17話 化け物との戦い
戦闘描写って難しいですね。
バネ弓から放たれた矢は、ほとんど真っ直ぐに飛んでいった。
私は結果を見る前に第2射の用意をする。
特に大きな音もせず、矢はムカデ女の胴体に突き刺さる。
体の中心狙ってちょっとでも当たれ作戦、成功!
「キィィィギィィィイイイ!!」
ムカデ女の口、見当たらないけど悲鳴か?
発声できるなら、魔法詠唱の可能性アリか。面倒な。
第2射を放つ。
1射目がお腹辺りに刺さったまま、回避行動を取るムカデ女。
あんたの図体じゃあ完全に木の影に隠れられないでしょう。
私は移動しながら3射目の準備をする。
私の鉄には魔力を散らす効果がある。魔法効果が効きづらいのだ。角兎の毛皮を切れる理由がこれ。
痛覚を鈍くする術があってもその効果を散らして痛みを生じさせるし、体内の魔力の流れを多少妨害できる毒みたいなもの。
抜かせる隙は与えない。抜かれてもその間に次を叩きこむ!
ムカデ女は立ち止まって矢を抜こうと手で掴んだ。そこに矢を射る。半分くらい外れるけど、追加で2本刺さった。
──って、え?
私の矢が消えた。
赤黒い肉に包まれたかと思ったら、あいつの体内に沈みこむように消失した。背中側に出てた部分も見当たらない。追加で刺したやつも消えてる。
はあ!? 私の鉄なんですけど!? 魔力持ちにはある意味毒よ!?
分解? 吸収? 亜空間収納?
鉄の性質はあるから酸で錆びたり溶けたりは分かる。でもそんな感じした?
固体の金属塊を吸収するか?
収納するには魔力で染めて支配下に置く必要がある。これこそ無理なはず。
「ギッキィ、ギギギギャ!ギャギャギギャッ!」
あら?怒ってる? いや、苦しんでる? ええい分からん!
分かるように説明しろ! そもそもどこに口あるんだ!
新たに矢を番える。
とりあえず反応はあった。なら、やれることをやる。結果や効果なんて知るか!
矢を放つが、集中が乱れてるのかあいつが速くなったのか、当たらない。ぬるんぬるんと気持ち悪い動作でこちらに近寄ってき──
がぁ!!?
また激痛が走る。首に巻いてた鉄アクセサリーを変化させてミニ棍棒にし、変形の勢いでそのまま頭を叩く。
さっきからこっち見てたでしょ! なんで今!? 効果範囲が短いのか!?──ってまた!?
再びの激痛。同じ要領で叩く。もう弓を構えられなくなってきた。
これっ、近寄られたらっつあっ! 無限ハメ技で、死ぬやつ!?
鏡盾、展開!
出した盾を左手で握り、その影に身を隠す。ついでに盾に頭突きして精神異常を打ち消す。
弓は収納。代わりに短槍を出して、構える。
あいつはどうなった? 表面ピカピカなだけの鉄板だ。対メドューサのペルセウスみたいに石化反射は無理──
ピキンパキン…!
と音がして、盾の持ち手より上部が砕けて、破片が舞い落ちる。
ちょっ!? 魔法霧散効果さん、仕事して!? ──うぐぅ!
すぐさまあいつの視線が飛んでくる。
盾もう1枚!!
アンド頭突き! アンド盾から鉄槍!
盾の向こうは見えないけど、さっきそこに居たんだ。数本の槍で牽制できたら儲けもの!
パキンピキンパキン!
金属の甲高い音が連続する。なら、そっちら辺に奴が居るってこと! 槍を追加で出して盾と融合させながら、音のする方に鉄を出鱈目に伸ばす。
パキンパキンと音はまだしてるけど、当たった手応えもある。このまま押し込む。
シャキキキィン!!
より高い気持ち悪い音が連続で響いたと思ったら、私が握ってた盾が消えた。いや細かいキラキラ粒子が舞っているから、分解されたみたい。
右手に持っていた槍を突き出しながら鉄を足して延長させる。激痛を貰いながらのカウンター。
次の手として、踏み出した右足の靴からも鉄を伸ばす。
鉄が何故か分解されるなら、激痛があるだけで動ける生身で戦う。
ムカデ女は腕を盾にして槍を受け止めた。槍先が腕に食い込む。足からの鉄を頭狙いで伸ばし──
しゅるり…
ムカデ女の髪がこちらに伸びて私に巻き付いてきた。
「──あっ…がっ…あ。」
体が動かない。力が入らない。頭が回らない。
私は何の抵抗もできず、ムカデ女に組み敷かれる。ぬめぬめの足に押さえつけられ、こいつの両腕が私の顔を掴み、覗き込んでくる。激痛は起こらない。
でも、髪が巻き付いたところから、気持ち悪い鈍痛が広がっている。
「キィキィ、キィァ♪」
なんて言っているのかは分からないけど、勝ち誇った笑い声をあげてる、気がする。
何となく、『食べられる』、そんなワードが浮かんだ。
う、ぜぇ…!
そんな、苦しい死にか、た、して、たまる、か…!!
どうせ、死ぬなら──!
私は、私の血に宿る、
〈呪怨〉を発動させる。