166話 今後の方針と恩返し
「別に、好きにしていいと思うぞ?」
ダリアさんから、シリュウさんは夜通し顧問さんと話をする予定らしいと伝えられた為、夜食後は再び部屋に戻って寝てみた私。
短い時間だったけど体をしっかり休めた感覚が有り、すっきりした気分で起きた翌朝。
シリュウさんの部屋を訪ね、今後の方針について話をしたいと伝えたら、なんでもない様な顔で「自由にしろ。」と言われたのだった。
「屋敷の中で新しい料理を作りたいならそれでもいいし、色々嫌だって言うならしばらく休んでもいい。」
「いや、シリュウさん。好きに行動できない事態になったから…、悩んでる訳でして…。」
「…。何の事だ??」
とりあえず私の考えを素直に口にしてみた。
〈呪怨〉持ちだと一般冒険者複数人にバレた。
ギルドマスターを殺しかけるという、更なる罪を重ねた。
シリュウさんにも迷惑をかけて申し訳なく思っている。
もうこの町に居られない、あるいは処刑される事態になっているんじゃないか不安である。
そんなことを、噛み砕いて丁寧に。
シリュウさんはじっと話を聴いてくれていた。
「テイラが気に病んでるのは理解したが…。特に問題にはなってないはずだぞ。」
「いや、問題にならないとかあり得なくないです…?」
「そうは言ってもな。実際になってないものはなってない。あいつは生きてるし、昨日も普通に仕事していたらしいが。」
「シリュウさんと顧問さんが夜通し話し合いをしてた、って聞きましたけど…?」
「それはギルマス関係じゃない。俺から見た、テイラの今までの物作りのことを喋ってただけだ。グリップにベアリングの椅子、ショーギとか立体パズルなんかを直接見せながら、な。イーサンが興奮して長く話し込みはしたが。」
「…。」んー…?
嘘ついてる感じでもないか?
普通に平和な内容の話な気がする。何も問題になってないの…??
「それにな。殺そうとしたことを気にかけるなら、先に向こうが魔猫の女を使って闇討ちを考えてたことを思い出せ。俺が居ない場所だったらテイラの方が殺されてたかもしれないだろ。」
「…言われてみれば…。」
「あの女が〈呪怨〉の力を持っているかは不明だが、夢魔の端くれなんだから魔王の眷属とも取れる。そいつに指示を出してた時点で向こうにも非があるだろ。」
「…それもそう…かも…?」
私も非常識だが、向こうも色々疑念が抱いていたとは言え確かに非常識だ。
「付け加えるなら。あのガキ…ギルドマスターは俺に逆らえん。何か言ってきても問題なく無視できる。」
ツルピカハゲのおっさんを子ども扱いしてるな。シリュウさん。流石っす…。
そりゃ、強さではシリュウさんが上回ってるのだろうが…。向こうも組織のトップだし、敵に回すこと自体が厄介なはずだけど。
「この町に連れてきたのは俺だからな。責任くらい取る。テイラはやりたい様にやれば良い。」
「いや、私も賛同はした訳ですからそこまで重く考えなくても大丈夫です。」
「…。(大丈夫とかどの口が言ってんだ…?)
それでも不安だって言うなら、直接ギルドへ確認しに行くか?」
う~ん…。あのツルピカにまた会うのは、どうだろうなぁ。
悩む前に、他の皆はどうしているのか尋ねてみた。
顧問さん達は揃って仕事に出ているらしく、屋敷には居ない。色々と忙しくしているとか。特に指示なんかも出されていないとのこと。
つまりは山羊馬車が無いので、外に出るとなると徒歩1択となる。
シリュウさんは見た目子どもで、中身は最強冒険者様。
私は〈呪怨〉持ちの非魔種っていう非常識の塊。
町中でそんな2人がノコノコ歩くとか、トラブルの気配しかない。とても不安だ。
まあ、人力車も使えるのだが…。
より珍妙な光景になるだけであまり変化しないだろうな。むしろ人が寄ってきそう。他の馬車と接触事故を起こす可能性も出てくるし…。
その人力車は、ここに来た時に庭の隅に置いてあるから使えるのは使えるらしい。黒の革袋の中だと座席の魔物毛皮が硬化してしまうから出したままにしてる、とのこと。
まあ、放置しててもそこまで問題じゃないかな。
ミハさんはお手伝いさんと共に家事をしており、そっちの人手は足りているみたい。生活魔法も使えない私では何の役にも立たないし、今から参加するだけ邪魔かもだろう。
ダリアさんは庭で棍棒の素振りをしているとか。
強さへの余念が無いなぁ、と思ったがそうでもないらしい。娘であるミハさんにだけは不器用な接し方になるから、距離をおきつつ暇を潰すのが目的だとか。
家の中に居場所が無い、休日の父親みたいなムーブメントだな…。凄腕の冒険者エルフのはずなんだが。
夜中に廊下で出会したのもそれ関係だったのか??
「んー…。屋敷に籠っておくのが正解かなぁ、これは。」
「まあ、テイラの懸念も尤もではあるな。
イーサン達に色々面倒かけてるし、俺も大人しくしておくとしよう。」
シリュウさんと話して悩みは一応解決したし、寝てばかりもどうかと思う。留まるにしても何かしておきたい。
「何か顧問さん達に、プラスになること──恩返し的なこと、ができればいいんですがね…。」
「…。竜腐症の実験に協力したから十分じゃないか?」
「ですかね…?」
単に変わったカツを揚げただけのことなんだが。
「あとは…。イーサンの奴なら、鉄で物を作るところを見せるとかアーティファクトの解説でもすればいくらでも喜ぶだろう。」
それは割りと手軽だな。アーティファクトも水のやつ以外は全然解説できるし。
土の腕輪については喋ってたから、風の髪留めを深掘りするか。とは言え、顧問さんが帰宅してからの話になるな。
「もっと直接喜ばすなら、酒だな。まあ、店に買いに行かずとなると、酒に合う料理を作ってみるか?」
「顧問さん、典型的な土エルフですもんねぇ…。んー、酒のツマミかぁ…。」む~ん…
私は下戸だけど酒に合うおかずは一応分かる。最低でも味付けを濃い目にしておけば割りとなんとかなるはず。
でも、屋敷での料理はお手伝いさんが居るし事足りてる気がする。やっぱり、お酒を用意できれば一番だよね。きっとアルコール度数が高ければ高い程良い気がする。
この屋敷に着いた日も凄く強いお酒飲んでたし…。あんな感じの物が有れば…。
「ここに来た日に飲んでた、あの匂いがキツいお酒。あれって凄いお酒だったんですよね?」
「…。まあ、そうだな。」
「やっぱり何年も寝かした貴重な物なんです?」
「…。かなり貴重ではあるな。寝かした物ではないが。
作り手の技量やら手間が凄まじくてな。
普通に醸造した酒を水魔法の液体操作で水分を分離、酒精だけ濃縮させて作るんだ。土エルフが作った酒を水エルフに託す流れになるから、量が確保できなくて出回らないんだ。」
「へぇー…、なんか蒸留酒みたいなことを魔法でやってんですね。」
「…。(「魔法で」…?…つまり魔法じゃない方法──)
テイラの「科学」には。同じことができるのか…??」
「へ?いや、何も特別なことじゃなく。
単に加熱して飛ばしたアルコールを、集めて冷やせば度数の高いお酒になる、って話──」
「是非ともやってくれ!!」
「ちょっ、まっ──」
「是非とも!!」
シリュウさんも酒好きだから食い付きがヤバい。
これは軽率なことを言っちゃったかも…。どうしよう…。
なんで、こう変な方向に話が転がるのか。
次回は蒸留酒に関わるらしい。12日予定です。




