187話 シリュウ視点 魔猪との因縁
総合評価ポイントが500を超えました。
どこにも宣伝してないんですがね…??
最新話を更新する度に、目に付く所に表示されているのかな…?“継続は力なり”ってことですかね。
ぶっちゃけ第100話を掲載した時点で満足している作者ですが、今日もゆるゆる更新していきます。
…。
ゆるゆる過ぎて大幅に文字数が増えました。実は浮かれていたらしい。
そしていつもの更新時間を過ぎる、本末転倒。分割するべきだったかも知れぬ。
夏ですね(謎)
………ん…?
ふと町の方に顔を向ける。
何か聞こえたか…?
「問題かい?」
「…。いや、気のせいだ。」
「アタシには何も感じないけど、町の方だろ。」
「大方、テイラがやらかして悲鳴でもあげてるんだろ。」
「…、有りそうだね…。
しかし、この距離でそれを感じるとか…。どんだけ気にしてんだい。」やれやれ…
「…。水精霊の念…、が混じってる感じがしてな。」
「大事かい…!?」
「いや、しょうもない話だろ。」
「本当だろうね…?」
これだけ離れても町に大きな異変が有れば、ダリアは感知できるだろう。魔力回路は半減したはずなのに感覚強化はむしろ強化されている。規模も鋭さも段違いだ。
テイラに何か起こっても、危機が迫ればあいつは〈呪怨〉を使う。俺がその発動を知覚できない訳がない。
俺達が揃って危険を感じてないんだ。本当に大したことはないだろう。
今はこちらも山場だ。気を引き締めるとするか。
「それよりも、だ。
こっちの、動きはどうだ?」
「両方変化無し。
冒険者の方は、2パーティーとも付いてきてるよ。片方はそろそろ来るね。」
「そうか。」
魔猪の森の手前、これから探索開始という時に冒険者パーティーが接触してきた。
パーティー名「赤の疾風」、「剣剣剣」。
両方とも上級パーティーらしいが、後者は頭の心配をする水準の名付けだ。
強さも普通。超級がダリアしかいない現状、上級がギルドの最高戦力な訳だが。上手くやれているのやら。
このパーティーの中心に居るのは、ギルマスの側に立ってた奴らだ。
あの魔猫の女は居らず、闇属性の「隠蔽」「気配消去」で姿を隠してる訳でもない。
テイラの方に行ったか?と不安は微かに過ったが、あいつならどうとでもなるだろう、と自身を納得させた。
冒険者どもの目的は俺達の補助だと宣った。
町の貴族の根回しで、北の門も問題なく通れた。他に助けが必要なことなどない。
要するに、監視をしたいと言うことなんだろう。
ギルドマスターからの依頼らしいがご苦労なことだ。
一番の不安要素であるテイラが居ない以上、見られて困ることもない。適当に放置で問題ないだろう。
「付いて来れるなら、付いてこい。」
そう言って、ダリアと2人、そこそこの速度で魔猪の森を突っ切ること丸1日。
冒険者達とは関係のない、妙な問題が発生した為、考えを変えようと思いたった。
ダリアの感知では2つのパーティーは共に全力で加速しながらも、周囲の探知や他へ回す体力を残しているらしい。
自分達の安全を保った上で上の段階に追いすがる努力をしている訳だ。
一先ずは及第点か。
「ダリア。ここであいつら全員を待つ。感知は頼んだ。」
「…、あいよ。
んで、何を企んでんだい?」
「ちょっと、荷物持ちでもさせようかと思ってな。」
「あ…??」
──────────
「待たせしまったか。不甲斐なし!」ふぅふぅ…
剣剣剣も追いついたか。
双剣使いが荒めの息を吐いている。残りの奴は余力は有りそうだ。まだ使いものにはなるだろう。
…。
こいつらの名前を覚えてることに若干の腹立たしさを感じるのは何故なんだろうな…。
「「竜喰い」から依頼が提示されたんだ。」
「依頼?」ふぅふぅ…
「ああ。この後「獲物」を捕まえる、手伝うなら食事を奢ってくれるそうだ。今ここで。」
「食事に関して逆鱗だらけだって、ギルマス、言ってなかった?」
「その通り。」
「罠じゃない。」
「罠の臭いがするな。」ふぅ…
相談の結果。全員が俺の依頼を受諾し、飯の奢りは「赤の疾風」構成員だけとすることにしたようだ。
飯に何かが入れられても全滅しないようにと言うことらしい。
好きにしたらいいが。
「なら、お前らにはこれをやる。食べるならとっとと食べろ。」
黒袋から鉄の机といくつかの器、そして、ワンタン入り乾燥肉スープの大鍋を出す。
これならすぐに食べれて味も良い。この後の働きを期待して、奮発してやった。
俺の乾燥肉や乾燥果実は、慣れない奴だと食うことすら難しいからな。同じスープなら大鍋に10は有る。まだ仕方ないで済む範囲だ。
「何だ…!?スープがいきなり!?」
「大容量の魔法袋持ちとは聞いてたけど、凄いわね…。」
「匂いも凄く良い…。美味しそ──」
「待って!?このスープの魔力、とんでもないよ!
何この濃密水魔力!めっちゃ澄んでるですけど!?」
わーきゃー、と騒ぎはじめたな。うるせぇ。
「黙って食うか。今すぐ埋まるか。どっちが良い?」
俺の威圧に、直ぐ様食べはじめた。
最初からそうしてろ。
──────────
「美味かった…。」ささやき声…
「こんな森の中なのに、高級食事処に勝る料理が食べられるなんて…。」うっとり小声…
「ねぇ、この後私達、ひどい目に会うんじゃない??」びくびく小声…
「…、」黙々とお代わり中…
「「「…、(俺・私達も食べるべきだったかも…。)」」」
よし。これで少しはやる気を出してくれると助かる。
「さて。ダリア、向こうは?」
「完成した輪が、少しずつ狭まってるよ。もうちょいで来るね。」
「良し。お前ら。ここから気合いを入れろ。」
流石に上級冒険者なだけはある。直ぐに態度を切り替えた。俺に言われる前から薄々感づいていたようだ。
「魔物の迎撃をすれば良い訳ね。」
「数は?」
「5…いや、6。ちょっと大きいかも。」
「土魔猪の群れか…?このメンバーなら問題ないが。」
「俺の直感ではその倍は居る。」
「マジかよ。お前の直感、だいたい当たるやつじゃん。」
「それでもなんとかなるでしょ。超級の方も居るんだし。」
俺を見た目で侮らず、ダリアの強さを正しく認識して協力する姿勢だ。悪くないな。
予測も大きく外れてはないし、混乱もしていない。これなら身を守るくらいはできるだろう。
「お前らへのクエストは。1つ、ここで一塊になって生き残ること。2つ、俺が運べない「荷物」を代わりに町まで運ぶことだ。」
周囲に気を配りながら、俺の言葉に混乱した様子の冒険者達。
ダリアに目配せして、説明させる。
「今、アタシらは魔猪の群れに囲まれてる。
「土」が9頭、「火」が2頭。二重の輪を描いて、完全包囲だよ。」
「火魔猪が2頭!?」
「有り得ん!!」
魔猪の中でも火属性の魔猪は、気性が荒く気も短い。
獲物を見つけたらこそこそと隠れて様子を伺わずに、火を纏って突撃してくるだろう。
2頭も居れば、互いの序列を競って暴れるのも珍しくない。協力して人間を囲うなど、相当に異常な行動だ。
「だからこそ。その2頭を含めた魔猪の群れ全体を指揮しているやつが居るとにらんでる。
「風魔猪」辺りが少し離れた場所に待機してるはずだ。」
「待て!火魔猪を従える風魔猪など、どんな化け物だそれは!?」
風属性の魔猪は大きさは土のと大差ない。魔法の威力も火のやつと比べればまだ弱い。
風属性の最も厄介な点は、風魔法で群れ全体に音声を伝達、結果魔物達の連携がかなり上手くなることだ。
他種の魔物と協力することも有り、飛行する魔鳥、毒を使う魔蛇、耐性が強い魔木等と一斉に動かれると相当面倒になる。
その統率のとれた動きは人間の軍隊を思わせるほどだ。
「ともかくだ。俺は火魔猪2匹をまず潰す。お前らはここで身を守りながら、ダリアと一緒に土魔猪を狩れ。多少は肉が駄目になっても許す。
その間に指揮してる個体を出てくれば、可能なら潰す。その後はお前らが運んでくれ。」
「可能なら!?」
「そんな異常個体、是が非でも潰さねば──」
「俺の推測が正しいとは限らん。それに風魔猪だったとしたら、本気で逃走されたら俺でも追うのは難しい。
なに。逃がしても、次来た時にはまた火魔猪を連れて出てくるはずだ。火魔猪の「お代わり」、悪くないだろ?」
「「「!?」」」
「驚愕」「不安」「理解不能」「恐怖」。そんな感情が、俺が拾えるほどの強い念波として放たれている。
「賛同できねぇ、ってよ。」
「視れば分かる。」
そうこう雑談してる内に、周囲を囲む様に魔力が渦巻きはじめた。
どうやら一気に畳み掛ける腹積もりらしい。せっかちなやつらだ。
「火は…先ず北か。ダリア、お守りは任せた。」
「あいよ…、っとぉ!!」
開始の合図とばかりに、ダリアが竜骨の棍棒を思いっきりぶん投げる。
硬化した骨の周りを風魔法が絡みつき、矢の如く恐ろしい勢いで飛んでいった。
「ピィギャアア!!」ドオオオオン!!
木の暗がりから勢いよく現れた土魔猪の額に、飛来した棍棒が直撃する。
轟音の後に崩れ落ちた魔物。少々同情した。
ダリアの棍棒の尖端にはテイラの鉄が埋め込んである。魔力防御を貫通する謎素材が、あんな速度で直撃すれば肉体の強さも硬化の魔法も無意味だ。俺でも死ねる。あんな最期は勘弁願いたい。
一撃で絶命した土魔猪を尻目に、北へと跳ぶ。
「お、こりゃ丸々と太ってるな。」
「ゴオオアアアア!!」ゴオオオ!
そこに居たのは火魔猪。かなりデカい部類に入る。地面から背中までは、ダリアの身長の倍以上は有る。全長も相当。肉は引き締まりつつもがっしりと付いている。
こりゃ、相当旨いだろう。
「よく姿を見せた。褒めてやる。」
味が落ちたら勿体ない。負荷を掛けずに一撃で仕留めるとしよう。
右手に全力で魔力を籠める。
目の前の魔猪は燃え盛る火炎をその身に纏っているが、関係ない。
火炎を突き抜け、皮と肉も突き破り頭蓋に触れる。
「ゴアアアアア!?」
そのまま右手の炎を最大出力に。そして体全てを前へと加速させる。
魔猪の骨はあっさりと炭になり、脳も全て焼ききれた。
「ゴ……、オ……。……。」ぶすぶすぶす…!
体を後方に加速して、離脱。力なく伏せた火魔猪の首表面を即座に切って、血抜きをしておく。
後で本格的に抜かないといけないな。
せめて周りの木が燃えてるのは、「火炎操作」で鎮火させておいて…。
今は先に2匹目だ。
──────────
「よっ。」火炎手刀を高速なぎ払い
「ブゴ…!?」
ドゴン!
良し。首を落とした。
全く、こっちは火属性の「速度操作」を駆使する機動力特化だったとは。場所も1匹目とは別方向で、無駄に時間がかかったな。
急激な動きを繰り返したせいで、肉への損傷はかなりのものになっただろう。興奮状態の時間も長く、肉の質はそれなりに落ちてるはずだ。
まあ、体の大部分が残ったから良しとするか。
さて…。
(ダリア!そっちはどうだ!)
(全員生存──、土魔猪──半数。)
冒険者達全員は生きてる様だ。土魔猪の状態が気にかかる。血生臭さは諦めるしかないか。
(指揮──体、──不明。近く──な──…。)
(ダリア?)
ダリアからの念話が、途切れ途切れだ。
あいつ、もうバテたのか?そこまで柔じゃないはずだが。
違う。
俺の周りを覆う不自然な魔法風が、邪魔をしているらしい。
気づかないくらい薄く、不快な風の檻が俺を包む。
「フゴォ…!!」
現れたのは空中に浮かぶ、巨体。
火魔猪と大差ないほどの大きさの風魔猪とは…。初めて見るな。わざわざ高い所に浮かんで、見下したつもりか?
鮮やかな緑色の毛皮に、大出力の風魔法を纏っていた。左目は怪我をしたのか閉じられ、その周りには1本の古い小さな傷が走っている。
開いた方の右目には、獲物を狙うギラギラした光──いや、怨敵を捉えたドス黒い光が宿っていた。
「…。昔、会ったことでもあるか?」
「ゴガアアアア!!!!」
周囲の空間が圧し潰れる。
尋常でない魔力が籠められて、空間の気体全てが俺に向かって突進しているかの様だ。
なんか知らんがぶち切れてるな。こいつの目の前で、仲間を食ったりでもしたか?
見られてる状態で食うなんて残虐行為、した記憶は流石にないが。
あんな無茶苦茶な魔力稼働じゃ、肉の味も落ちるはずだ。面倒な。
ま、火魔猪は確保できたし、こっちは適当にさっくり殺るか。
魔力放出を最大にして、周囲一帯を火炎で丸ごと吹き飛ばす。
俺へと殺到していた風の檻を焼き消す勢いで、風魔法を跳ね返す。
「ゴガアア!ゴガアア!!!」
風魔猪は必死に魔法を維持しようとしているが、無駄だ。出力が違い過ぎる。
俺から吹き荒れる火炎の嵐が、圧縮空気塊を引き裂いた。
魔法戦は不利と悟ったのか、風魔猪は風を噴出して猛突進をしてきた。
そのまま俺の右腕をその牙に挟み、渾身の力で噛みつく。
「グギィ!!グギィィィ!!」ガリガリガリ!!
「気は済んだか?」
なかなかの力だ。火竜の革服を破り、俺の皮膚の硬化を貫いて傷をつける。
すぐに逃げだす臆病な魔物が、ここまで憎悪を滾らせて攻撃をしてきてるんだ。俺がこいつに何をしたかは知らんが、多少は受け入れるべきだろう。
「じゃあな。」
口の中の右手から濃密な火炎を生成し、奥へと広げる。
こいつの体の中心、心臓と肺を焼く様に熱を暴れさせる。
「グボッ…バ…。オア…ア、ア──」
俺を見る風魔猪の右目が、白く濁るまで内側から焼き続けた。
──────────
重い…。こいつ風魔猪の大きさじゃねぇな、本当…。
服と腕に魔力を流し回復させた後は、動かなくなった風魔猪を運ぶ。
身体強化を全開にして、表面だけに硬化をかけて運びやすくはしたが、少々無理があるな。
黒袋の中に入らないこともないが、属性が合わないこいつを入れれば一気に劣化する。肉はもう録に食えないが、毛皮はそれなりの素材だ。
とは言えここで解体すると、残った肉が完全に痛む。
やはり肉を温存するには、あいつらに運ばせるのがマシだな。
「お前ら。仕事だ。」
ドズウウン!!
「なっ…!」
「風…魔猪…??」
「「「…、」」」疲労困憊…
「有り得ねぇ…。」
「もしかして、これ運ぶのか…?俺らが…??」
「ダリア。火魔猪の血抜きをしっかりしたい。地面に傾斜をつけて吊り下げるみたいにしてくれ。」
「人使いが荒いよ…。」
次回は1回休んで、更新は20日予定とします。




