162話 鎌かけと不意討ち
ちなみに、寝ているアクアの鉄巻き貝はちゃんと腰に着けてます。水のアーティファクトと同じく、有るのが当然の認識なので描写は省いてます。
決して作者が忘れてた訳ではありません。無いったら、無い。
魔猪の森へ入る許可を出せない、許可が欲しいなら指定したパーティーと合同で行け。と宣うツルピカ頭のギルマスに対し、引きこもると言い放ったシリュウさん。
真っ向から逆らう姿勢だ。
「おいおい…。本気か?」
愕然とした様子のツルピカ。シリュウさんの言葉が完全に予想外だった様だ。
「ああ。」
「魔猪が狩れねぇんだぞ…?」
「イーサンに手配してもらえば良い。肉はそれで手に入る。」
「…、お前。本当に竜喰いか…?なんか悪ぃ物でも食べたのか…?」
「俺は俺だ。少なくともお前の指図は受けん。」
「…、」むぅ…
絵面は完全に、大人に対して子どもが駄々をこねている様にしか見えない。
しかし、このギルマス。シリュウさんのことを知ってるなら、頭ごなしに命令しても聞き入れられないことくらい分かりそうなものだが。
「おい、土エルフの爺さん。あんたもそれで良いのかよ?」
「シリュウの能力を鑑みれば、森の調査に加わってほしいとは思う。
じゃが、本人にその気がないなら無理強いはせんわい。別に居らずとも調査そのものは可能じゃろ?」
「それはそうだが。」むぅ…
「おい、竜喰いの女。お前は何か意見しないのか?」
へぇ。シリュウさんの彼女さんがここに居るんだ~。どんな人でしょうね?(すっとぼけ)
とりあえずただの飯炊き女のことじゃないんで、無視しますね~。
「…、黙りか。どいつもこいつも…。」いらいら…
「話は終わったか?
なら、帰るぞ。」
シリュウさんが顧問さんと私に退席を促す。顧問さんは悩ましそうな表情だが、何も言わずに立ち上がった。
私も──
「食い物よりも、その女が大事か?──〈呪怨〉持ちだろうに。」
な!?
なんで!?知ってるの!?
シリュウさんが顧問さんを見るが、無言で首を横に振っている。秘書さんも本気で驚いているみたい。誓約で喋れる訳がないし当然だが。
「なんだ。マジで〈呪怨〉持ちかよ。」
鎌を掛けられた!?
いや、どうやってそんな異常な当たりを付けれるの!?
「うちのゴウズに強力な誓約を掛けて隠すくらいだ。よほど後ろめたいことだろうと思ってな。あとは、その女と行動し始めた時期を考えれば予想はできる。フュオーガジョンに出た複合呪怨に関係するんじゃないか、とな。
ともすれば、こいつがその化け物本体か?滅したって竜喰いが言えば確かめる術もないしな。」
淡々と語るツルピカ。
推測の中身は外れだが〈呪怨〉持ちであることは事実だ。誤魔化し様がない。
「別にどうこうしようなんて考えてねぇよ。だから、威圧を止めてくれねぇか?」
魔力威圧を仕掛けていたらしいシリュウさんが、脱力して軽く息を吐いた。
「言っておくが、テイラはあの呪い女じゃない。」
「そうかい。そう言うことにしておいてやるよ。」
涼し気な表情のツルピカ。
完全に主導権を取られた。
「別に良いじゃねぇか。力が有って役に立つなら、〈呪怨〉だろうがなんだろうが構わないぜ?
あの「淫魔の女王様」のおかげで、良い夢魔族がたくさん増えた。むしろ、感謝してるくらいだ。」
「…。」
あ゛?
「浮いた話をまるで聞いたことのない竜喰いが、呪い女を囲うとはねぇ。」しみじみ…
私が。男に股を開くしか能が無い女、と同列。って言ったか?
「それで脅したつもりか?」
「別に言いふらす真似なんざするかよ。安心しろ、ここに居る奴らには予め推測を話してある。もちろん口外しない様にもな。」
「これのどこに安心しろ、と?」
シリュウさんが腕を突きだした。
──斜め後ろに。
私の後ろの、何もない空間に手のひらを向けている。
「…、あんたが本当に竜喰いか、判断しかねてたんでな。」
「…。」
シリュウさんの手のひらに炎の球が出現した。
「うひぃ!?降参!!降参です!!」
部屋の中に若い女の声が響く。
声がしたのは、シリュウさんの腕の先にある空間。
直後、その空間の風景が黒く滲んで黒い人影が出現した。次第にはっきりと姿が見える様になる。
黒いローブを身に付けた、妙な色合いの黒髪の女性。頭に猫耳が有る。夢魔族の一種の「魔猫族」だろう。ローブはミハさんが持っていたのと同じだと思う。
両手を上に挙げ自身の手のひらを左右に向けて、降伏の意を示している。武器の所持と魔法の放出を否定しているポーズだ。
「…。」
シリュウさんが火の球を消した。だが、腕は下ろしていない。
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
両腕を挙げたまま、部屋の中を走る猫耳女。シリュウさんは腕を向け続けている。
ツルピカの後ろを通って、冒険者達の陰に入った。びくびくと震えている。
冒険者2人は緊張した顔はしているが、武器を構えたりする様子はない。
「あんたが偽物なら不意討ちさせる算段だったんだ。悪いな。」
「…。偽物じゃないと分かった時点で隠密を解除させなかったのは何故だ?」
シリュウさんが、腕を今度はツルピカに向けたまま問いかける。
「あんたの女が何者か見極める為だ。万が一竜喰いが呪いか何かで操られてるなら排除する必要があるだろ?
あとは俺らが全滅するとかって緊急時に、外部への伝令役だな。」
特級冒険者を支配する私を、暗殺する計画か。
えらく仰々しい歓迎だことで。
「随分と小物な暗殺者だな?」
「この町の冒険者では高位の斥候なんだが、まあ竜喰い相手には力が足りんかったな。」
「マスター。あまりに横暴が過ぎます。この冒険者は本物の竜喰いで、こちらの女性は彼が保護した一般人だとお伝えしたではありませんか。」
「誓約をかけられて事実を話せない奴の言葉を信用するのは危険だろう。」
「ですが、これは無礼が過ぎるでしょう!」
「この眼で。しっかりと確認したことしか信じない。
俺はこの町のギルドを任されてんだ。不穏な輩を放置する訳ねぇ。だから、直接揺さぶるのが手っ取り早い。」
シリュウさんの威圧も、秘書さんの忠言も意に介すことなく真っ直ぐに私を視るギルマス。
「だったら、直接〈呪怨〉でも見せましょうか?」
「おい。テイラ。」
「ようやく口を利いたな?」
「私が話すと場を混乱させちゃうんで。黙ってただけですよ。もう必要ないでしょうし。」
「ほう。力を見せてくれるのか?」
「ええ。──全力を、出しますよ?」
「なら。俺が直接手合わせしてやろう。」にぃ
こいつが相手なら、加減できなくても全く問題ないな。フルパワーでやってやる。
次回は30日です。




