156話 あくまでイメージの話です
「炎が噴き出す槍とか、風を纏った大鎌とか、水が湧きだす瓶とか、石の鎧とか。そんなおかしな呪具をいくつも所持してて。
それらを振り回して「来ないで~!(泣)」って叫んでる、小さな人間の女の子。そんな風に感じるわ。」
ダリアさんの娘さんの口から、私への洞察が語られている。
「で。その子の周りを各属性の精霊が寄り添って守ってるのよ。中でも風の精霊がとっても元気。なんだか声が聴こえてくるくらい。「この子を守るのは私なんだから!!」みたいな?
母さんが持っていた棍棒みたいな邪道な気配があるのに、自然の意思である精霊が居るっておかしいわよね??」
「「「………。」」」
「変なこと言ってごめんね?
私、色んなことに妙な直感が働くのだけど、貴女に対してはその振れ幅が凄くて。」と、柔らかく謝罪する娘さん。
呪具に、アーティファクトに、元気な風…、そして精霊…。会ってまだ間もないのに、本質を突き過ぎでしょ…。間違ってるのは私が小さな女の子であることくらいだ。
風氏族エルフも絶賛してるに違いない…。
本物の予言者やん…。(似非関西弁)
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かくかくしかじか…
「嘘でしょ…?」
「事実だ。ミハの直感はほぼほぼ当たってる。」
シリュウさん達は誤魔化すのは逆に危険だという結論に至り、顧問さんに話した同じ内容を娘さんにも説明した。
秘書さんとお孫さんはその話を聞きながら一連の内容を書類に記入していっている。
私が、精霊や氏族エルフと仲良しでアーティファクト複数持ちの呪い女だと聞いて、目を丸くする娘さん。
いやぁ、申し訳ない…。非常識で…。
「あの…、あのシリュウが。〈呪怨〉の女の子を仲間にするの…??」
あ、そっちです?
「まあ、自分でも意外だけどな。呪い持ちにしてはそこそこ真っ当だぞ?テイラは。面白い料理もたくさん作れるし。」
「…、」じぃーっ…
「…。操られたりはしてないはずだぞ。」
「だって、信じられないんだもの。ねえ?父さん?」
「そうじゃの。儂も散々確認したわい。」
「いつも通りのシリュウだと感じるけれど…。だからこそ、分からないわね。それほど美味しい料理なのかしら…?」
「いや、ちょっと正道から外れた変な料理法をしてるだけ…と言いますか…。」
「…、(自覚は有ったんだね…。)」
「料理だけに釣られるほど浅くは無いぞ…?」
「…、(うーん…。)ねえ?テイラ、ちゃん?握手してみてくれないかしら?」
「…へ…?」
納得ができずに悩み続ける娘さんが、おかしな提案をしてきた。
「母さんを止めてくれた人だもの。お礼もしたいし仲良くしてほしくて。ダメかしら?」
「いや?あの?私なんかと触れ合うとか危険かもですし…。えっとシリュウさん…?」
助けを求めて周りを見る。
「本人がしたいって言ってるんだから、させてやればいいだろ?心配しなくていい。」
「ええぇ…?」
「1度言いだしたらなかなか頑固ですのでな。母親に似まして。」
「…、うるせぇよ…。」
「ほら。私、女だし。男の人じゃなければ大丈夫じゃない?」
「大丈夫は大丈夫ですけど…。」
〈呪怨〉を持ってるって聞いて歩み寄れるの、なんか怖いんですけど…。
「ふふ。それじゃ失礼して。」
娘さんが私の隣にそっとやってきて、優しく手を取ってきた。
「…、」にこにこ…
「…。」
握手と言いつつ、私の左手を両手で包む様に重ねている。
とても温かい手だ。
「うん。大丈夫。貴女は良い子だわ。」
何かを納得したらしい娘さんが、笑顔で言いきった。
いったい、握手なんかで何が分かったのだろう。
「テイラちゃん、って呼んでいいかしら?」
「えっと…まあご自由に…?」
「これからよろしくね。テイラちゃん。」
「あ…っと、よろしくお願いします…?ミハ、さん?」
──────────
今後についての話は後日にしようと言うことになり、もう良い時間になったので晩ご飯をいただくことになった。
食堂の様な部屋に案内されて席に着く。
大きなテーブルの上には、お手伝いさんが用意してくれていた料理が並んでいる。
秘書さんとお孫さんが座らずに給仕をしてくれるらしく、私もできることを、と思ったのだが「貴女は客人ですから。」と座る様に促されてしまった。
仕方なくシリュウさんの隣に座って、料理を眺める。
うわぁ…、水の入った器が置いてある…。やっぱり手づかみが基本かな…。
鉄お箸使っても大丈夫かな…。
テーブル中央に料理が盛られた大皿がいくつか有る。
この黄色いのはコウジラフの豆だろう。潰してから雑穀的な物を混ぜてあるっぽい。
あっちの、煮込まれた分厚い肉はやっぱり魔猪肉かな…。でも、普通に美味しそう。
「まずは何と言っても──これじゃ!」
顧問さんがお孫さんに指示して何かを持って来させた。
テーブルの上に青色の革袋と何かの台が置かれ、袋の中から縦長の物体が引っ張りだされる。
出てきたのは、石で出来た…ボトル…かな?何故か表面が濡れている。
そしてそのまま、用意された台の上に設置される。
「──!!「竜殺し」か!?」わっくわく!
シリュウさんのテンションが爆上がりした。クリスマスプレゼントを貰った子どもみたいだ。
「ああ!エクセントの「竜殺し」じゃ!シリュウと再会したら飲もうと決めておってのぉ!
生憎、これは氏族産では無いが。」
「十分だ!!来て良かった!!」
シリュウさん、テンション上がり過ぎ。過去一じゃなかろうか。会話から察するに、お酒かな??扱われ方が高級ワインっぽいし。
「シリュウも父さんも相変わらずね。」
「…、酒ごときにバカみたいな金使いやがって。」ボソッ
ダリアさんがなんか気炎を吐いている。やっぱり高級酒か。
「テイラ殿、これは強めの酒ですが、飲まれますかな?」
「あ…いえ、お酒は全然飲めないので…。できれば別のものを。」
この国に未成年の飲酒に関する法律は無いかもだけど、そもそも私は前世も今世も下戸だ。高級なお酒などあらゆる意味で飲みたくない。
「…、アタシも要らないよ。
テイラ。水出しな。」
「ヘ?アクアの水、ですか??」
「ああ。乾杯はしないとね。」
招かれた側が持参した飲み物を出すのはマナー的にどうかと思ったけど、顧問さんもシリュウさんも問題は無いとのこと。むしろ精霊の水ならば「格」も十分だそうで。
私が水筒から恐る恐る2つの木製グラスに水を入れている間に、高級酒の方も注ぎ終わった様だ。ミハさんは「最初の一杯だけ。」と言って普通のお酒を貰っていた。
「では。──再会と。新たなる出会いに。乾杯!」
「「」」スッ…(無言の酒杯上げ)
「かんぱーい。」
「乾杯…。」
シリュウは見た目が子どもなだけで肉体年齢はお爺ちゃんです。
未成年飲酒を推奨する意図は全く有りません。
次回は12日予定です。




