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155話 親子の話と直感

「ありがとうね、シリュウ。あと、久しぶり。」

「…。ああ、久しぶりだな。ミハ。」ぎりぎりぎり…

「…っ!!~っ!!」


ダリアさんに関節極めてるシリュウさんと、それに感謝を述べる黒ローブの茶髪美女。

その状況のまま、(なご)やか(?)に喋るのはどうなんでしょう…?




──────────




とにかく。落ちついて話をしようということで茶髪美女を含めた私達全員が、屋敷の中に入った。ダリアさんは…、処刑台に向かう囚人の如く、シリュウさんに連行されてはいたが…。


馬車の中とは異なる(おもむき)の応接室に集まり、主要メンバーが着席する。



「お騒がせしました、皆さん。私は、イーサンとダリアの娘、ミハと言います。」


黒いローブを脱いだダリアさんの娘さんが、秘書さん達に向けて丁寧に挨拶をする。


キラキラ髪はエルフっぽいけど、4属性色とは異なってる。

瞳の色も、ダリアさんは緑色と橙色の左右異色(オッドアイ)、顧問さんは両目とも橙色っぽいけど、ミハさんは両目とも緑色が混じった茶色だ。緑色の多弁な花が咲いた感じがして綺麗だと思うが、共通点は無い。


顔立ちには、なんとなく面影が…言われたら、有るかも?



「そして、そこに居るトニアルの母でもあります。どうぞよろしくお願いします。」ぺこり


「…、」うぅ…


苦虫を噛み潰した様な顔をしているお孫さん。

自分が働く職場に母親が独断で顔を出しにきた…、そんな気恥ずかしい感じ…だろうな。多分。


それにしてもこの外見で、この大きさの子持ちとか脳がバグるね…。1歳違いの姉と言われたら素直に信じるレベルだよ?流石エルフ。



「…、…、」どよどよ…


ダリアさんは完全に沈黙。普段のべらんめぇ口調はどこへやら、借りてきた猫の様に大人しい。棍棒を床に置いて椅子に深く座って(うつむ)いている。完全に別人だな。



「まあ…、よく来たな、(ミハ)よ。いつ、こっちに?」

「今日の昼間。門は普通に入れたのだけど、なんだか父さんが忙しいって聞いたから先にお屋敷に入れてもらったの。良い所ね。」


玄関で合流した、この家のお手伝いさんらしき人が申し訳なさそうに謝罪した。



「彼女を責めないであげて?

私が無理を言って秘密にしてもらったから。」


「それは良いが…。知らせくらい寄越してほしかったぞ…。」

「ごめんなさい。()()した方が良い、って思っちゃって。」


「…、(テイラ殿との会談に、フーガノン殿の来訪。そこに知らせが重なったら完全に参っておったか…。)

うむ…仕方ないな。」



娘さんの話は続く。とても私やシリュウさんの話をする雰囲気ではない。


大陸中央からギルド馬車を乗り継いでこの町まで来るのは苦労した、とか。

町の先にある草原で、今日の昼間に巨大な火柱が上がったという話を聞いてシリュウがここに来てると思った、とか。


顧問さんが相槌を打ち、お孫さんは居たたまれず、

ダリアさんは()()()()しっぱなしで、

何故かシリュウさんは目を瞑ったまま黙っていた。




──────────




給仕の女性達を帰宅させ(住み込みではなかったらしい。)、お手伝いさんを別室に下がらせてから再びの話合いが始まった。どうやらここから重要な家族会議になるみたい。

参加するのは、顧問さんに娘さん、おろおろお孫さんに、どよどよダリアさん。そして、シリュウさん、秘書さん、私だ。


秘書さんはひとまず辞退を申し出たけれど、顧問さんが許可を出したので所在(しょざい)無さげに給仕なんかをしてくれている。

私も庭にでも行ってようと思ったのだが、シリュウさんに「座ってろ。」との言葉を頂き、大人しくお茶を飲んでることにした。


いくら私でも話が終わるくらいまでなら、逃げずに待機してるはずだけど…。



「で?ミハ。

わざわざ夢魔(やみ)のローブを着てまでここに潜んでた理由は?」

「あ、分かる?流石、シリュウ。

これね、(リッキー)の物なんだけど借りてきちゃった。」


リッキー…?

つーか、闇のローブってなんか危険──



茶化(ちゃか)すな。」


シリュウさんの低い声が響く。ちょっと怒ってるっぽい…。静かにしとこう…。



「…、本当はね?

シリュウに会うなら、()()しないといけない。そうじゃなきゃ永遠に会えなくなる。って感じてたの。」

「…。どう言う意味だ…?」


「…、ダリア(かあさん)が、()()()。シリュウがその亡骸(なきがら)を持ってきて。そのまま逃げる様に何処かへ行っちゃう。──そう思ってた。から。」

「…っ。」

「」もぞもぞ…


シリュウさんが息を詰まらせた。

ダリアさんがさらに居心地悪そうに身動(みじろ)ぐ。



「だから、せめて。悪いのは母さんで。シリュウのせいじゃない、って伝えておきたくて…。魔力を隠蔽(いんぺい)して、近づきました。」


娘さんの表情は真剣だ。冗談の類いではないらしい。


部屋の中に重苦しい空気が漂っている。

お通夜の雰囲気だな。参列したこと無いけど。

なんで部外者の私がここに居るんだろうな…。



「…。そういうことか。」


いや、今の話そんな分かる内容でした…?何言ってるのかちんぷんかんぷんですよ…?

これが風氏族の長老とかなら、未来でも見えてるんだな~、って流せるけれども。


あれ?

待てよ?


この人、ダリアさんの娘さんなんだから、風エルフのクオーター──4分の1だけ風エルフであるとも言えるのか??

でも氏族じゃない一般風エルフだったはず?

それで強力な未来視が可能なのだろうか…?



「私の直感が外れるくらい、シリュウが頑張ってくれたんだと思う。──本当に、ありがとう。母さんに、もう1度会わせてくれて。」


「…。礼ならテイラ(こいつ)に言え。ダリアを殺さずに済んだのは、ここに居るテイラのおかげだ。」


シリュウさああああん!?

なんでここで部外者(わたし)に話を振ったああああ!?



「そうなの。ありがとうね、貴女(あなた)。」


「え!?!?いや!あの!私は、何もしてない、って言うか!(のろ)──いや!ダリアさんに大怪我させて後遺症で!むしろごめんなさい!!?」



「…、面白い()ね~。」

「…。何をそんなに慌ててるんだ?」


「部外者の私に話を振るからですよ!!」

「完全に当事者だろうが。」

「いや、でも…!私の〈呪怨(こと)〉とか話せる訳…!」


「…。それか。

…。なあ?ミハ。テイラのこと、直感でどこまで()えてる?」

「え…?シリュウさん…?」


この人にまで私のこと話すつもり…??



「待ちな…!(ミハ)を巻き込む──」


「邪魔するな。ダリアのせいでこうなってんだろうが。」

「母さん。静かにしてね?」


「」うぐぅ…


どよどよダリアさんが力を振り絞って声を出したが、シリュウさんと娘さんの辛辣(しんらつ)正論パンチでKO(ノックアウト)された。いっそ、(あわ)れだ…。



「まあ、結構感じてる(わかる)けれど。…言っていいの?」

「ああ。ここにはダリアを連れてくる以上に、テイラをどうにかする為に来たからな。今居る奴は実情を話してある。」

「…、(シリュウったら随分信頼してるのね。)そこまで言うなら大丈夫かしら。」


娘さんが私の方を()る。



「私が視える(かんじる)のは…

強力な呪具(じゅぐ)を複数持って、(おび)えてる…小さな女の子…の姿、かな?」


次回は9日予定です。

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