19話 暗い世界
…はあ。この人生も失血死とか、洒落が利いてるなぁ。
いやぁ、剣と魔法の世界に転生して魔法が使えないって時点で、洒落が利き過ぎて腹筋がトリプルアクセルで回ってましたとも。ええ。
なんならへそで茶を沸かすどころか、へそから金属が生えるレベルですよ。物理的に。
アッハッハッハッ…。
…。
はあ、バカなことを言っている場合でも無いな。
一旦冷静になってみよう。
なんで、意識があるの?
──ここ、どこよ?
真っ黒で何も見えない聞こえない。体の感覚も、無い。
呪いの全霊駆動で腕なくなって、血も無くなって意識を失った。
ってところが最後だったよね? あれで生きてるとか、あるのか??
この世界には魔力が籠められた回復薬とかがあるから、それを飲ますか掛けるかすれば、あの状態からの生還は可能っちゃ可能。
まあ、そんなエリクサーだか賢者の石だかの同類様は、伝説レベルに希少品で、私ごときに使う奴は居ないが。
それに、この空間の説明にはならんな。
次の可能性としては、考えたくないけど、あいつに呑み込まれたパターンか。
んで利用する為に私の魂?を体内に留めている、と。
つまり、水色の髪のムカデ女が、スティちゃん達に襲いかかるのかぁ…。
最悪のバッドエンドじゃん…悪夢過ぎる。
無理やりポジティブに考えよう。
まだ意識があるってことは、やれることがあるんだ。
アレだな、伝説の勇者が討伐に来た時とかに、体の内側から「あなた、美しくない!」って言いながらこいつの動きを止める役目だな! 良いいいぃぃ配役だあああ!!
…。
…マジでこれかな??
あいつの体内?にしては、暗いけど静かでむしろ落ち着く感あるんだが…。
もしここが死後の世界だったら、大歓迎だな~。むしろ前世でこうなりたかったから自殺した、まであるな。
近所のおっさんが奥さんを怒鳴りつける声とか、赤ん坊の泣き声とか、バイクのエンジンを延々吹かす音とか、そんな雑音が無い世界。素晴らしい。
でもなぁ、そんな望み通りの展開になるかね?
ムカデ女を倒したご褒美? いやぁ? 無いでしょ。
前世の終わりに、いわゆる転生の女神だの世界管理者だのに会った記憶も無いから、ネット小説みたいに私の魂をどうこうする神様的存在は居ないと思うんだよね~。
居たとしても、ひっどいひねくれた奴に決まっている。そんな奴がご褒美なんざくれる訳、無い無い。
ふむ。移動もできそうにない。上下左右前後も見てみたがそもそも方向の感覚も無い。
思考はできてる。
まあ、考えても答えは出なさそうだな。
出ないから、で思考を止められるなら苦労は無いが。
よし! まずは、歌でも歌おう!(唐突思考変換!)
自分の声も出せないけど、大好きなアニソンやボカロ曲のメロディと歌詞を思い浮かべるだけで、歌う気分は味わえる。旅の間によく歌ってたお気に入り曲からいってみよう。
やっぱり最初は第2期の鋼○メドレー──
「──、──」
ん? 音がした? 声、かな?
せっかく思い浮かべる歌を決めたところなのに、誰だよ。
ムカデ女なら今ここで、全力全霊で邪魔してやる。
…。
…あれ? もしかすると気のせい?
幻聴か? あー、人間、独りでずっと居ると気が変になって、頭の中に架空の話し相手を作るって言うしね。
私でもそうなるのかもね~。──って、元からか!
「──! ──?」
ん~? やっぱり声がする。でも、何言ってるのか聞き取れないな。
なんか少し怒ってる? か??
例えば…、スティちゃんが、私の死体にすがり付いて「お姉ちゃん!死なないで?」とか?
…。
我ながらひっでぇ想像してやがんな。鬼だな。
この想像の通りだと、今は死の間際のスーパー走馬灯タイム?
ふむ。スティちゃんには悪いけど、なおさら歌っておきたくなったな。いつまで意識保つか分かんないし。
まあ、私のことなんかとっとと忘れて、お父さんや村の皆と仲良くやれば良いと──
──ゴン!!!
とてつもない激痛と共に、私の意識は消えた。




