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177話 一段落と適応試験

「待たせたな、イーサン。」

「なんのなんの。無事に終わったようで良かったわい。」


町の行政長との会談が終わった後、顧問さんと合流した私達はそのまま移動を始める。


顧問さんはずっと、指令所の近くで山羊馬車ごと待機していてくれていた。

有り難い話だよ、助かります。まあ、私達を放置して戻っても心労で仕事にならなかったのかも、だが…。


ともかく、貴族との会談で見聞きしたことを顧問さんに伝えて、今後の動きを確認した。

事前に大まかなことは知らされていたらしく、顧問さんの驚きは少なかったようだ。



「して。これからどうする?」

「…。魔猪(まちょ)の森の探査をしようかと思ってる。」


「ベフタス殿の依頼か?」

「直接は頼まれていないが、な。」

「意向を()むという訳か。」

「まあ、酒も(だいだい)も美味かったからな。それに見合う働きくらいはするとしよう。」


どうやら、シリュウさんは積極的に動くことにしたらしい。任務(クエスト)のついでに色んな食料も手に入るし、貴族の後ろ(だて)があれば動きやすいだろう。

完全に専任官(ベフタス)様の思惑通りだろうな、これは…。シリュウさんの昔馴染みだけあって操縦方法を心得ている。


よくよく考えてみれば。

特級冒険者(シリュウさん)を動かすことが、高級果実「橙」の対価だったのか…。



「テイラはどうする?」

「…何を、ですか?」


話の流れで言いたいことは(さっ)せれるが、一応確認しておこう。



「魔猪の森に付いてくるかどうか、だ。」

「そんなのもちろん、嫌ですけど…!?」

「だよな。」


なんで答えが分かりきってるのに、危ない魔境に私を突っ込もうとするのか。

しかし、シリュウさんは私のことを思ってそんな提案をしているらしい。



「特級冒険者に成ろうと思ったんだったら、ここの森くらいは経験しても損は無いと思ってな。」

「あ~…。私の功績にはなるか…。」


「…。それに。ベフタスの態度が少し気になったんだ。俺との距離感は昔と大して違わないが、テイラにはあまり話を振らなかっただろ?意識して避けてると感じた。」

「儂も、重要な食客なのでシリュウと同等の扱いをお願いしてはいたが。理由は言っとらんしのぉ…。

あの方なら突っ込んだ質問をするかと思っておったわ。」


「ある程度情報を掴んだ上で様子見しているのかもな…。」


「もしかして、シリュウさんと離れる機会を狙って襲撃される…!?」

「いや、流石にそんな行動はしないとは思うが…。」


むしろ、どこぞのツルピカギルドマスターの方が可能性あるか。呪い持ちだって知ってるし、殺人未遂もしてるし、その報復で──。


まあ、冗談冗談。そこまで暇じゃないわな。


…。


ないよね…?



「仮に何か有ってもテイラが近くに居れば守れるし、森で仕留めた獲物を直ぐに調理できるしな。」

「まあ、シリュウさんにもメリットは有るのか…。でも、私なんかがなぁ…。」


「テイラの対応力を考慮すれば、森の中層まではいけるとは思うぞ。俺が付いてるし。」


む~ん…。過大評価だとも思うが。いや、そもそも魔猪の森のレベルが分からんけども。

デカくて強い猪がわんさか居るんだろうしなぁ…。「も○のけ姫」の如く…。



「テイラを残すにしても心配事は有る訳だしな。

ダリアの奴が屋敷の守りに付いてくれるなら、まだ安心できるが…。」

「シリュウが森に入るなら、確実に付いていこうとするじゃろうな…。」

(ミハ)(トニアル)も居るとはいえ、大人しく留守番はしないよな。」

「うむ…。」


そうか。信頼できる戦力が、揃って離れるのか。懸念は有るだろうけど顧問さんやミハさんも魔法は使えるエルフなんだし、どうにかなりそうな気もするが…?



「まあ、少なくとも明日に出発することはない。まだ時間もあるから、よく考えておけ。」


「もう今日にでも()つのかと思ってました。」

「明日で1週間だからな。ドラゴンカツを放置してから。」


「………あ。

豹柄(ひょうがら)カビ!!」


ドラゴンを腐らせる謎の奇病に関係しているらしい、カビの実験してたんだったね!

そうか、あれからもう6日(1週間)か!早いな!?



「…。(虎柄(とらがら)だと思うんだが…。つーかまた忘れてたな、こいつ…。)」呆れ…




──────────




顧問さんの助言で、森に向かうことを告げる為に冒険者ギルドを訪れた私達。前回同様、裏口から入ってギルマスの部屋へとやってきた。

アポ無しでいきなりの訪問だが大丈夫だろうか?



「魔猪の森へ行く。」


「…、ようやく顔見せたと思ったら…。随分いきなりだなぁ、おい?」

「じゃあな。」くるり反転…


「待ちやがれ。説明(はなし)をしろ!」


シリュウさんは開口一番、目的だけを伝えて即行で帰ろうとする。

ギルマス(ツルピカ)が慌てて引き留めた。


久しぶりのスキンヘッドのおっさんは、普通な感じで仕事をしていたようだ。

殺し合いをした私に気づいているけれど、特に何かを言われることはなかった。今回は周りに誰も居ないし警戒しなくていいんだろうか。



「俺を探ってたとか言う貴族の女は、ベフタスが処理した。他にギルマス(お前)に話すことはないが?」

「それは俺も聞いた。竜喰い(あんた)に好きにさせる様に、とも通達を受けてる。」はあ…


諦めた様子のツルピカヘッドが私を見た。



「この女を連れてくなら、適応できるか試験するのが先だ。魔猪の森は初めてだろう?こいつは。」


ん?森に入るのに許可じゃなくて試験が必要なの??



「…。(そんな(もん)、有ったか…?)」


「おい、外部顧問(じいさん)。話してねぇのかよ。」

「すまん。…、伝えて忘れておった。」頭下げ…

「しっかりしてくれよ…。」


私の事で顧問さんに迷惑かけてたから頭から抜けてたんだろう。申し訳ない。



その後、ギルマスが雑に言ったことをまとめると。


魔猪の森は、貴族の魔法使いで構成された魔猪討伐(まちょとうばつ)騎士と冒険者が連携して作業をしているから、決まり事(ルール)がたくさん有るらしい。

それを周知させる為に、入門体験的なことをさせるんだとか。


両者の役割分担。魔猪の種類と対処法。平時と緊急時の連絡手段。外壁の機能に、やっちゃいけない御法度(ごはっと)。等々…。

自分から説明しておいて「ギルマス(おれ)に説明させてんじゃねぇよ。」とか言う謎文句はまるっと無視して。


軽く聞いただけでも、大変そうだ…。

これは、やっぱり屋敷に引きこもるのが正解かも知れないな…。



なんて消極的な主人公だろう。ここまで来て魔猪と遭遇しないとか話が進まないやつ。


次回は17日予定です。

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