164話 クズ女だとバレた訳だがどうしたらいいか分からない件
あ~~~~~~~………。
あああ~~~~~~~~~………。
やっちまったなぁ………。
女は黙って──いや。ふざけてる場合でもないし、パクって寒い自虐とか更なる罪だ。止めよう…。
はあ…。
何であそこまで暴れまわったかなぁ…。昨日の私…。
いやまあ、最高にムカつく言葉をもらったからなんだけども…。だからってねぇ…。
現代日本的に言えば、銃刀法違反で職質してきた警察官に刃物で応戦して危うく殺しかけた殺人未遂事件の様なもの。そしてその相手は警察署の署長くらい偉い地位にいる。言い逃れできる状況ですらない。
その上、シリュウさんの手を煩わせ、顧問さん達に多大な迷惑をかけた。
合わせる顔が無い…。
淡い緑色の空間で、ぐるぐるした思考の赴くまま、じたばたと体を動かす。その度に、長い髪が纏わりついてそこそこ鬱陶しい。気分転換に切ろうかな…。はあ………。
あの後、シリュウさんに引き連られる様に屋敷に帰還し自室に籠っている。
服だけ楽な寝間着に着替えて、鉄テントを三重に展開し外部とシャットアウト。
食事も取らずに横になり続けているから、まだ夜なのか、すでに昼なのかも不明だ。
もう、あれだな。
当初の計画通りに逃げるか。
町の構造とかこの屋敷の位置とか、まるで分かってないけれど、なんとかなる。
巨大な木の外壁で囲まれているだけだから、壁をぶち破るなり乗り越えるなりすれば外には出れるはず。
アーティファクトと鉄生成が有れば不可能はない。しっかり食事も摂って血もたっぷりあるだろうし。
…。
問題は冒険者や騎士達か。
大抵の相手なら口を塞いでしまえば魔法が放てなくなるし、無力化はできる。
けれども、この町にはドラゴンライダーがいる。高高度から魔法を雨霰と降らされたら流石に対処が難しい。鉄で防げるものも限られるし、単純にスピードで振り切れないだろう。こっちの体力が尽きて確実に詰みだ。
となると…、このままお縄を頂戴するのを大人しく待つしかないか…。
罪状は…ギルドマスターへの殺人未遂 + 殺人の前科 + 不法入国 + 〈呪怨〉の行使…。
これはいつ娑婆に出られるとかって次元でなく、普通に処刑だわ…。
やっぱり逃げるか。
シリュウさんに「ホーンヌーンで、溶岩の精霊で、イラドのガキ!」とか言えばぶち切れて町全体を魔力威圧&町人全員気絶コンボが発動するだろうし、その混乱に乗じて──
それは止めよう。シリュウさんを嫌な気持ちにさせてどうする…。
ここは減刑を視野に入れるか。司法取引的に…、例えば…、アーティファクトを差し出す──
訳無いだろ。そんなんするくらいなら追っ手全員皆殺しにする方がまだマシだわ。
…だから。殺しちゃダメだって私…。
ああ~~~~~……… もう~~~~………。
なんだってこんな殺傷能力の塊みたいな呪怨が、こんなクズ女に宿ったんだ。こんちくしょぉ…。
「──、──。」
「…?」
あーでも無いこーでも無い、と悩んでいると壁の向こうから何か聞こえた気がした。
シリュウさんかな…?それとも捕まえに来た兵士達かな…。
とりあえず側面に空気穴を三連空けて、音が通る様にする。
「──だ辛いかしら?動けそう?」
「ミハさん…?ですか…。」
「うん。私。
体は大丈夫?何か口にできそう?」
「あー…、いや。大丈夫なんで放っておいていただければ。」
「…そう…?お昼の食事も用意してあるし、テイラちゃんの分を取っておくからいつでも来てね。」
「はあ…、そうですか…。」
「シリュウや父さんも貴女のことを心配してるわ。もし動けそうなら顔を見せてあげてね。」
「…はい。前向きに善処します…。」
「うん。それじゃ、ゆっくり、体を休めてね。」
そう言った後、部屋から出ていく音がした。
…。
何かの催促とかじゃなかったな。単に様子を見に来てくれただけか。
もしかしたら、私が逃げてないかの確認だったかもだが…。
まあ、別にどうこうしろって指示された訳でもないし、ゆっくりしろって言われたから適当に寛ぐか…。もう1度寝る──
ぐうぅぅぅ…!
「ここで、空腹かよ…。」
ミハさんはお昼ごはんの話をしてたから今は翌日の昼頃なんだろう。
昨日は朝、山羊馬車の中で軽く乾燥木の実とかを食べただけ。短い時間とは言え全力戦闘をしたのに、昼も夜も何も食べず寝てれば腹くらい減って当然だ。
今、手元に食料なんてないし。
とはいえ…、
「出ていきたくねぇなあ…。」ぐうぅぅぅ…
ここはアクアのお水をお腹に入れて誤魔化そう。そうしよう。
「アクアぁ…、お水ください。」
ぽよん ゆらゆらふりふり
コップ差し出し… 水球ぷしょん…
こくこくこく…
「はあ…、美味し…。」
仰向けになって力を抜く。このまま寝れたら寝るか。空腹じゃ無理だろうけど。
ぷよぷよ…
「ん?」
アクアが寝転がってる私の顔に乗ってきた。口や鼻は避けて、瞼やおでこにぷるぷるスライムボディが密着する。
多少重いけど、ひんやりしてて気持ちいい…。
「アクアも慰めてくれるの~?」
目を閉じてるし精霊の声も聞けないしで、返答など分からないのだが。
それでも、今は傍に誰かが居てくれる感じが有り難かった。
「ふぅ~………。」
程よく冷たいアクアの体に、頭の中の知恵熱がゆっくり吸いとられていく。そんな気がした。
次回は6日予定です。




