190話 女主人の病と少女の奮闘
忘れかけてましたが、この作品を書いて1年が過ぎました。
勢いだけで、溜め込んだ妄想を吐き出しはじめた訳ですが、よくもまあここまで続いたものです。
またまた謎なストーリーになってますが、ゆるゆる投稿していきます。
「はい…、これが「美人強壮」…、です。」
「…。」
ウルリが持ってきた、モンブランな見た目の極美味甘味。
木のお皿に乗っているそれを、シリュウさんがフォークで突き刺し1口分を掬い上げた。
しげしげと眺める間、私達も緊張して見守る。
現在、私達が居るのは「蜜の竹林」の店内。
今日も今日とて、他に客は居ない。完全な穴場スポットの様相である。夜のお店だし、昼間はこんなもんなのかもだが。
「美人強壮」は女性の為に作られた甘味だが、別に男が食べてはいけないなんてルールはないそうなので、シリュウさんが食べに来ることそのものに問題はない。
ただ、材料の中に、魔物の亀の卵や粘体魔物の素材が有る食べ物だ。
亀好きのシリュウさんだし、食用になるなど聞いたことがない生物の何かが使用されているし、特大の地雷になりかねない。
お店に来る前にきちんと話はした。ウルリやミハさんと共に、それはもう全力で。
だが「美味いんだろ?先ずは食う。」と強引に押しきられ、屋敷に戻らずそのまま移動し、今に至る。
「…。」ぱくり もぐもぐ…
食べたな。
さて、お味の方は──
「…!」もぐ、もぐ、もぐ…!もぐ…!もぐ…!!
うん!幸せそうに噛みしめている!
大丈夫だね!
──────────
「美味かった…。」ふぅ…
シリュウさんはゆっくり時間をかけて、丸々1つを食べきった。とても満足気である。
私も、ミハさんと2個目を半分個して食べた。元々2人分を事前注文してたから片方をシリュウさんに渡した形だ。数量限定の貴重スイーツだから仕方ない。仕事を頑張った冒険者こそ、食べるべきだろうし。
「サシュさんに、今日も美味しかった。って伝えて。」ほふぅ…
「うん。分かった。」
「他の人も居ないけど、仕事関係?それともあの魔猪、見にいってる?」
「あー…。いや、皆、奥に居るよ。
ほら、竜喰いさんに粗相が有ったら不味いし…。」
うん、薄着さんとか、馴れ馴れしくシリュウさんに触れそうだもんね…。私の中では完全に、年下好きのヤバい人ってイメージだ。
「テイラ、安心しろ。隠れ潜んでる奴は居ない。」
「いえ、別にそこは心配してませんけど。」
「そうか。なら良いが。」
「…、(警戒されてる…。本当、しくじったなぁ…。あんな依頼受けるんじゃなかった…。)」どよ~ん…
「…。おい、魔猫の女。これをやる。」
シリュウさんがごそごそと取り出したのは──
100万ギル硬貨!?
「う、うぇえ!?!?何これ!?」
「美味い食い物の、礼だ。美人強壮をもっとたくさん作れる様に使え。」
「シリュウさん、豪快過ぎますって…。」
「何言ってんだ。1日に少ししか作れないんだろ?
なら、人を雇って、道具を揃えて、材料を集めれば、多少は数が増えるだろ。費用を考えればむしろ足りないはずだ。」
「…!!」カタカタカタ…
わなわなと震えるウルリは、目の前の大金に釘付けになっている。
なんかヤバそう。
まさか、猫ババしたいとか思って──
「あ、あの!竜喰い、さん! お願いがあります…!!」
お金には手を出さず、ウルリは地面に両手・両膝を付けた。ここ、土足の床なんですけど!?
「お金も要りません。この甘味もなんとか増やします。
だから。だから!代わりに!うちの女主人を──ママの〈呪怨〉を!解いてくださいませんか!!」額を床に打ち付ける!
「あ…?」
その後、なんとかウルリを宥めつつ、事情を聞いた。
「蜜の竹林」の女主人は、病気で寝込んでいるとは聞いていたが、実際には〈呪怨〉に因る体調不良らしい。
昔、ウルリがここに来るよりも前。女主人さんは〈呪怨〉の力を使って、森から町を襲撃してきた魔猪を撃退したことが有るそうだ。
当時、上級冒険者だった彼女はその功績から超級に昇格する話も出ていたが、〈呪怨〉の反動で身体や魔力に不調が出た為、冒険者活動から遠ざかり後進の育成に注力していったらしい。
その後なんとか日常生活を送りながらも、徐々に衰弱していき、今では1日のほとんどを死んだ様に眠っている有り様だそうだ。
「竜喰いさんは、〈呪怨〉の力を潰せる、凄い方だって聞きました。
だから、何かを恵んでくれるなら…!
どうか、恩人を助けてはくれませんか…!!」
もう1度土下座しようとするウルリを必死に止めつつ、シリュウさんの様子を伺う。
なかなか難しい顔で考えこんでいる。
「お前の言う、女主人とやらは
──「金竹」の、「花美人」だな?」
「そう、です…!」
「花美人」はこれまた、夢魔族の1種だ。
日本のサブカルチャーで言えば、「ドリアード」や「アルラウネ」辺りが近いだろうか。
植物の因子を持った人型の存在で、草花を操る力を持つらしい。
夢魔の国?から追放?されて、人が居ない森の中に住んでる…とかなんとか。
しかし、「かなたけ」ってのは、二つ名かな?
金属の竹、だろうか?主要武器とか?
「そいつなら、会ったことはある。「金竹」を生み出してからは、話に聞いた程度だが。」
「そ、うなんだ…。(この、人?も長生きしてんだな。)」
「で、だ。
悪いが、俺には無理だ。」
「──!
そこを、なんとか!!」ガバッ!
「待って待って!」
今度はシリュウさんに掴みかかろうとするウルリを、寸前で止める。
必死だから、かなりの力だ。
「テイラ、離れろ。問題ない。」
「お願い!邪魔しないで!」
「邪魔とかじゃなくて!穏便にいこう!?ね!?」
「~~!!」ギリリ…!
「っ!」ズキン!
「テイラ!」
瞬間、掴まれてた腕に鋭い痛みが走る。
ウルリの指先、その爪が尖って伸びていた。肉に軽く食い込んでいる。
シリュウさんが近づく気配がしたから、左の腕輪から後ろに向かって鉄の仕切りを出し、軽く遠ざけておく。
大丈夫。問題ない。問題ない。
ウルリの顔を見れば、犬歯も伸びて、髪の毛が盛り上がる様に猫耳が現れていた。
瞳孔も縦長になり、より人外らしくなっている。
だが、その目は、今にも溢れそうなほどに潤んでいた。
その目を見つめ返して、努めて柔らかく、話かける。
「穏便に、いこう?
力技じゃ解決しない。ママさん、助けたいんでしょう?」
「でも…、もう──」
「まだ生きてるんでしょう?
生きてるなら、できることはある。感情を爆発させて、台無しにしたら、もったいないよ。」
「だって、無理って…。」
「シリュウさんの力だと、色々強過ぎるから。多分、呪いと一緒に、ママさんごと消し飛ばしちゃうんだよ。」
「やっぱり、無理じゃん…。」うつむく…
項垂れたウルリから力が抜けていき、崩れ落ちていく。
その体を支えながら──いや、単に掴み合った腕に引っ張られて、一緒に地面に座りこむ。
一応は、冷静になったかな。
ミハさんが回りこんで、そっとウルリの背中を擦ってくれている。
「まあ、無理かも知れないけどさ。今ここには協力してくれる凄い冒険者も居るんだし、何かやれることはあるよ。諦めるなら試してからでも──」
「やったよ。
治療魔法士に診せた。花美人族とか、他の夢魔族にも会わせた。でも、何もできなかった。
ママの栄養になる様に、皆して店の中で色んなことやって、感情をたくさん出したけど意味なかった。
ポーションも試した。支給される上級を渡してもダメで、お金集めて、超級ポーションを買ったけど、数日しか、効果なかった…!」
「そっか。頑張ったんだね。」
「そうだよ!だから!
だか、ら──。」
どうにもならない現実に、1人の少女が、俯き絶望している。
「なら、もう1つ試してみよう。
今、ウルリの目の前にいる私は──「呪い持ち」だよ?」
やれることは、多分、有るはずだ。
次回は、30日予定とさせてください。




