171話 アーティファクト・ソード
説明回ばかりで申し訳ない。今回で1区切りです。
「事の起こりは、1年半前。トスラのギルドマスターがエルド島の風氏族を呼び寄せたことが始まりです。」
私が知らない、私の過去に関わる話を顧問さんが語り続ける。
「彼のギルドに保管されていた当時の記録がほとんど失われておるものの、おおよその出来事は判明していまして。
それに依れば──風の魔法にてテイラ殿をこの国へ飛ばした後、レイヤ殿はその場で他の風氏族達と決闘をしたそうです。」
…え…?決闘??
「あいつ、ボロ泣きしながら「諦めて、島に帰る。」って…。「テイラの冒険譚を、いつか聞かせてね。」って…言ってたから…。大人しく故郷に戻ったものとばかり…。」
「…、(辛い別れだったのですな…。)
彼女の心情は分かりませぬが、大規模な戦闘が行われたのは確かな様で。その余波でギルドの施設が倒壊し、風エルフ達も皆深手を負ったそうですから。」
魔法戦闘で建物を壊したの!?
「ま、待ってください!あの場に居たのは、風氏族のエルフ5人ですよ!?しかもレイヤの父に当たる、ジョゼル様まで居たはずです!あの方、風エルフらしからぬ超武闘派で、周りに居た方々も相当鍛えられた親衛隊みたいな人達だったはずですが!?」
「ええ。相当なお力をお持ちだとか。しかし、結果としてはレイヤ殿が勝っておいでです。」
「えぇぇ…?」
「…。それはどう確かめたんだ?」
「風氏族同士の決闘は当然騒ぎになってな。付近に居た高ランクの冒険者が見聞きしておったらしく──」
顧問さんにも詳細は不明だが、ギルドでも影響力の有る人物達がこの件を目撃しているらしい。
ただ誰がいつどの程度まで関わったのかは情報が伏せられている模様、とのこと。
大陸中央からもエルフが介入していることは確からしいが、もしかしたら水か土の氏族までも参加した可能性が有るそうで、事の顛末がそこで遮断されている様だ。
氏族エルフとレイヤの間で何かあった…?秘密裏に仲良くなった?それとも揉めた??
「…。ともかくギルド本部は、それを事実としている訳か。」
「ああ。激しい戦闘に勝ったレイヤ殿は、自らが下した風氏族達を引き連れて故郷に帰っていったそうだ。そして後にエルド島の長となり、ギルドとの関係を絶つに至る、と言う訳じゃ。」
うーん…。この内容そのものが誰かの作り話の可能性はあるが…。筋は通るっちゃ通るよな…。
レイヤの奴、風氏族エルフ達の意識をいつか変えていかなくちゃ、とか真剣に考えていたし…。父親への下剋上が成ったなら私と合流するよりも、故郷の未来を変革しようとしたのかも。
「しかし、世界樹の管理者とは言え十年そこらしか生きてない奴が氏族エルフに勝てるもんなのか…?」
「そこは儂も疑問ではあるな。詳細も何も伝わってはおらんし、話をしてくれた者も半信半疑ではあったわ。」
「正直なところ。レイヤが勝ってても負けてても大筋の流れは変わりませんし、気にしない方が正解かもですね?」
「そうかもしれませんな。
ただ。おおよその事実として。大規模な戦闘によりトスラの町の一画が破壊されたこと、当時のマスター・スーケボナの両腕が消滅し再起不能になったことは確実の様です。」
「は?」
「はい?」
「彼のギルドマスターが解任しておることは先程伝えた通りなのですが。不正行為に対する処罰等ではなく、魔法が使えぬ身となり業務遂行ができなくなった点が大きな事由の様で。」
「…つまり、両腕が魔力回路ごと消えて無くなった…?」
「はい。どうやらそう言うことの様です。現在も彼の国の病院施設に収容されているそうです。」
ポーションや回復魔法で怪我を治す施設を「治療院」、魔法では治しようがない病を看る施設を「病院」と呼称しているそうだ。
通常なら。不思議な臓器(?)「魔力回路」が相応に機能していれば、腕が千切れても癒着できるし、大量に適合する魔力を流しこめば消失した骨や肉の再構成も可能だ。
逆に。どうやっても回復できないってことは魔力回路が死んでいて、対処不能と判断される。その場合は回路そのものを復活させるしか無いが…、そう簡単に実現することでは無い。
しかも消滅したのは腕だから、日常生活だけでなく魔法発動まで困難な身になったらしい。自分の外の魔力操作には「腕」や「手」と言った感覚器官はとても重要なのだ。
スーケボナ、もう既に魔法が使えない体になっていたとは。
私のちょっとした敵だって、シリュウさんに教えた意味なかったなぁ…。
「そこそこ魔法が使える奴だったんだろ?そんな怪我をどうやったら負うんだ…?」
「精霊魔法でも直撃したんじゃないかい?」
「レイヤ殿が憎しみを募らせて攻撃したのかものぉ。世界樹の欠片の力が有れば幼いエルフにも可能かも知れぬし…。」
「レイヤが…、キレて…、意図的に…?
まさか…??」
「…、心当たりが有るのですかな…?」
「え、と…。もしかしたらなんですが…。「アーティファクト」を使ったのかも?って?」
「?…ですから「世界樹の欠片」──」
「待て!!テイラの「〈呪怨〉の鉄」を持ってんのか!?そいつは!」
「「!?」」
「「」」既に放心状態…
「まあ、持ってる、と言うか…。
ぶっちゃけると、レイヤ専用の戦闘特化アーティファクトなら作りました…。」
「マジかよ…!!」
「な、なるほど…。」
「アタシの棍棒みたいな物かい…?」
「えっと…、一応?は剣の形してます。
あー…、「あれ」を全力で使えば風エルフ達にも勝てるか…?」
「魔導具」は所有者が籠めた魔力を目的の魔法現象へと「導く」道具な訳だが、「アーティファクト」はそれ自らが「魔法を保有している」謎物体の総称だ。
その存在強度は普通の物質のそれではない。
「「…、一応?」」
「…。そんなに奇っ怪な武器なのか?」
「ええ、まあ。レイヤの奴が冒険者として形に拘ったんで、普段は剣に見える様に──ってこの話、興味有ります??」
「聞かせろ。」
「聞かせな。」
「お願いしますじゃ。」
「えー、どう喋ったもんかな…。
まず、素材は私の腕輪や髪留めに使った「魔鉄」と同じ物を使って作ってます。レイヤの魔力が籠めてある呪いの金属が、属性ごとに4種類。
そして、レイヤは私と違って生活には自前の魔法が使えるので、あいつに足りない近接戦闘力を補う目的で作成しました。ただ剣を振り回すセンス──感覚とか技量があいつには無かったんで手で握る武器ではなく──、
すみません。ちょっと鉄使って説明しても構いませんか?」
「構いませんぞ。」
「…。(アーティファクトの剣とか、勇者の聖剣みたいな話だな…。)」
私は腕輪から手頃な鉄塊を取り出しぐにぐにと形成し、レイヤ人形を作った。腰には鞘が装備され、手にはノコギリの様に段の付いた6対の両刃の剣が握ってある。
こっちの世界では通じないがクリスマスツリーみたいな形をしている。
「…。(普通のガキに見える…。)」
「ふん。これで傷付けば治りにくそうだね?」
「この形状ならまだ剣に見えますが…?」
「これが普段持ち運ぶ時の状態で、これを解放すると──」ぐにぐにむにょむにょ…
剣がバラバラになり、6枚の三角形が独立してレイヤ人形の周りを舞う。
私の鉄は魔法でないから空中に浮かしたりできないので、細い鉄の支えを接続させて空中浮遊を再現させていた。
武器の形状も含めてガ○プラみたいな感じだ。
そう。これはファ○ネルである。
あるいはビット、ビームが出ないからファングと呼ぶべきかもだな。
「「…、」」
「…。おい?」
「色がないので分かりづらいでしょうが、3種類の空中浮遊する鉄塊6つが戦闘モードです。全てに風の魔鉄が組み込んであって緑色の魔力粒子を撒き散らしながら空中移動する仕組みになってます。
あいつ自身の血が元になってるからか私が使う時と違って魔力放出・魔法操作が可能なんですよねー。
この内、炎の赤が2つ、水の青が2つ、土の橙色が2つ、の構成で。赤いのからは炎の熱線、青いのからは水の障壁が出て、橙色のは岩の刃を纏っての物理兵器になります。」
全員無言なので、思い出せる限り情報を追加していく。
「ここにレイヤ自身の魔法が加わってオ○ルレンジ攻撃──えー、空間全方位に同時攻撃が可能になる算段です。
それと一応。剣の鞘は、呪いの鉄に風の魔鉄を嵌め込んである物なので対魔法のシールドビット──浮遊盾、にはなりますかね。
実戦で使う場面は無かったんですけど。これを上手く使えば…、魔力回路ごと肉体を破損することも可能やも…??」
私の鉄は、魔鉄と違って錆びるからもう壊れてるかもだが。そこは今関係ないな。
それに浮遊刃の7つ目っていう秘密兵器も有るしねぇ。剣の柄の中に入れてた、あの隠し玉を使いこなせばジャイアントキリングもいけるか?
「…、(こんな傑物がギルドから離れた訳か…。惜しいことをしたもんじゃ…。)」悲嘆…
「…、(う、腕が鳴るね…!いつか闘ってみてぇ…!)」戦闘狂…
「「」」無言放心…
「…。(なんかもう色々と…)最高に、狂ってるな…、お前ら…。」
「え~…、お褒めに預かり恐悦至極…?」
「そうだな…。もう褒め言葉かもな…。」遠い目…
レイヤの戦闘モードは、ダ○ルオークアンタみたいな感じを想像してください。
次回は27日予定です。




