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195話 魔猪骨スープと来訪


コトコトコト…



豚骨(とんこつ)…、いや違う。魔猪骨(まちょこつ)のスープから、とても濃厚な匂いが漂っている。非常にお腹が()くやつ。


野菜クズを中心に、ネギもどきやショウガもどきを入れて煮ているから、味も抜群になっているだろう。


これこそが「約束されし勝利の()」である。絶対美味しい。

これが毒の訳がない。依存(中毒)にはなるかもしれないけど。



大きな寸胴鍋でスープを煮ている間に、肉の調理に取りかかる。


甘酢漬け(甘漬け)にしたらっきょう(ロームイ)を酢から取り出し、包丁で細かく刻む。

硬く弾力のある土魔猪の肉は、生姜焼きくらいの厚さで切りだして、味が染みやすいように隠し包丁を入れておく。


鉄バットに置いた肉に、刻んだらっきょうもどきと甘漬けの酢液を掛けて、しばし寝かせる。

冷蔵庫は無いので、冷たいアクアの生成水を張った大きめバットに浮かべることで、肉を守りつつ味が馴染むのを待つ。


シャリピアンステーキ的なノリである。

味はマッチすると想定しているが、問題は肉を柔らかくする酵素が存在するかどうかだ。

多分ネギっぽい風味が有るから、異世界らっきょうにも似た力は有るはず。多分恐らくメイビー…。


後は、実験がてら。刻んだお茶っ()をまぶしたやつと、()リンゴもどき(アリガ)を塗り込んだやつ、を準備して…、と。


土魔猪の肉はいつか食べた串焼きの様に、とても硬い。薄く小さく切り分ければ食べれる訳だが、狩られた肉の量を考えると大量に消費する(すべ)が欲しい。

そんなこんなで、色々と試している。


ネギ、リンゴ、茶葉、のいずれかが成功すると信じて…!似非作家(テイラ)先生の次回作にご期待ください…!


いや、まあ。この3つはリーヒャさんやミハさんが普段肉を柔らかくするのに使っている素材だから、ほぼほぼ成功するはずなんだけども。

どんな風味なるのかな~、っと。



「本当に、骨を煮込んでますね…。」

「う~ん…。」


リーヒャさんが呆れた風な溜め息を吐いている。

その隣ではミハさんが首を捻りながら、極太骨が入った寸胴(なべ)を観察していた。


今回、シリュウさんが私の新作料理があれば食べたいと言ったので、1人で調理している。旅の間やっていたいつもやり方で。

そして、料理するところをついでに2人に見てもらっている訳だ。多分参考にはなんないだろうけど。




「はい。肉が美味しい魔猪の、骨ですから、とても良い出汁に仕上がるはずです。」

「…、本当に大丈夫なんですか?」

「シリュウさんが問題ないと言ってるんで。私はそれを信じて突き進むのみです…!」


「テイラちゃん…。自棄(やけ)を起こしちゃ駄目よ…?」

「自棄だとしても。美味しいもの食べて死ねる(終われる)なら、割りとアリじゃありません?」


「とんでもないことをさらりと言わないでください…。」

「テイラちゃん、若いんだから…。まだまだ生きないと…。」

「そうですね~~。もっと美味しい物食べてから死にたいですね~。」


「…、」

「…、(困ったわ…。変な方向に情熱が傾いてる…。ダリア(かあさん)みたいな、「生」に頓着しない感じまであるのよね…。)」



シリュウさん曰く。骨髄が毒になるのは、「魔力回路」を構成する物質が問題らしい。

他者の魔力回路を物質的に取り込むと、自身の回路と反発してしまうことがまま有るそうだ。


軽い反応で済むと、炎症とか魔力操作精度が短時間低下するくらいなのだが。

最悪の場合だと、回路が暴走して魔法が異常発動したり、回路が破綻して魔法が使えなくなることもあるらしい。


確かにそれは危険だ。



だが、それを回避する方法は有る。

魔力回路を完全に破壊することだ。


今回で言えば、シリュウさんの超魔力が荒れ狂う(私の想像)マジックバッグの中に数日収納している為、魔猪の素材は全て回路がズタズタに破壊されているらしい。


なので骨や内臓も、魔力阻害物質(どく)になることはなく美味しく調理できるのだ。

しかも私の場合、アクアの水を使うので、より毒になりにくいそう。


そんな話を聞いて逆に「シリュウさんやアクアの超魔力の方が、毒になっちゃう…?」と思ったくらいだ。

「魔力そのものと、「回路」は別物だ。」と否定の手刀(ことば)を貰ったので、まあ、大丈夫だろう。



シリュウさんは、顧問さんと共に魔猪をまだまだ解体している。

料理が上手くできたら呼びにいくとしよう。



「女主人さんが、元気になる兆しが有って良かったわ。」

「アクアの水がどこまで効果有るかは、ちょっと微妙ですけどね。」


肉の漬け込みが終わるまでは雑談タイムである。

寸胴を時々確認しながら、ゆったりと過ごす。



金竹(かなたけ)を産み出した冒険者の話は、私でも聞いています。実力の有る方らしいので、是非快復していただきたいところです。」

「良くなることを、願うばかりね。」

「そうですね。やれることはやっていきたいです。」




──────────




席を立ったリーヒャさんが、困惑気味の雰囲気で戻ってきた。



「──ギルドマスターが、いらっしゃったみたいです…。」

「はい?」


門の方を見れば、人影がこちらに向かってきていた。

確かにあの頭は…。



「邪魔するぜ。」


この町の冒険者ギルドマスター、ツルピカだ。

相も変わらずツルツルスキンヘッドである。



「邪魔するんなら帰ってぇ~?」小声…

「…、」イラッ


吉○の新○劇風にお帰りを願ったのだが、無視してズカズカ近づいてくるツルピカマスター。

小声にも反応したから聞こえていたと思うのだが。



「何用かな?ナッサン殿。」


リーヒャさんが呼びにいってくれた顧問さんが、こちらにやってきた。解体作業は中断したんだろうか。



「直接言っておきてぇことが有ってな。」


「…。魔猪の解体が終われば、森の探索にはまた行くが?」


突然のギルマスに不機嫌気味のシリュウさん。



「そっちじゃねぇよ。期待はしてるが。」


シリュウさんを見ていた目が、私に向き、より鋭く細められる。



紅蕾(コウライ)を──「蜜の竹林」の女主人を、治療するのは、止めてくんねぇか?」


次回は14日予定です。

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