184話 ストレス発散と甘味
「ごちそうさまでした。」手を合わせ…
「…?(何、この構え…?どこの国の動作…?)」
ふむ。このお店の甘味、いまいち美味しくなかったな。
出てきたのは、木苺みたいなベリー系統の木の実が数種類入ったパンだった。
パン生地はそこまで柔らかくもなく、バター入りみたいなコクもなかった。木の実も仄かに甘味は感じたが、酸味の方がずっと強い。
見た目がフルーツマフィンみたいだったから、無駄に期待しちゃったのが失敗だったね。
まあ、私が勝手にカフェだと思っただけのこと。ちょっと一息つける場所であって、甘味処ではないんだろう。
そもそも砂糖が珍しい地域で、がっつり甘い食べ物を欲することの方が愚かだったな。
はあ…、ストレス発散に甘い物を爆食いしたい…。
私が不満足でうだうだしている間にも、他の3人が話合いをしている。
尾行していた引け目で奢るつもりの猫耳女と、態度の悪い男どもから客人と母親を守ってくれたお礼がしたいと言うトニアルさん。
まあ、ミハさんが気を回して私達の分の会計まで済ましたから、もうどうしようもないのだが。
魔猫族女からの詫びの奢りだったから、遠慮無く食べてたはずなんだけどね…。明らかに「財布が軽いです…。」みたいな顔してたから、心配する気持ちも分かるのだが。
「猫耳女、給料安いの?
上級冒険者とか言ってたのに。」
「いや、まあ、色々とね…。」
「ウルリさんは多分、お店にお金入れてるんじゃない?…かな?」
「いや──」
「お店、ですか?」
「うん…違う。はい。
お世話になってる所の女主人さんがご病気で、お店の運営をウルリさんが支えてるって、聞きました。」
「トニアル。人様の事情を、勝手に喋っちゃダメでしょう?」
「え、あ!ご、ごめん!ウルリさん!」
「いや、まあ…この町ではよく知られてる話だし…。」
目の前の女を改めて観察する。
見た目は私と大差ない歳だと思う。ベースの黒髪はかなりパサついていて、メッシュの緑色部分も艶がない。
目の下に薄く隈があり、表情も暗い印象を受ける。
魔猫族を含む夢魔族は若々しい姿が長く保つ、って話からすると、単なる人間の女性と言われても信じる草臥れ具合だ。
腰の短剣や他の装備品、服装もだいぶ使い込んで色褪せてる感じ。この姿なら良くて、下級冒険者を数年こなしたベテランってところだろう。角兎を圧倒できる上級冒険者には、とても見えない。
「あんた、結構まともだったのね。」
「別に…。普通でしょ。」
「ねぇ、ウルリさん…?私の父は、冒険者ギルドの外部顧問をしているの。普段の生活で辛いことがあるなら、少しくらいは力になれるかも知れないわ。お節介だと思うけど──」
「や。平気。気持ちだけ。」
「そう…。分かったわ。」
ふむ。こいつも色々苦労しつつ、他人と適切な距離を保つ程度に芯は有る、か。
軟派男どもでささくれた気持ちはウルリには関係ないんだし、八つ当たりしてる場合じゃないな。
「ねぇ、あんたの依頼されたクエストって、呪い女の情報を調べることよね?」
「へ…?いや、それもあるけど…。もうしないって──」
「何を調べたいの?聞いてくれたら答えるけど?」
「へ!?」
──────────
私の〈呪怨〉の具体的な話とか、アーティファクトのこと、シリュウさんの秘密とか、故郷や親友の種族に、変な水精霊。
そんな説明できない部分は、避けて、今までの足跡をざらっと喋った私。この程度なら顧問さん辺りからギルマスに伝わってはいそうだが、クエストの足しくらいにはなるだろう。
猫耳女は時々質問を入れながら、しっかりと話を聞いていた。
ミハさんとトニアルさんは微妙な顔しながら終始無言だったが。
まあ、肝心な部分の話を抜くと前後の繋がりが無くて意味不明だもんね。
…。
まあ、例え繋がってても、それはそれで理解不能だろうけども。
「…、(望まれた魔法が使えなくて実家を勘当。冒険者になってからも、ギルマスと揉めてパーティー解散。あげくに複合呪怨の化け物と死闘、か…。この上で呪い持ちなんだよね…?)
そっちも苦労してんね…。」
「そうでもないよ。今はシリュウさんって強い冒険者に保護してもらえて、ちゃんと接してくれる人達が周りに居るから。」
「本当に、ギルマスに伝えていいの?」
「言えない所は話してないから意味不明だし、ギルマスの性格からして信じないだろうけど。それでもいいなら。」
「助かる…、てか、ギルマスをめっちゃ下に見てんね…。」
「そう?単に他人の話を聞かない、ツルツルピカピカ頭のおっさん。だと思ってるだけ。」
「ツルツル…!」笑いこらえ…
「ピカピカ…。」げんなり…
「…、(おハゲさん、なのね…。)」
「すげぇわ…!ギルマスを下した奴は言うことが違ぇわ…!」笑いこらえてプルプル…
「だから、勝ってはないってば。」
「いやいや。あれは勝ってたって。」
「単なる不意討ちみたいなもんだし、同じ上級ならあんたにもできたでしょ。」
「私じゃ無理無理!
ギルマスとは経験が違うし、あの火力は吹き飛ばせないって。こっちは斥候職で、向こうはゴリゴリの魔法剣士なんだし。」
「闇のローブ?を使って不意討ちすれば──」
「アレは余程のことがないと使用許可が──」
「…、(周りの人に聞かれては無さそうだけど…。)」
「…、(不思議な会話ね…。)」
──────────
何故か猫耳女と仲良く(?)なった後、私達は店を出て歩き出す。
このまま屋敷に帰るのが正解だろうなぁ…。でも、なんかまだ口寂しい感じだ…。
「なんか私にできることが有ったら言って。これでも顔は広いから何かしらはやれるよ。」
随分と距離を縮めたな…。私が嘘をついてるとか疑わないのか??懐に入ってのスパイ行為にシフトしたか??
こそこそと嗅ぎ回れるよりは、余程マシだが。
「ん~…。私の今の目的としては…料理のレパートリーを増やすことだけど…。」むぅ~ん…
「…、(れぱーとりー…?変な言葉を良く使うね。)」
「今は単に甘い物を食べたいかなぁ…。さっきのじゃ全然足りなくて。」
「甘い物…。」
「こう…、食べるだけで甘味に包まれて幸せになれるような──
いや、ごめん。忘れて。無茶言ってる自覚はあるから…。」
「大陸中央みたいにお砂糖がそれなりにあれば、少し作れるんだけどね…。」
「いや、ミハさんに言ってる訳じゃ──」
「有るには有るけど…。
この町一番って言える、とびっきりの甘味なら──」
「有るの!?」
ウルリの肩を両側からがっつり掴み、正面からその顔を覗き込む。逃がしてなるものか…!
「ちょ、ちょっと!?どんだけ欲しいの!?」
「私も興味あるわ~。良ければ食べてみたいわね。」
「案内プリーズ!!」
「で、でも!?有る所は──」
電波を受信したギルマス「ハゲじゃねぇわ!頭は剃ってんだ!!」
ギルド職員(え?急に何、叫んでんの…?)
次回は8日予定です。




