170話 故郷とギルド、そして奴
立場有る貴族からの召喚状にざわつく現場。
本当にどうしましょうか…。
シリュウさんも自分1人だけならこの後にでも行くつもりだったらしいが、私を連れていくとなると話は別、とのこと。「このまま無視するのが正解か…?」と呟いて悩んでいた。
領主…じゃなくて。町長みたいな権力持ってる人間相手に、無視はとても不味くないですかね…。そうしたくなる気持ちはとっっても分かるんですけども…。
それか。私の名前とか素性は判明してないみたいだし、適当な青い髪の女性を替え玉に出来ませんかね…。
そんな都合のいい人間が居ないよな…。
こんな水色髪の人種が居るとしたら、余程水属性の魔力が強い貴族か、はたまた水のエルフとか、そこから派生したらしい夢魔の一種「水妖人」くらいだろう。最後のは話を聞く限り、ほぼほぼ「人魚」・「魚人」の類だし、そこら辺に居る訳ないが。
悩んでも結局良い案は出ず、召喚状は一旦放置して顧問さんからの話を聞くことになった。
「…、テイラ殿。こんな時に申し訳ないが、儂の方からとても重要な話をせねばなりません…。」
今日初めて聞く顧問さんの声は、とても重い響きだった。やっぱり処罰に関する話じゃなかろうか、これ…。
「は、はい…。」
「…、我ら冒険者ギルドと、風氏族エルフの住まう地「セル・ココ・エルド」が…、交流を断絶しております。」
「…はい…??」
「正確に言うならば。ギルドを管轄する土・水の両氏族と、風氏族との間で交わされた友好条約が破棄されておるのです。」
何のこっちゃ??
「いや、まあ、驚きの事態ではありますけど…。あの島から逃げ出した私には関わりの無いことだと思いますが…。」
「仰る通り。これはギルド組織内部の問題であります。
しかし、テイラ殿にも影響する話ではあるのです。
儂個人としてはテイラ殿の助力を願う真似はしませんが…、お耳には入れていただきたい。」
私の助力??
縁の切れた故郷と、世界に跨がる巨大組織を相手に、非魔種ができることなど何も無いが?
「端的に申しますと…。風氏族の長が最近、代替わりをしまして。その方が彼の島の大改革を行っており、ギルドとの交流断絶もその一環なのです。」
あ。ヤバい。
猛烈に、嫌な予感がする…!
もし私の想像した人物が、エルド島の頂点に立っているとしたら…!?
いや!落ち着け!奴は若すぎる!!
長になんて成れる訳がない!そうだと言って!!
「現在の、風氏族の長の名は──カレイヤル。
カレイヤル=ウィリディスアーエール様。
風の世界樹「星の伊吹」に正当な管理者として認められた、風氏族エルフの姫君…だそうです…。」
「「!?!?」」
アウトー!!完全アウトー!!
なんであんなお気楽おバカが、故郷で一番偉い存在になってんだ!?あいつ私と同じ16歳ですよ!?周りの人は数百歳ばかりの、最高1000歳超えの方まで居るんですよ!?
誰だ!そんなとち狂った決定を下した奴!?大長老は何してんの!?もしかしてもう亡くなってますか!?歯止めが効かなくなって孫がクーデター起こしましたかー!?!?
「おい…。そいつって…テイラとパーティーやってた奴だよな…?
世界樹の欠片を叩き割って片方を譲った、って言う…。」
とんでもない現実に打ちのめされされた私にシリュウさんが確認の言葉をかけてくる。
いっぱいいっぱいで返事をせずに、小さく頷いておく私。
「あ、あの…。顧問さんを疑う訳ではないんですが、その情報は確かなんですか…??何かこう…勘違いだったりする可能性は…?」
「繋がりのほとんどが消えた今、情報が誤っていることは有るかも知れません。
ですが、エルド島の勢力が過去千年の間、保ってきた秩序から外れておることは確かな様です…。」
「秩序から、外れる…?」
「…、エルド島で新たに結成された商業組織が、大陸沿岸の海洋都市のいくつかに独自の交易を持ちかけておるそうで…。そこからエルド島の現状が伝えられている次第でしてな…。」
「あの、閉鎖的な島が、商業に、交易…?」
「ええ…。以前でしたら彼の島の外交を担っていた「エルドアル家」が風氏族の命の下、魔導船を使った小規模交流を──」
久しぶりに聞いたな、その名前。私も一時はその家名になってこともあった。
まあ、「エルドエル」でも「エルドアル」でも大差無いが。なんなら「エルドセル」家ってのも有った──
「──立ち上げられた、「ウォーターグリーン」と言う名の──」
「!!!?」ブフォ!!えほっ!ごほっ!!
「大丈夫ですかな!?」
暗い過去に想いを馳せていた私の耳へ、とんでもない名前が飛び込んできた為、盛大に噴き出してしまった。
「どうした?いったい…。」
隣に座るシリュウさんが、遠慮がちに背中を擦ってくれる。
も、申し訳ねぇ…。
「ぃや、ごめん、なさい。ちょ、ちょっと、有り得ない単語が聞こえたもんで…。」こほっ… んんっ…
「ほ、ほう…。」ちょっと引き気味…
「あ、あの、もう1回組織名を言っていただけません?聞き間違えた可能性も…。」
「…、「ウォーター・グリーン」、です。」
「…聞き間違えじゃなかった…。」ずぅん…
「…。緑色、の水?…いや?水の、緑か?」
「魔法詠唱の土文字って言うなら、そんな意味だろね。何のことだかさっぱりだが。」
「儂にも心当たりは無いな。」
うん。そうだよね…。
「「ウォーターグリーン」は…テイラとレイヤ、2人で始めた冒険者パーティーの、名前です…。」
「「「「…、」」」」
「…。レイヤが、関係者なのは確定したな…。」
「間違い無いのぅ…。」
私と奴の髪色、水みたいな青色とキラキラ緑色、から連想しただけの名前なんですがね…。
「…あれ?でも、トスラの記録を調べたんですよね?
私達のパーティー名程度、ご存じかと思ってました。」
「実は、彼のギルドは1年半前に倒壊しまして。当時の記録はほとんど残っておらず調査ができませんでな。」
「と、倒壊?
大きな地震でもありました??」
大陸東部のあの辺りは、造山活動の有る地域で割りと地震が発生してる場所だった。頑丈だけど古い建物だったし、完全に崩れたら記録とかもダメになる可能性はある。ほとんどが、潮風に耐性の有る木の板に記した物だったし。
「いえ、災害等ではなく。人為的に破壊されたそうです。1人の、エルフによって。」
「1年半前──去年の春の──、エルフって…!?」
「はい。カレイヤル様──いえ。冒険者レイヤ、と呼ぶべきでしょうな。
彼女の手によってトスラのギルド支部は消え去りました。」
何やってんの、あいつ…。
ミハ「…、(私だけ除け者にして皆は何の話をしてるのかしら?)」料理の下拵えをトントントン…
次回は24日予定です。




