18話 〈呪怨〉
ちょっと残酷描写が強めです。
注意してください。
〈呪怨〉を発動した。
私の体の、ムカデ女の髪が巻き付かれた部位が内側から爆ぜる。私の体中に入り込んでいた髪の毛を、私の血液ごと金属に変換していく。
体が動くようになった。
けれど、体の内側を何本もの鉄針で貫いた、壮絶な痛みで意識が飛びかける。
「ギィィィィィ!!」
髪の毛が半分消えただけで、絶叫してるムカデ女。
うるっさいっ! 自分がしてきたことを、された、だけで喚くな!
私は左腕を、痛みを堪えながら、こいつの顔面まで上げ、ムカデ女の顔を掴むように手で触れる。左手の内側から鉄の杭を生み出し、頭に打ち込んだ。ビクリと動きを止めるムカデ女。
でもまだ。
全力で潰す。
条件は満たしてる。
──〈鉄血〉発動
血を、鉄に変える〈呪怨〉が荒れ狂う。
ムカデ女の頭の中を、魔力組織を破壊しながら、呪いの鉄が駆け巡る。
血管を、肉を、骨を、皮膚を、眼球を貫き、内側から鉄の針が爆ぜるように飛び出した。
どう、だ…! 全身の血え、きを、屑鉄、に、された気分は…!
声がしなくなった。
これ、で、もう──
赤黒い肉がゆっくりと蠢いた。
鉄の針を包む様にぐじゅぐじゅと増殖していく。
うっそ、でしょ、う。
なんで、生きて…!? ──うぎぃ!!?
また髪の毛がまとわりついて体内に侵入してくる。
か、み!? 髪の毛!? 頭も心臓も眼も潰して、なんで!?
私の体から伸びてる鉄の針に、髪の毛のいくつかが巻きつき、混ざるように赤黒い何かに変化していく光景が目に入った。
ま、さか、こいつ、〈呪怨〉を、取り込んで、る?
髪の毛が、本体? で…。
まさか、私と同類の、〈呪怨〉持ち、とか?
わ、笑え、ない…! 冗談、キツ過ぎる、でしょ…!
意識をなんとか向けて、真っ黒い髪の毛に鉄をぶつけていく。
黒い髪の毛が、鈍色の鉄に変化する。私の鉄が、ムカデ女の鉄が、黒い髪の毛に呑まれて赤黒い肉に変わる。
互いの侵食速度は拮抗してるみたいだけど、このままじゃ不味い。
私は痛みが分かんないくらいもういっぱいいっぱいだし、これ以上、血を鉄にしたら失血死する、はず。
でも私の血そのものじゃないと、〈呪怨〉が発動しない。
腕輪や靴から収納の中の鉄武器を適当にぶつけるけど、真っ黒な髪に触れても肉に変えられるし、赤黒肉に刺さったものは呑まれていく。
真っ黒い髪が私の体に触れる度、体内で〈鉄血〉が発動して鉄が生え髪の毛を吹き飛ばすが、意識も飛びそうになる。
これはダメ、か。アウ、トだわ。
腕輪や靴は特別な鉄だから、そうそう変質しないはずだけど、もう手段が何も無い。髪留めの中身を解放する、時間も無いな。
アクアの巻き貝を鉄武器で押して出して、足で遠くに蹴り飛ばす。
賢いから勝手に、逃げてくれるでしょ…。
ごめん、親友。やっぱり私、野垂れ死ぬ、みたい。
でも、最後に、目の前のこいつを…!
こんな人生だったけど、だからこそ…!
──役に立って、死にたい。
「うあ゛あ゛あ゛ああ!!!」
鉄が生えまくった両腕で、黒い髪の毛を掴む。私の手が腕が、私の呪いとこいつの呪いでぐちゃぐちゃに変質する。
さっきから理不尽ばっかり与えてきやがって…! 私の存在を、あんたの都合で無視しやがって…!
──許さない
〈呪怨〉を全霊で駆動させる。
勢いを増して私の呪いが髪の毛を呑み込んでいく。
そして、それ以上の速さで私の血液が消えていく。
──さ、さむ、寒、い。
なつか、しい、な。 こ、れ………──
そして。私の視界は、真っ黒な光に包まれた。