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152話 不思議馬車と内部確認

「今優先したいのは食料の確保だな。ここ最近の報告もイーサン経由でしてくれると助かる。」

「儂の備蓄を()ず出そう。報告はトニアルが引き受けるから、しばらくはゆっくりしてくれ。」

「ああ。」


「ダリア、お(ぬし)もしばらく(うち)に来い。本人確認を済まして、ギルドカードの再発行手続きをする。」

「…、仕方ないね。」


「2人には、落ち着いた頃に魔猪の森に行ってもらうと──」

「アタシは直ぐにでも──」

「──そうだな。──テイラの為にポーション──」

「上級なら都合がつく──」


シリュウさんとダリアさんが顧問さんを交えて、今後についての話し合いをしている。



この応接室みたいな場所の、特定の扉を開けたらそのままお宅に空間跳躍(ワープ)…、

みたいなとんでも機能は無いらしく。普通に馬車として移動し町に入ることを聞いたのが数分前だ。


外で待っていた給仕の女性2人と合流し私達の今後を軽く説明した後。シリュウさんが外に置いていた人力車をマジックバッグに回収し、御者以外の全員が乗りこんだところで出発した。




ゆーら… ゆーら… ぐーら… ぐーら…



しかし、この応接室的な車内。不思議な揺れ方をしている。

窓が無いから外が見れないし、何が起こっているか分からないな。



「この中でも揺れるんですね。」

「はい。ご気分は問題ないですか?」


普通に受け答えしてくれる秘書さんと、話でもしておこう。



「大丈夫です。ただ、揺れ方が、普通の馬車とは全然違うので気になって…。」

「車体に衝撃を緩和する仕組みが取り付けてありまして、その影響かと。この部屋に有る物の全ての重量が馬車にそのまま伝わりますと激しく損壊しますので。」


ふむふむ…。車輪周りにスプリング的な物でも存在してるんだろう。物を柔らかくする魔法で作った緩衝材(クッション)とかかな?

しかし、マジックバッグってシリュウさんのみたいな、重量無効機能とかも有るはずだが…?



「なるほど~。

マジックバッグみたいに重さをゼロにする機能は付けてないんですね?」

「数割ほど軽くする効果の魔導具が、別に搭載されています。

マジックバッグと聞いて、どのようなものを想像しておられました?」

「こう…亜空間?みたいな闇の世界に、この応接室がフワフワ浮いてる感じかと思ってました。」

「確かにそういった仕組みの物もございます。

この車に(ほどこ)されているのは、単純な空間の縮小…。部屋を別に作製して、車体の上に設置し、そこから部屋の四方の壁と天井を空間収納の要領で中に押し込んだ…もの。そう理解していただければ。」


「ほおほお…。なら馬車が横転したら、内部の部屋も横倒しになるんですか?」


「…、」じろり…


秘書さんが険しい顔になって睨んできた。物騒な失言が不味かったらしい。



「あ、いや、ごめんなさい。縁起でも無いことを…。」


「ははは!安心くだされ。部屋そのものも魔導具ですから、そう滅多な事ではびくともしません。家具を固定する魔法も有りますし、緊急の脱出口も用意してあります。」


「そ、それは凄いですね…!」


ここは顧問さんの助け船に乗って、相手をチェンジだ!



「ええ。マジックバッグの収納機能を体積だけに限定し、運用する総魔力を抑えて取り回しを良くしとるのです。」

「なるほど…!必要な機能のみに特化させ他は既存の仕組みで補うことで、ランニングコストを下げて汎用性の向上を計っていると。」

「おお。分かりますかな!」

「ええ!私も鉄を持ち運ぶアー──んん!魔導具!作りで!色々試行錯誤を繰り返しましたから。」


危ない。私の秘密を教えちゃダメな人も居るから、アーティファクトなんて気安く言ってはいけなかった…。



「それは凄い。実際はどのように──」

「親友との半分独学ですが、土属性の固体操作に着目──」

「あの刻印部分──」

「ええ。元が…(血液)(むにゃむにゃ…)なんで、液体を取り扱う刻印も組み合わせてみて──」

「刻印と刻印を繋ぎ合わせ、1つの魔法紋様に──」

「その通り──」



「…、ヒゲジジイと魔導具の話で盛り上がれるとはね…。」

「…。(魔力が無い上に、アーティファクト…の話だがな。)」


「「…。意味分からんな(ないね)…。」」


「…、(この馬車をどう攻撃するかの下調べ…ではなく。

単純に好奇心が強いだけ…なのだろうか…???)」


「(おじいちゃん、楽しそうだな。)」



「(超級(ダリア様)でも特級(角の少年?)でもない方に、なんでイーサン顧問が敬語で話してるの…??)」内心びくびく…


「(魔導具の技士なのかしら…。水エルフの方…?もしや氏族と言う可能性も…!?)」内心おろおろ…



「儂や皆だけでなく、馬車を引く魔物(パナ)達からも魔力を供給することで──」

「なるほどなるほど…!不測の事態に対する備え──」

「ええ。外との連絡や車輪の磨耗を防ぐ仕組みも──」



顧問さんから面白い話を聞きながら、山羊魔物が引く不思議馬車はゆっくりと町に向かっていった。




──────────




ほわーっ… ほわーっ…



「ん?」


馬車の揺れが止まったなと思っていたら、謎の音が車内に響いた。

秘書さんが、恐らく進行方向だった壁に素早く向かい、嵌め込んである金属に触れる。



「顧問。門の兵士が、中の確認をしたいと申し出ている様です。」

「ふむ?何故それを緊急通信で伝えてきた?」


え。緊急通信…?



「…、どうやら(つね)とは違う確認がある様です…。」


「…、シリュウ。テイラ殿。儂らが応対しますので、お2人はそのままでお願いします。」


「…。ああ。」

「はい…。」


「ダリア、動かんでくれよ?」

「…、あいよ。」




思いつくのは、犯罪者の捜索…とか。

呪い女(わたし)を処刑…、いや、貴族を焼き殺そうとした暴徒(シリュウさん)に捕縛命令…って可能性も…??


前向きに考えるなら…、町の中でトラブルが発生して中に入れない…、別の門へ移動してくれ…って伝達とかだったり?



…。



セットし直した髪留めを確認。危機察知は機能中。

右手首の腕輪で、身体強化を軽く発動。視力・聴力を高める。

左の腕輪から鉄を出して、耳の装飾品(イヤーカフ)首の防具(チョーカー)を形成・装着。頭と胸を守る防壁に。


とりあえずこれで、相手を刺激せずに色々対応できるだろう。



シリュウさんは自然体な感じで座っていて、ダリアさんは仁王立ちのまま壁から少し離れている。




コン コン



外と繋がる扉からノックが響く。


お孫さんが扉を開き、秘書さんと顧問さんが出迎えた。



入ってきたのは…3人の男。

服装からして2人は兵士…っぽい。残りの1人は──



「“調和の風が吹く秋の初め、温和の大気に感謝を”

お目にかかり光栄です。──フーガノン様。」

「“調和の風に感謝を”

すみませんね、冒険者ギルドの方々。」


秘書さんが(うやうや)しい態度で迎えた男性。

──十中八九、貴族だろう。


若い男性。声に柔らかさは感じる。

防具や武器の類いも装備していない、っぽい。


目を合わせない様に相手のお腹辺りを見ているから、ちょっと判別がつかないけど。



「専任官付きの方が直々(じきじき)とは、何事か有りましたかな?」


「こちらに「ドラゴンイーター」殿が来られたそうで、挨拶を、と。」


次回は31日予定です。

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