ただけだけど。」
「上級冒険者様は凄いねぇ、住む世界が違うや~。」
「や。エギィも同じ店に住んでるし。何言ってんの。」
「私は下級冒険者なんで~。」
「はいはい…。」やれやれ…
階級が違う冒険者でも、冗談を言い合える家族みたいな存在なんだな。あのお店は雰囲気の良い所の様だ。
ママさんの人柄が窺えるね。寝惚けて私のことを「夢魔の女王」呼ばわりする、おっちょこちょいさんでもあるけど。
──────────
この寒い中でも青々と葉を付けている生け垣?に近づき、鈍亀ちゃんと荷車を停め置く。
鉄でシャベル──いや?スコップか?
私の中では手に持つ小さいのがスコップで、腕の長さくらい有る大きいのがシャベルなんだが…。どうだったっけ??
まあ、いいか。ともかく土を掘る道具を3本形成して、と。
さあて、久々のちゃんとしたクエストだ。私は単なる付き添いみたいなもんだけど、付いてきた以上は気合い入れて頑張るか!
って。この生け垣、良く見たら岩茨だ。
土属性魔力で幹や枝がとんでもなく硬い魔法植物ですな。
…え?
もしかして、岩蟻も…!?
「ね、ねぇ!?これってロックプラントだよね!?
ロックアントも近くに居るんじゃない!?」
「急にどうした?」
「大丈夫だって。」
北の魔猪の森ならともかく、巨大な外壁で仕切られた南側に危険な魔物は早々現れないらしい。
流通を守る為にもきちんと計画的に駆除されており、人の目も多く管理が行き渡っているそうだ。
なので、この辺り一帯の草原は実力の低い下級冒険者達の活動場所なんだとか。
攻撃魔法を放ってくる魔物は根絶やしにされる一方、害もなく素材としてそれなりに優秀な植物は残され、普通の昆虫達と共に生態系を為しているらしい。
「ちゃっちゃと土を集めるよ。上級者冒険者様もキビキビよろしくね。」
「もちろん!ママの為に良い土、集めるよ!」
「頑張ります。」
岩茨の周りの栄養豊富な土を、3人がかりで荷車へと運んで積み上げていく。
この量の土を軽々引けるとか、鈍亀ちゃんは凄いなぁ…。後で、葉っぱをあげよう。
途中で暑くなってマントは脱いだ。ひんやりした空気が、汗をかいた体にむしろ心地良かった。
次回は8日予定です。




