169話 私の処遇とやべぇ手紙
蒸留酒がイーサンに振る舞われている頃、マボアギルドの建物内部──
「ゴウズさん。他の支部から報告内容、まとめ終わりました。
──どうしました?」
「…、恐ろしい物が…、届きました…。」
「こ、これは…。」
「ええ…。」
キラキラ茶髪の青年と堅物秘書が揃って息を呑む。その目線の先には1通の手紙が在った。それには、この町一番の権力者を示すシンボルが押されいる。
「…、イーサン顧問に報告しましょう。」
「そうですね…。顧問を介して渡す他ありませんし…。」
その手紙は特級冒険者に宛てた物であり、2人には上司に判断を仰ぐ以外に選択肢は無かった。
──────────
深夜近くになってもイーサンの姿が無く、様子を見る為にギルドマスターの部屋を訪ねた2人。
超距離通信の魔導具がこの部屋の中に有り、大陸東部には入ってこない情報を中央の知人に尋ねることが目的である。外部顧問たるイーサンが長時間使用するには部屋が空く夜が最適であった。
コンコン コンコン
ノックをすると内側から扉が開く。
「…、」ずうぅぅぅん……
「ダーちゃん…?」
「不味いよ、これは…。」はあ…
扉を開けたのはダリアだった。愛称で呼ばれたことに気を回す余裕すらなく、疲れた様子で不穏な言葉を吐く。
「…、失礼します。イーサン──」
「…、」ずうぅぅぅん……
「──こ、顧問…?」
神妙な顔つきのイーサンがそこに居た。こちらも茫然自失、と言っても良いのかも知れない。それほどに深刻な表情をしていた。
ダリアは、通話の魔導具に風属性の魔力を供給し続ける役割でイーサンに同行していた為、今夜行われた会話を全て聞いている。
「…、大…、問題…、じゃ…。」
──────────
重大な報告があるので集まってほしいとの連絡が、起きてしばらくした頃にもたらされた。ギルドの女性職員さんが屋敷にやってきて、口頭で私達にその旨を伝えてくれる。
昨日、顧問さんが言っていた私の処遇に関する報告だろう。それにしては職員さんの様子が何やら不安気であるが。
これはあれか。私の処刑命令でも出たか?
いや、落ち着こう。
その可能性はなくはないが、やるなら不意打ちで行うはず。
顧問さん達がわざわざ話をするって言うなら…、私に対する処罰をどうにか軽くするとか、そういう協力とかかな…?
昨日、シリュウさん人形を見たがったミハさんの要求を「明日時間が有ったらダリアさんを交えて相談してみましょう!?」と伝えてなんとか躱したのだが、叶わない未来になるかもしんないな…。
シリュウさんにワンタンスープを一杯だけ出してもらい素早く頂いて、緊張しながら呼び出されるのを待つ私だった。
──────────
「すみません、テイラ殿。ドラゴンイーター殿。
冒険者ギルドよりいくつかの報告をお2人に伝えたく、呼びたてました。」
顧問さん達が帰ってくるなり早速呼び出され、直ぐ様秘書さんの口が開く。部屋の中には、ダリアさんやお孫さんも居た。
顧問さんはとても神妙な顔で座っている。
なんかシリュウさんの本人確認の為に禁句を言った時と似てる感じだ。やっぱり大事っぽい…。
「先ずは、テイラ殿に関する報告を。トニアル。」
「はい。
…、テイラさんが不安に思われていた、自身にかかっている賞金の件です。が、存在しませんでした。」
「へ?」
あれ?そこら辺りの話が問題になったんだと思ったんだが?
「ラゴネーク国の港町トスラの、ギルド支部は現在閉鎖されており近隣支部の管轄になっているそうです。その為、酒場で冒険者の腕を鉄化してしまった事件も確認ができません、でした。
また当時のギルドマスター・スーケボナも解任されてギルドとは関係が無くなっているそうです。」
閉鎖に、解任…?
あのハゲに関してはザマァ見ろ、って感じだが。支部が閉鎖とはなかなかな事態じゃない?
あの事件を揉み消した記録改竄とかの不正行為が上にバレたのか?
「えー、続いて…。テイラさんが、この国で山賊達を〈呪怨〉で壊滅させた、と言う話ですが。こちらも確認されませんでした。」
え?なんで…?
私の人殺しの証拠としては、これ以上ない物のはずなんだけど…??
「えー…、複数の人間が鉄の塊に変換された状況という、特徴的な…事件ですが、その様な目撃情報が全く有りません。」
「もしかしてまだ発見されずに放置されてる…?」
「はい。テイラ殿の証言に依れば、彼らの塒はアトリーピューツ外縁部に有ったと推測されます。騎士達の目に触れる前に植物に呑まれた可能性は否定できません。」
たどたどしいお孫さんの話を継いで、秘書さんが口を開いた。
アトリーピューツは、この国の南に広がる大森林の名前だ。
この国に不法入国してしまった私は、他人を避ける為に危険な魔境地帯を通って西を目指してる時に山賊達に捕まったのだ。
「追加の情報としまして。彼らの下からテイラ殿が逃がしたと言う他の被害者達についても、ギルドの情報網では確認がされませんでした。」
「それって…。」
「テイラ殿の証言を是とするならば。彼女らは山賊達のことを秘匿しているか、…、或いはギルド以外の組織に保護された。と考えられます。」
言葉を濁して推測を語ってるけれど。要するに、トラウマを抱えて生きているか、魔物にでも襲われて死んでしまったか。そう言うことなんだろう。
私の虐殺シーンに怯えて逃げた人達であっても、無理矢理一緒に行動すべきだったかもなぁ…。
「いずれにせよ、違法奴隷に関わる山賊達は犯罪者であり、彼らを殺めることはその地域の治安貢献として称賛されるべきものです。
以上のことから、冒険者ギルドからテイラ殿への処罰等は全く有りませんので安心してください。
我がギルドマスターとの決闘もあの方の独断ですし、気に病む必要も有りません。」
色々腑に落ちない点はあるが、数日かけて調べた結果とのことだし納得するしかなさそう。
それにしても、処罰無しはどうかと思うけど。
「…、またテイラ殿に関してお伝えすべき重大案件が有ります。トスラの町での事も含む内容で、顧問の方から後程伝えますので、このままお待ちください。」
はて?重大案件?処罰とは別件で??
え?何?怖いんですけど?
感情の整理がつかないまま、秘書さんは話を移行する。
「ドラゴンイーター殿。こちらが、貴方宛てに届きました。拝読していただきたい。」
1通の手紙がシリュウさんに手渡された。
赤い封蝋には、拳と…大きな口を開けた熊かな?これ?とにかく動物の顔の図形が刻印されている。
「これは…?」
「…、マボア専任官・ベフタス様直筆の親書…です…。」
「あいつがこれを…。確かか?」
「はい。ドラゴンライダーが直接持ってこられましたので確定です…。」
「…。」
シリュウさんが封蝋を雑に外して、中の手紙を取り出した。
重大な物なのに手荒だねぇ。とか思いながら手紙に目をやる。覗きこむのは行儀悪いけども、隣に座ってるんだし気を紛らわす物が欲しい。
──よう、久しぶりだなぁシリュウ。
──今はこの町で騎士達に指示を出す役職に就いてんだ。肩が凝って仕方ねぇぜ、全く。
久方ぶりに飲んで話さねぇか。お前が仲間にしたって青い髪の嬢ちゃんと一緒に顔出してくれや。
周りへの根回しは終わってる。いつでもいいからよ。
──星暦998年 初秋節 21日
──ベフタス
って書いてあった。
…。
…。
…。
──バカかな?
書かれてる紙の高級感や達筆な字と、内容のギャップがえげつない。飲んだくれのダメ親父感が滲み出てんだけど。季節や属性を交えた挨拶も無いし。絶対貴族じゃないよ、これ書いたの。
しかもこれ、シリュウさんへの召還状なんだよね?
なんでそこに青い髪の嬢ちゃんまで呼び出される内容が!書いてあるんだ!?
「何だこれは…。」
シリュウさんがよく見える様にと、私に手紙を渡してきた。いえ、もう十分に見えとりやす…(泣)
仕方ないので、不安そうな顔をしてる秘書さんに返しておく。ちょっとどうしたらいいか分からんです。
内容を見た秘書さんやお孫さんも激しく混乱し、
庶民感満載の内容と私まで召還されている事実に皆が右往左往するのだった…。
次回は21日予定です。




