172話 マヨネーズと恩返し
「~!♪」
町の権力者に会いにいくこととか、親友が故郷で長になったとか、そんな現実は一旦無視して。
現在は話し合いが終わったお昼過ぎ、屋敷の庭にて料理中である。程よく雲ってて、心地よい風が弱く吹き、とても過ごしやすい。
私が歌っているのはアニソンだ。
具体的に言えば、ガ○ダムOOのオープニングとエンディングである。忘れている箇所も少々あるが、そこはノリで適当カバーだ。
レイヤのことを思い出したら自然と頭に浮かぶんだよね。あいつが好きだったこともあるし、風魔法を使う時に出る緑色のキラキラ粒子がG○粒子を連想させるせいでもある。
頭の中をテンション爆上げなセルフBGMで満たしておいて、両腕では適度に調理工程をなぞっている。
材料は、卵、出汁、塩、酢、油と言ったところ。
卵は普通の鳥の物で、短い時間だがシリュウさんのマジックバッグの中に入れて消毒済み。生で使う部分も有るから心情的にはしっかり障気と言う名のサルモネラ菌達を消しとばしたいが、これ以上長いと中の水分が抜けてガチガチに固まる為諦めた。
出汁はガチガチ乾燥肉を煮込んだスープ。これで卵を溶いて出汁巻き卵焼きを作るのだ。
そこに今回は、禁断の調味料を付けて食べる予定である。生の卵と酢と油で作る、カロリーお化け「マヨネーズ」だ。
こっちの世界でも実は、生卵を食べる習慣が有る。並みの障気・邪気を寄せ付けない、高魔力で守られた新鮮な魔鳥の卵限定の話ではあるが。
加熱したり何かを混ぜたりすると折角の魔力バランスが乱れるとかでむしろ調理することが無粋の極みと言われるが、魔力の無い私には縁の無い話だ。
兎も角。なんとなくストレス発散に味の濃いジャンクな物を食べたい気分の私が、調理場から頂ける食材の中から閃いたメニューが「出汁巻き卵のマヨネーズ添え」だった。
マヨネーズって凄いよね。卵の水分と油って言う本来相容れない2つを、酢が加わることで乳化だったかエマルションだったか言う現象が起こり、混ざっちゃうんだから。偉大すぎる発明だ。
ふふふ。塩と油はシリュウさんが持っているやつを使わせてもらったから相当に旨いはず。昼ご飯代わりに爆食いしてやらぁ。
町長の召喚状とか親友があの島のトップとか、そんな事実、恐るるに足らず!!(めちゃめちゃ気にしてる。)
「…。(変な気迫のまま料理は普通にしてるな…。
光が消えるだの、祈りがどうだの、運命を変えるだの。明らかに料理に関係無い、謎な歌過ぎるが…。)」
シリュウさんが変な目で見てきているが、今さら気にしない。他の人達も居ないしね。
あんな重大な話をした顧問さんは「テイラ殿のギルドでの重要性は跳ね上がりましたが、儂からは無理に何かを要求することは有りません。食客としてゆるりと過ごしてくだされ。」と言って、今まで通りの関係を保ちたいと言ってくれた。
例えお世辞であったとしても、有り難いことである。
普通の思考でいけば、私を交渉人にしてエルド島との関係改善を試みたり、或いは人質にしてレイヤに交流再開を強制させたり、なんてことも有り得る手段だ。むしろ組織の利益的には選ぶべき道だろう。
まあ、今すぐレイヤに会いにいくとか無理矢理交渉するとかしたら、あいつがぶちキレてギルド本部が塵になる…いや。水・土氏族と風氏族によるエルフ大戦が勃発する可能性が有るから止めておいた方が正解だけども。
──────────
マヨネーズを混ぜておいた特製卵液で、出汁巻きを焼いて…。
アツアツの内に、スプーンを使って小皿からたっぷりマヨマヨを乗せれば…。
「ー!♪ー!!♪♪──良し!こんなもん、こんなもん。
シリュウさ~ん、完成しましたよ~。」
マヨネーズの味見したらめちゃ美味だったから、きっと美味しいだろう。
「…。(急に来たな…。)大丈夫なのか?」
「ん?ちゃんと火は通したつもりですけど。」
「ずっと変な歌を歌い続けてたろ。テイラの情緒が不安なんだ。」
「まあ、色々大変な話を聞いてどう対処していいものやら悩みましたけど。
無心で歌と料理に集中したおかげで、精神統一はできました。」
「…。(どこに精神を整える要素が有った??)」
「まあ、それはともかく。ストレス発散がてらとは言えちゃんと作ったんでどうぞどうぞ。」
「…。」
シリュウさんがお皿の上の出汁巻きを、フォークで分割して口に運ぶ。
「…。」もぐもぐ もぐもぐ
あれ?
どんどんと続けて食べてるから美味しいのかと思いきや、シリュウさんは真顔のままだ。
「お口に合いませんでした…?マヨネーズ無しを作り直します…?」
「…。いや、すげぇ美味い。
…。美味いんだが…。」
「だが…?」
「…。これを作った奴とあんな戦闘特化のアーティファクトを作る奴が、同じ人間で。
しかも目の前に居る、って事実に頭が混乱しててな…。今さらながら…。」むぐむぐ…
「シリュウさん的には料理の方がお好きでしょうし、別に気にすることでも無いのでは??」
「あのな。アーティファクトだぞ?
テイラにしたら呪いの産物だからと別物扱いなんだろうが。「星の意思の具現」だの「生命無き精霊」だのと呼ばれてる超抜の物体だからな?」
「仕組みが似てるからと私達が勝手にアーティファクト呼びしてるだけで実際、別物なのでは?」
「少なくとも存在強度は本物と変わらん。俺だってそれなりに、興味はある。」
「え。興味有ったんですか?確か前に、アーティファクトを作る気は無いって…」
「…。…?…。(ああ。)それは「ダリアの武器を作る為に」って前提だろうが。俺が使える物として有れば欲しいとは思っている。魔力を籠めても壊れない、なら、な。」
「──創ってみます?アーティファクト。」
シリュウさんが食事の手を完全に止めて、私のことをじっ…と見る。
「…。」
「もちろん。シリュウさんが私の〈呪怨〉を受ける覚悟が有るなら。ですがね。」
「…。自棄をおこして言ってる訳じゃないよな?」
「はい。それはもう。」
私もシリュウさんの目をしっかり見据えて返事をする。
「シリュウさんのおかげでここまで来れて、色んな事を知れました。まあ、私が起こした事件の証拠が無いから無罪ってのはちょっと不安ですけど…。
ともかく。逃げ続けて放浪する必要もないって分かりましたし、親友が故郷でまあ頑張ってるらしいとも知れました。ちょっくら私もここらで気合い入れてみるか、と思える様になりましたかね。」
「…。俺は関係ないだろ。」
「何を仰る。こんな陰気な呪い女を必要としてくれたお人ですよ?シリュウさんは。」
「…。(よく分からん奴だな…。)」
「まあ、別に急いで結論を出すもんでもないですし。しっかり考えて、またどうしたいか教えてください。
少なくとも、創る時は町の外でやりますし。」
「外?他人に見られる方が面倒じゃないか?」
「ん~、それはそうなんですけどね。
私の創るアーティファクトって、どういう性質の物が出来るかいまいち分からないんですよ。どう魔力を籠めたらどの属性が出現するのか、魔法特性はどんなものが適合するのか…、レイヤの時も割りと実験を繰り返してました。
だから、シリュウさんの場合…。最悪を想定しておくと──」
「…おくと…?」
「──完成した魔鉄の性質が、「火山の火口の如く、延々と溶岩が生成される」。とか有り得そうでしょう?
町中でやるには危険かな、って。」
「…。」うげぇ…!
シリュウさんがもの凄く嫌そうな顰めっ面をしている。
自分の理想の物が勝手に生えてきたりはしないんすよ。人生と同じでね(謎達観)
「そんな訳で、色々相談してからやるのかどうか決めましょう。」
「…。」はあ…
「さあて、私もマヨマヨ出汁巻き、食~べよ!」
ちょっとこの後の展開に難があるので1回お休みもらいます。
次回は6月2日予定です。




