表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

153/406

153話 握手と専任官

「こちらに「ドラゴンイーター」殿が来られたそうで、挨拶を、と。」



馬車の中の空気が、固く張りつめる。


ドラゴンイーターは、シリュウさんのことだったはず。つまり貴族が直々(じきじき)に、冒険者と顔を合わせようとやって来た。と、言うこと…。



「これはどういうことですかな…?」


顧問さんが、貴族の後ろに侍る兵士らしき人に質問を投げかける。



「あー…、そのですね…。」

「我々も、突然のことで──」


戸惑いを含んだ雰囲気の、兵士2人。どうやら彼らも巻き込まれた(クチ)らしい。



そんな周りを意に(かい)さず、若い貴族は室内へと歩みを進めた。こっちに向かってくる。


身を(かが)め両手を自身の胸の前に重ねた、(うやうや)しい態度の秘書さんが、慎重に距離を保ちながら貴族の横に来た。



「…恐れながらフーガノン様。この方々はイーサン顧問の──」

「ああ、他意(たい)は有りません。本当に。挨拶に来ただけです。」


秘書さんも一蹴(いっしゅう)された。

私の右隣に座るシリュウさんの前に、貴族が立つ。



「はじめまして。ドラゴンイーター殿。お噂は予々(かねがね)聞き及んでます。」

「…。」


シリュウさんを横目に見れば、ちょっと険しい程度の真顔。警戒はしているけど、嫌悪感は今のところ無いっぽい…?

つーか、普通に貴族の顔を見上げている…。目を合わせない方が良いはずだけど…、シリュウさんだしね…。


周りの皆は動けず、その様子を黙って見守っている。兵士も緊張してるみたい。

いや、ダリアさんが両手をきっちり握り拳にしてる…。いざとなったら殴りかかる気──?



「…。それで?」

「できれば、握手を。」


貴族の男が、右手を出した。

手の甲の肌感はとても綺麗で、それでいながらゴツゴツとした不思議な手だ。文官なのか武官なのか判別できない。



「良いのか?」

「ええ。」


貴族相手でも態度を変えないシリュウさんと、見た目子どもの冒険者に握手を求める貴族の男…。

何? この状況…。


シリュウさんが立ち上がり、男の右手を取った。

握手を、()わす。



シリュウさんを見ていたから、男の顔がちらりと視界に入った。


整った顔で(ほが)らかに笑っている。

髪が全体的に白っぽい青緑色──水色とはなんか違う──で肩くらいまで伸ばしている。かなり若くて中性的な貴族(ひと)だ。


単なる直感でしかないが、この人は相当な魔力の持ち主ではなかろうか。


そう言えばさっき、「専任官(せんにんかん)付き」って聞こえた気がする。

「領主」が(りょうち)を治める「県知事」みたいなものだとすると、その領主から各町それぞれの運営を任されている「町長(ひと)」が「専任官」…って認識で良いだろうか。

その専任官(ちょうちょう)(はべ)る役職の人が、シリュウさんの前に立つ男…。


この人に拒絶されたら町には入れないだろうね…。



私がそんな余計な思考をしている間も、

握手し続ける2人。


随分と長い。

何してるんだろう…??

別に握力をかけてる様にも見えないが…。って、互いに相手の拳を握り潰そうとする、試合(ゲーム)前のいざこざじゃあるまいし。


「手」は魔法を使う上で重要な部位だから、それを相手と合わせる行為である「握手」は、信頼の意味を表す…。うん。異世界(こっち)でも意味合いは同じだったはず。握手の時間的な長さに、何か私の知らない意図でもあるのかな…?



ややあってから、男が手を引っ込めた。



「これ程の強者がこの町に滞在してくれるとは、有り難いことです。我らが専任官も、きっと諸手を挙げて喜んぶことでしょう。」

「…。そうか。」


男の口元が笑っている様に見える。声もとても楽しげ。

貴族は感情を発露しない様に訓練するはずだが…?



「ようこそ。マボアへ。」



男はそう言うと、この馬車(へや)から1人降りていった。




──────────




皆が緊張した雰囲気のまま。残った兵士達と門を通る為の手続きを済ませた後。


通行許可は問題なく出たらしく、馬車は無事に町に入った。



顧問さん達がようやく安堵の表情を見せる。




「さっきの男は?」


シリュウさんが顧問さんに尋ねる。



「フーガノン殿…。この町を取り仕切る貴族に、(つか)えておる変わり者…、と言ったところかの。」

「…。あの強さで、なんで兵士に混じって仕事してんだ?」

「いや、普段は門などに()らんよ。専任官殿の護衛…と言う名の、雑用係…かの?」

「…あれが雑用だと??」

「立場が…弱い方らしくてな。本人も受け入れておる様じゃ。」


「…。貴族は訳分からんな…。

なんで大人しく従ってるんだ。魔力だけでもあいつ、この町一番だろう。」


あの握手、お互いの魔力を計り合ってたのかな?



「…、いや、専任官殿の方が上じゃな。シリュウも知っておるんじゃないか?ベフタス殿だ。」


「…!?「赤熊(あかぐま)」のベフタスか!?あいつ、貴族じゃないだろう!」

「それが、この地の領主が武功で取り立ててのぉ。この町を任されなさった。」


はて?あかぐま…、赤い熊かな?

そんな異名の魔物使(まものつか)い?か何かの話を聞いた様な違う様な…?



「…。この町に来たのは不味かった、か…??」

「え…。そんな危険人物なんですか…?」

「いや、危険ではない…、いや?やっぱり問題か??」


どっちですか…。



「先ほどのフーガノン殿は、ベフタス殿に師事(しじ)しておる。どうあれ、シリュウが来たことは伝わっているじゃろうな。」

「…。師事?ベフタス(あいつ)に…??」

「フーガノン殿も、難儀な境遇のドラゴンライダーでな…。」


「…。」頭抱え…


シリュウさんが、沈痛な面持ちで黙ってしまった。



変にボロくそな物言いをされる専任官(ちょうちょう)さん…。そして握手をして帰っていった貴族がその付き人さんで、更に風変わりな竜騎士(ドラゴンライダー)…。


そして今この町着いたばかりのドラゴンイーター(シリュウ)さん…。

プラス、呪い女(わたし)…。


素敵な出会いになりそうだなぁ…(泣)

ドッキドキのワックワク、だよ…(皮肉)


次回は4月3日予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ