201話 過去視点 前編・親友の祝勝会
200突破記念の過去話です。
作者のプロット作成能力はゴミなので、色々アラが有るかもです。適宜修正するやも。
長くなりすぎたので、2つに分割しました。
エルフ言語の表現を「〔〕(亀甲括弧)」に変更しました。
「レイヤの!下級冒険者、昇格を祝して!
かんぱ~い!!」
「…むぅ。」ぷくーっ
寂れた港町トスラ。
かつてはなかなか大きい町だったことを今に伝える、空き家が建ち並ぶ一画。その、海に近い隅っこに私達の家が在る。
見た目はボロボロの建材の寄せ集めに見える掘っ立て小屋だが、内装はレイヤの土魔法による滑らかな表面の岩壁で構成されている。そんな、雨や潮風にきっちり耐えれる建物の中。
アクアの水が入った鉄コップを高々と掲げる私と、魔法で偽装した明るい茶色の短髪の少女がテーブルを挟んで座っていた。
頭1つ半ほど下になった、幼いままの親友の顔には不満がアリアリと表れている。
「どしたの?嬉しくないの?」
「当たり前でしょう!なんでテイラが見習いのままなのよ!!」
「そっちか。
ごめんごめん。でも、試験に落ちたからしょうがないでしょ。」
「たかが動物の解体ができない程度で、落第させるギルドに納得いかないの!」
「いや、それ必須技能だし──」
「私よりよっっっぽど冒険者できてるテイラが、下とかそんな訳無いじゃん!」
「仕方ないって~。魔法使えないし、魔力も無いし。女で、体力も無いし。」
「魔法なんかよりもっと凄いことできるじゃん!」
「むしろマイナスの次元なんだけど〈呪怨〉…。他人に見せる訳にもいかないしさ~。」
「アーティファクトだって完全に使いこなせてるんだし、ちょっと金属魔法みたいに使えばバレないのに!」
「ただでさえ目立ってるんだから、別にいいよぉ。面倒くさい。」
「良くないよ!私達『ウォーターグリーン』は2人で1つなんだからー!」
「それより、レイヤが下級扱いって方が信じられないけど。最低でも中級超えでしょ。」
「それこそ、訓練でテイラに負ける私じゃまだ無理よ。」
「いや、あれはレイヤが魔法だけで戦う、って条件でしょう。
私だけアーティファクト有り、そっちは無しとか。そら勝てるよ…。」
「私が近接戦闘できないのは一緒じゃん。」ぶー…
「もう…。師匠に勝ったんだから少しは喜ぼうよ。」
「テイラが作った義足もない師匠に勝っても喜べないよ…。」はぁ…
この町には中級冒険者が1人だけ居る。正確に言うと大怪我をして引退してるから、元中級と言うべきなのだが。
「1本足のおじさん」と呼んでいる元中級冒険者さんに、私達2人は剣を──身体の動かし方なんかの戦闘技法を教えてもらった。
そして、そのおじさんとレイヤは、卒業試験代わりに昇格テストの最後で模擬戦をしたのだ。
ただ。どこぞのギルマスがいちゃもん付けて、私の謎鉄製の義足ではなく元の単なる木の棒な杖足での戦闘になった為に、全力の師匠ではなかったと感じた様だ。
しかし、ギルマスはレイヤを負かしたいのか昇格させたいのか謎だったなぁ…。
不満気なレイヤは、実感の籠っていない目で新しいギルドカードを眺めている。
ここは話題を変えるか。
「しっかりとした魔木素材で、見た目もスマート。それが有ると、ちゃんとした冒険者の一員感出るよね~。」
「飲んだくれと一緒とか嬉しくないよ…。」
一番下であることを示す「土」の刻印、冒険者ギルド所属を表す「ギルド紋様」。
物を運ぶ「幌馬車」の本体と、それを守る様に寄り添う「剣」と「盾」の紋章は、見習いが持つカードに刻まれた落書きチックな絵とは明らかに別物だ。
ちまちま作ったミニミニ鉄チェーンで首から下がっている、己れのギルドカードを見て溜め息を溢す。
ネームプレートと大差ないし、しかもこちらはただの厚めの木板だし。平仮名・片仮名で「みならい」「テイラ」って書いてるだけとか、小学低学年の社会科見学か何かか…?
気持ち、切り替えよ…。
「ほらあ、もう食べよう?冷めちゃうし。せっかくの栗もどきご飯なのに。」
「大丈夫よ。料理の周り、火と風の魔法をかけてあるから。」
「いつの間に…。おのれ、便利な魔法使いめ…。」
テーブルの上には数々の料理が並んでいる。
まず主食となる、栗もどきを砂麦と共に炊いた麦飯。なかなか口にできないご馳走だ。
ほくほくとほんのり甘い栗に、ぷちぷちモチモチな粒麦が堪らない組み合わせ。
そこに旨味たっぷりのお吸い物をプラス。
アジもどきの骨から取った出汁をベースに、魚肉つみれとほうれん草的な菜っ葉を加えた抜群の一品。
そして、メインは魚の藻塩焼き。食べ飽きてる魚も、超絶調味料「藻塩」をまぶせばいくらでも食べれる蛋白源へと化ける。
追加のメニューとして、軽く湯がいたネクラ草のしゃぶしゃぶも用意してある。
ワカメもどきな茶色い海藻で、岩肌に付く「根」の辺りが「黒い」から「ネクロ」とか「ネクラ」って呼ばれている。まあ、流石に「死の」ってのは怖いから「根暗」って私にぴったりの呼び方をしているが。
なんで皆食べないんだろうね?こんなに美味しいのに。おかげで取り放題の食べ放題で助かってるけども。
「食べるけど!納得はしてないからね!」ばくばく!
「はい、はい。
いただきます。」もぐもぐ
──────────
「ふぅ…。美味しいかった…。」手を合わせ…
「うん。ご馳走さま!」真似して手を合わせ!
食べた後は片付けをしつつ適当に雑談を再開する。
そう言えば、アクアはこんなめでたい日でも寝てばかりだな。いつもの巻き貝型鉄筒に引っ込んで、私の腰にくっついたままだ。最近は私の鉄を食べる頻度もめっきり減ってきたし、元気ないのかと思いきや、単に安定期に入ったとかなんとか…。お腹が膨れたってことかな…?
まあ、問題ないならいいけど。
「やっぱり私、あのギルマスに抗議してくる!」
話してる内に怒りが再燃してきたらしい。レイヤが立ち上がって、外に出る準備をはじめた。髪を整え鉄ヘアピンで固定し、突撃する気満々である。
「止めなって~。ハゲに会うだけ無駄だよ。」
「テイラのことでもあるのに、もっと怒りなさいよ!」
「それこそ無駄の極致だからだ──」
「──!?」バッ!!
「──どした?」
「──。」
レイヤが…南東方向──海の方を向いて固まった。目が大きく見開かれている。
「ちょっと?大丈夫?」
〔…さま──。〕
「ん?」
〔お父様が、近くに居る──。〕
「は???」
カレイヤルの父親って、あのジョゼル様…?
「ここ、ガイネス大陸だよ!?何かの間違い──」
〔違う!皆○○!お父様の部下✕✕○○!△△!?〕
「レイヤ!落ち着いて!
早口のエルドの言葉になってて聞き取れない!」
「魔導船が! すぐそこに来てる!!」
──────────
今さら逃げても無理だろう。
ジョゼル様は数百年生きた、風氏族のエルフ。その上、歌と踊りが好きで穏やかな性格の彼ら彼女らの中では異質とも言える、剣を使う守護隊長的な存在だ。
ここまで近づかれたら、ちゃんと対話する方がいくらかやり様がある。
レイヤと相談しつつ、最大限に装備を整え外に出る。
港の向こう、沖合いに巨大な船影が見えた。
それを視界に捉えた途端、船から放物線を描いて、緑色に輝く光の筋が何本かこちらへと飛んでくる。
そうして、現れたのは──
〔久しぶりだね、──カレイヤル。〕
〔…、お久しぶり、です。──お父様。〕
レイヤの本来の色と同じエメラルドブロンドの髪を後ろで1本に束ねた、長身の美丈夫。レイヤの父、ジョゼル=ウィリディスアーエール様である。
腰に剣を装備しており、4人の弓持ちエルフを従える姿は、逆らいがたい威圧感が迸っていた。
〔お前を連れ帰る為にここに来た。さあ、子どもの猶予は終わりだ。もう十分に、遊んだだろう?〕
〔遊びじゃありません。私は氏族であることを放棄して、大陸で「冒険者」をやります。〕
〔それが子どもだと言うのだ。お前はまだたったの15年しか生きていないのだよ? 1人で何かを為し得るはずがない。〕
〔既に為しています──!〕
エルドの言葉で言い争う親子。家出少女とその父親って構図だな。いや、実際にその通りなんだけども。
レイヤの奴は氏族から抜けたつもりだが、父親には子どもの戯れ言だと映ったらしい。話は完全に平行線のようだ。
まあ仮に500歳だとして。そこから見た16歳は、人間で言えば3歳の幼稚園児みたいなものだろう。その言葉を真に受ける方がどうかしている…、とも取れなくはないが。
レイヤの祖母たるララ様には、島を出る時に色々話してきたとは言ってたけど。父親・母親は無視してきたとか言ってたし、怒るのも当然かな…。あの方にとっては2年の月日も、1週間程度の非行くらいにしか感じてないのかも。
〔そもそも、どうして、ここが──〕
「私が、呼んだからだよ。」
嫌な男の耳障りな声が、割り込んできた。
次回は9月2日予定です。




