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160話 ババ抜きと心の傷

庭でカツを揚げた後は、屋敷に撤収である。


顧問さんと秘書さんは仕事があるらしく、足早に出かける準備をしにいった。

豹柄カビの実験を早速伝えに行ったのだろうか?


残りの4人で連れだって歩く。



さて、この後どうしよう?


顧問さんは「ゆるりとしてくだされ。」とは言ってたけど特に指示はなかったし、屋敷の中で大人しくしておけばいいとは思う。とは言えただゴロゴロしてる訳にもいかない。


食材を急に使わせてもらっちゃったし、お手伝いさんにお詫びとお礼をしておきたいなぁ。何か役に立てることはあるだろうか。



「ん~…。レシピを何か渡してみるか…??

でも非常識な物かもだしなぁ。」


こっちでもまともに作れる物…。大陸での料理風景とかあんまり見たことないし、どんなのが常識的か分からん…。

魔猪肉を豚肉に見立てれば、活用法はたくさんあるけど…。


豚カツ以外なら、しょうが焼きとか。

生姜(ショウガ)があるかな…??近い物は有るだろうけど…。

はたまた野菜と炒めてスタミナ焼きか。

これは普通にあるだろうな…。


そもそもそれなりに高価な食材らしいから、毎回出せる物でもないかもな…。



「まずはアポ取って…。いや、それなら顧問さんを介した方が…。

いやいや。料理作れる人にレシピ渡すとか嫌味満載(いやみまんさい)に受け取られるか??」ぶつぶつ…


「テイラ。」

「鉄より紙に──何ですか?シリュウさん?」


「この後、少しいいか?」




──────────




スッ… 


スッ… 


スッ…


「ん?やっと揃った。」パシ… アガリっと


「ここからは、読み合いですね。」スッ…


まだ揃わないか…。

シャカシャカと。



「ダリア、毎回抜けるの早くないか?」スッ… 揃わず…


「アタシがズルしてるってのかい?」

「母さん、地味に鋭いからね。」スッ… 揃ったー!パシ!

「…、(地味で悪いね。)」ケッ…


まあ、旅の途中にトランプには触れてるのも関係してるかもだが…。



「そう言うミハさんも、ドベ(ビリ)になってないですよね…。」

「…。(またテイラと一騎討ちか…。)」


製作者(わたし)とシリュウさんの方が長く触れてきたはずなんだが…。

まあいい、ここが正念場だ。


私の手札は残り1枚。シリュウさんは2枚…。

つまりジジ(ジョーカー)はあの中に…!



今現在、シリュウさんの部屋に集まってゲーム大会が開催中である。


やっているのはジジ抜きだ。以前に作った鉄トランプを使っている。

ババ抜きはジョーカー1枚が残るけど、ジジ抜きはランダムに1枚伏せて抜き出すことで仲間外れを作っておく。これで自分がジョーカーを握っているかどうかがギリギリまで不明になり外れを持っている動揺なんかが影響せずに遊べる訳だ。


もう1つの理由としては、ババ抜きをダリアさんが露骨に嫌がったんだよね。別に私としてはダリアさんをババアだと思ってないし、ババアを()け者にする遊びではないと伝えてあったんだが…。

まあ、(こだわ)る理由も無いし、4人で遊べればなんでもいいんだけど。


いやぁ、それにしても。極薄鉄トランプを、マボアに来るまでに改良しておいて良かった。黒一色より、とても見やすい。


今使っているのは、ダリアさんが出す魔法の砂を鉄に混ぜて着色しておいた改良版だ。

最初はシリュウさんの魔石(かす)を使うかと悩んでいたが、ダリアさんに相談したら土魔法で砂を生成してくれた。その砂が、赤みがかった白、普通の白色、薄い黄色、茶色と4種類も頑張って出してくれて大助かりだった。魔法4属性に当てはめたトランプの絵柄に合わせることができたからね。


砂の色をわざわざ変えて魔法を放つことはあまりしないことらしいので、相当難儀してもらったけどおかげで良い物が出来た。欲を言えば緑色や青色の砂粒も欲しかったが難しい物は仕方ない。シリュウさんの魔物素材をまた砕いて混ぜるのは抵抗有ったし、ダリアさんもなんか新しい魔法の応用を思いついたとか言ってたから()しとしよう。

不純物が混ざったことで私の腕輪には入らなくなったが、これはもうシリュウさんの持ち物だし遊びやすい方が良いに決まっている。



「…。…。…!こっち!」スッ!


揃わず…!?

ってことはこれがジジか!!


シリュウさんが早速とばかりに手を伸ばしてくる。



「わあー!?待ってください!シャッフルします!」カシャカシャ!カシャカシャ!カシャカシャ!!


「…。」


「はい!どう──」

「」スッ!


な──。



「アガリ。」パシッ!


「何今の早さ──もしかして!見えてました!?」

「普通に目で()えたからな。」

「ちくしょー…!!」




──────────




…、カチッ


…、カチッ



…、カチッ!


「う~ん…。…、…、…。」カチッ



「ふん…。…、…、ん。」カチッ


「んー…、…、難しいわね…。」むーん…



畳に座布団ではなく、土足に椅子座りでやる将棋は違和感有るな。


今はダリアさんとミハさんの親子対決を観戦している。

ミハさん、飲み込みが早い。あのダリアさんとなんだかんだ勝負になっていた。この母有ってこの子有り、と言ったところか。



「時に。シリュウさん、なんでいきなりゲームしようなんて提案したんです?」

「…。深い意味はない。単なる暇潰しだ。」


普通の顔で隣に座るシリュウさんが答える。

本当かなぁ…?



「…。まあ、強いて挙げるなら。ミハとダリアの為か。

ダリアはミハ(むすめ)に対してだけは臆病になるからな。ミハ相手に戦闘させる訳にもいかないし、遊びでなら少しはまともに過ごせるだろ?」


「おい。適当なこと言ってんじゃないよ。」


「事実だ──」

「んなこと言って、ミハとテイラの為だろ。バレバレだよ。」


へ?私?



「ちょっと母さん。」

「ミハが、テイラの髪のことを尋ね(きい)ちまって落ち込んでるから、交流(なかよく)させようとか言う(ハラ)だろ?」

「そうやって、ずけずけと…!」


ミハさんが少し慌てて私の様子を伺う。



「髪のこと、ですか…??別に気にしてない…っていうか。ミハさんは私の見た目を心配してくれただけなのに、落ち込む要素有るんです?」


「気にしてることを聞いちゃったな、って。」


ああ、そう言うことね~。



「「青い髪のくせに、水魔法も使えないの?」とか、「誤解されない様に丸刈りにしたら?」とか。

そんな言い方されたら嫌になりますけど、ミハさんは綺麗な髪って言ってくれたんですからむしろ嬉しいですよ~?」


「…、テイラちゃん…。」ず~ん…

「なんで…もっと酷い雰囲気(くうき)にした…。」げんなり…

「こういう奴だから…、気にしなくていいんだよ…。」うんざり…



…。



ダリアさんに「シリュウさんをたぶらかす夢魔(いんま)」呼ばわりされたことの方が、よっぽど傷つきました!(マジ)


って伝えるのは…、流石に可哀想(アレ)か。

黙っとこう~、っと。


自分の負の面をさらけ出すという、精神的自傷行為に余念のない主人公…。


次回は24日予定です。

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