158話 料理実演と再現度
「えー…、それでは。ドラゴンカツ作り、始めていきます…。」
「頼む。」
「「…!!」」じぃー…!
「…、」しげしげ…
「…、(意味分かんないね…。)」
現在、顧問さんのお庭で青空料理教室が開催中である。
料理人は私。アシスタントにシリュウさん。
観客は、熱烈な視線を送る顧問さんと秘書さんに、興味と不安が半々な感じのミハさん。あと、やる気の無さそうなダリアさん…。
なんでこんなことになったのか…(泣)
──────────
豹柄カビ…いや、竜腐症とやらを引き起こしてるかもしれないカビの話を聞いた後のこと──
「本当に〈呪怨〉が関係するのかは不明だがな。カビそのものにはそんな気配を感じないし。」
「え。そうなんですか…?」
ドラゴンだけを死に至らしめるなんて〈呪怨〉みたいな理解不能の作用であるにも関わらず、それ自体には気配がないとか…。単なる風土病なの??
「ああ。生きたドラゴンの体表にあるやつでも呪いの気配はなくてな。それでも意味不明具合的に呪いだと考えるのは、理解できる話だ。」
そんな稀な病気に罹ったドラゴンを見る機会が何故あるのか…。
そもそもの話、ドラゴンの病気をシリュウさんが何故気にかけるんですか?と尋ねたら、「このカビに侵されたドラゴンの肉は、どういう訳かとんでもなく不味くなる。俺としても病気が防げるのは歓迎なんだ。」と返された。
実際に食べたことある上に。家畜の伝染病程度の認識だった…。いや、もちろん重大かつ有意義なことではあるのだろうけども。
町1つを簡単に壊滅できるドラゴンの話をしてるはずなんですが…。
シリュウさんの言動に呆れていると、顧問さんが意を決した様子でこちらを向いた。
「テイラ殿が鉄板に記したレシピと、乾燥過程の実験記録はシリュウから見せてもらいました。
しかし、少々…儂らが理解するには難解でして。
…できましたら。研究の為に、直接調理していただきたいのですが。…如何でしょう?」
「え?研究ですか?」
「はい。国に報告する前に、ギルド内で念入りな検証が必要です。そのために貴重な試料である、この「料理を放置して発生した竜腐症」を再現したいのです。」
ドラゴンライダーと言う強大な軍事力を持つこの国にとっては、ドラゴンが死ぬ病など看過できるはずはない。重要性はとても高いだろう。
それは当然だし理解できるのだけど。
「同じ条件にするには…ドラゴン肉が…。」
シリュウさんの方を見る。考えこんでる表情だ。
顧問さんが頭を下げて「ドラゴンの肉を…譲ってほしい…。」と懇願し、シリュウさんが「仕方ないな。」と了承した為、実演することになったのだった…。
──────────
カツはシリュウさんとの旅の中で作った物だ。なので、だいたいの物は揃っている。
すぐさま庭に移動して調理に取り掛かった訳だ。
そして、準備している最中にダリアさんとミハさんが合流してきて現在に至る。
親子でちゃんと話し合いでもしたらしく、ダリアさんの様子は幾分かいつもの感じに戻っていた。
ちなみに、お孫さんはギルド施設に使いに行っていて不在だそう。事情を知らないお手伝いさんは遠ざけてある。
だから、まあ、ここに居るのはある程度の理解者達だ。臆せずいこう…。いけば分かるさ…。
「えー…、まず改めて。使用する食材を紹介します。
ドラゴンの肉をメインに、大量の油、下味の塩、卵、パン粉、──」
料理番組のノリで、鉄バッドに並べた食材達を皆に見せる。
「ちなみに、肉は火竜の物。油はミーシェル。塩はキーバード産の岩塩。パンは忘れたが──」
シリュウさんの食材解説を聞いて、皆げんなりしている。それほどぶっ飛んだ内容だ。
だが、本来はここにもう1つとんでも食材を加わわるはずなんですよ。
「で、ここで問題が1つ。卵なんですが…。
同じ物を用意できませんので今回は、頂いた魔物の鳥の卵を使用します。」
そう、ドラゴンカツの衣の繋ぎ。そこに使用したのはドラゴンの卵だ。そして今はもうシリュウさんの革袋にすら入っていない。使いきっちゃったからね…、だし巻きとか茶碗蒸しの時に。
なので、お手伝いさんに頼んで調理場に確保してあった卵を代わりに使うことになった。
もし今回調理したものにカビが生えなかったら、ドラゴン卵の方が重要な手がかりになるかもしれない。
「そして、もう一点…。調理方法の再現に関してなんですが…。」
シリュウさんに渡してあった鉄板を見て思い出したのだが。
あの頃の私は両腕が完治しておらず、鉄腕アームで生活していた。カツを揚げる時も鉄菜箸を先端に取り付けて調理していたはずなのだ。
「こんな風に。鉄で擬似的に腕を作って、物を移動させてたんです。これってなんか影響しますかね…?」うにょん…ふりふり…
腕輪から出した鉄を右肩に固定し、そこから追加した鉄をパイプの様な形で伸ばしていく。そして、出来た鉄腕アームを連続形態変形でタコの腕みたいに動かしてみせる。
「…、奇っ怪すぎるマジックハンドだね…。」
「…、これは、魔法手じゃないんじゃない…?」
観客から更なる困惑の声があがる。
うん。私も同意見です。
「…。そこは流石に関係ないだろう。いつも通り手でやってくれ。」
「…了解です。」
アーム収納、っと…。
では、再現料理といこう。
肉に下味の塩をつけ、溶き卵に浸し、削ったガチガチパン粉をまぶす。
準備ができたら、シリュウさんが調整してくれた薪かまどの上にある熱した油鍋に投入する。
ジュワジュワジュワ!
同じくらい加熱して…、完成。
網お玉で掬い上げ、網付きバッドに乗せて余分な油をきる。
「では。シリュウさん──」
「」ひょい ぱくっ
ああ、うん。知ってた…。どうぞを言う前に食べるのも、揚げたて激熱でも平気な舌を持ってることも…。
もぐもぐ… もぐもぐ! もぐもぐ!!
美味しそうに食べている。
卵が変わっても、とりあえずなんとか成功したみたい。
「作った場所、季節なんかは当然異なる訳ですが、大まかにはこんな感じです。
付け加えると例のカビが生えたのは…、揚げ過ぎてそこそこ焦げたカツを…、私の鉄の箱に入れて放置した物になります。」
「…、なんで…、放置したの…?」
事情を知らないミハさんが震える声で問いかけてきた。
「焦がしちゃったから…せめて有効活用しようと…。私の鉄と、シリュウさんの革袋を併用した時にどんな現象が起こるか試したくて…。」
「「「「…、」」」」げんなり…
「」もぐもぐ!もぐもぐ!!
しっかし…。この国でのギルドの地位を左右する事柄とは思えない料理をしてるよなぁ…。
実験とは言え。この研究を担当するであろうギルドの職員さんとか、心情的に…、再現できるのだろうか…?
次回は18日予定です。




