16話 戦いの準備
「ダメだよ!お姉ちゃん! あんなの絶対おかしいよ! 行っちゃダメ!」
スティちゃんが金切り声をあげる。
「あいつはレイさん達に出会った後、私達の方に来て目線を向けて移動した。誰かしら視ることを目的としてる可能性がある。多分、方向的に作業場に行ってる。ハロルドさん達が危ない。」
「でっもっ…!お姉ちゃんが…!」
「…お父さんは、大切してあげなきゃダメだよ?」
「お姉ちゃんも大切だよ!!!」
嬉しいこと言ってくれるね。
「大丈夫大丈夫! 私は自力であの魔眼?を解除できたし、あいつに視られた人達を助けてくるだけだから。」
「大丈夫じゃないよ!!」
それに多分私があの化け物をここに呼び寄せたような気がするし。自分の不始末は自分でなんとかしないとね。
「そのハリセンはスティちゃんに渡しておくから、あいつがまた出たり仲間が現れたら、使ってね。頭か背中を叩くと正気に戻るから。じゃ、レイさん、後よろしく!」
スティちゃんが叫んでるけど、私は身体強化全開で走る。
この場所を、あんな訳わかんない奴にどうこうされてたまるか。
──────────
作業場に向かう緩い坂道、その終わりがもう少しで見えるぐらいの位置にあいつは居た。
俯いたまま体の向きが私の方、作業場と反対側に向いていた。近づいたのが分かってるのかな。
周りには作業員は見えない。ここからだと作業場の音は何もしてないと思う。こっち来られると邪魔だけど、あいつに視られても死ぬほど辛いだけで死ぬ訳じゃない。
誰か来ても放置で。こいつを止めるのが先決。
問題はこいつがなんでこっちを向いて止まっているのか。
多分私を感知したはず。
普通に考えれば音だよね。全力で山の中を走ったし、消音なんて頭に無い。
次に感知系と言えば魔力。私自身に魔力なんて無いから私個人を感じることは不可能。でもあいつがレーダーみたいに自分から魔力をぶつけて周りの反射を感じとるパターンはあるか。
あとは未来が見えるとか魂を感じるとか特殊系。おかしな眼を持ってるし、可能性は否定できない。
いや、そもそも作業場を襲撃済みで帰るところってこともあり得るか。にしては絶叫がまるで聞こえないし、なんで止まってんだってなるけど…。
しっかし、動かないな?
こんだけだらだら思考してるのに。
距離は…多分15メートルくらい?
私は道の脇の木の側であいつをじっと見て停止してる。
こっちに気づいてないとかあるのか? それとも何かを待ってる?
…それとも、寝てる??
私は危機感知の髪留めを全力起動してる。見えない風の刃とか地中からの不意討ちには対応できるはず。今のところ何の反応も無し。
…このまま放置しても何も解決しない。あれがこちらに危害を加えてきたことは事実。ここは攻撃しかけて畳みかけるか…。
目標、ムカデ女の撃破・または無力化。
普通に殺害するのが手っ取り早い。頭か心臓が確実。手足を切り落とすにしても足は多すぎるから効果は薄そう。狙い目はあの眼球。あれを潰せば精神攻撃は出来なくなる公算が高い。
最低でも、鉄の檻に閉じ込めて移動を封じる。
まずは…、遠距離攻撃するか。
その為にも準備が要るし、装備を再点検。
槍が数本、棍棒、魔眼対策になりそうな鏡、鉄板、投げナイフ、まきびし、この辺りは形成したものを左の腕輪の中に収納済み。
右の腕輪や靴にも少量収納出来るから仕込みナイフ、仕込み針戦法もできる。
身体強化の腕輪はいつでも起動可能。オンオフで緩急をつけれる。
髪留めは感覚の補助。
腰にはアクアの貝殻。戦わせる気は無いけど最悪の場合は自衛の為に水弾を撃ってもらおう。
…よし、いつも通り。
あいつは変化なし。
なら、今から弓を作っていくとしよう。音で気づかれる可能性が高いけど、まともな遠距離攻撃なんて弓矢くらいだし…。
鉄の弓は何度か作って利用してる。普通は木のしなりを矢が飛ぶ力に変換するが、私の場合は鉄の骨組みに鉄のバネを取り付けて、バネの張力で矢を放つ。
昔なんかの工作動画で見たやつをベースにしてる。
ちょっと鉄の残量が心許ないな。
檻を作るなら槍を変形させるっきゃないか。
矢を番えて、鉄の弦を引く。
バネが軋む。あいつは反応無し。
なら…腕に強化を発動させて、もっと強く! 弓を、引く!
ギキキ、と不快な音がする弓を敵に向ける。
そして、矢を放った。




