149話 本人確認と振り返り
「〈呪怨〉を撒き散らす危険人物を仲間に引き入れると!?
何を考えているのですか…!?」
「…。俺がそうしたいと考えているだけだが?」
「ふざけている場合ではありませんよ!?」
「…。」
私が〈呪怨〉持ちだと知って鼻息を荒くさせた秘書さんが、シリュウさんに喰ってかかる。
まあ、まともな思考ではないもんねぇ~…。私もどうかしてる、とは思ってるよ。
「シリュウ。──ホーンヌーンの事を覚えておるか?」
「おい!?ヒゲジジイ!?」
顧問さんが突然、妙な質問をした。
何故かダリアさんがかなり慌てている。
なんかシリュウさんに──
「──何が言いたい?」
──ズウゥゥゥゥゥ──
部屋の中を。異様な気配が覆いつくした。
い、息が、しづら、い…?
口がうまく動かない。と言うか体もなんか強張ってる。
周りの様子がよく認識できない。
キィン…キィン…キィン…
遅れて、髪留めの警報も頭の中に響いてきた。
下手なことをすると死ぬ…可能性があるみたい…。
多分、シリュウさんが…怒ってる…の、かな…?
イラドって単語を聞いたとか、呪いと遭遇したとか、そんな時以上の反応をしてる…っぽい??
「儂も。あの国でお主に何があった…のかは、知らん…。」
異常な雰囲気の中で、顧問さんの苦しそうな声が聞こえてきた。
「じゃが…。お主が〈呪怨〉を深く…嫌悪する体験を…したことは…。儂らも、察しておる…。
どうやら、記憶・感情を操作された、訳では無さそうじゃの…。」
「………。随分と。危険な本人確認だな。」スゥ…
「…っ…はあっ!」ふるふる…
「っ!」ごほごほっ!
「…、ったく…。」
「」はあはあ…
金縛りの様な重圧が消え、なんとか呼吸できる様になった。
横目に見ると、シリュウさんが全ての感情が抜け落ちたみたいな真顔になっている。今のって、もしかして魔力威圧の凄い版…?
「お主と真剣に向き合うには、これくらいは必要じゃろうて…。済まんかったの…。」
「…。まあいい…。
確かに気が狂ったと思われて当然か。」
「根底に変化は無い様じゃ。安心したわい…。」
──────────
皆がなんとか落ち着いたところで話し合いが再開された。
私が〈呪怨〉持ちだけども、反論はせずにシリュウさんの言葉を最後まで聞いてくれるらしい。
とは言え、口を開けるのは顧問さんだけの様だが。
「と言うことは、この者には〈呪怨〉の…難点を上回る利がある…、と言ったところか?」
「ああ。ギルドとしても十分な意義が──」
しっかし、さっきシリュウさんが過剰に反応した「ホーンヌーン」って言葉…。
確か昔に滅びた国の名前じゃなかったかな…?
国王?が夢魔?に呪われて?、国が茨で覆われたとか言う…。内容はトスラで人伝に聞いたから良く分からないけど…。うん。おとぎ話の「茨姫」みたいだと思った記憶はあるよね。
ラゴネークの西隣に位置しているが魔法の茨で国内に入ることは叶わず、大きな港町も有ったらしいが航行もできない状態だとか。そんな謎地域だったはず…。
「──そうか…。分かった。この者の話を聞かせてほしい。」
とりあえず、この亡国のことはシリュウさんの特大地雷だと、心に刻もう…。
「…。俺も不用意だった。悪い。」
どうやらいつものシリュウさんに戻っている様だ。
「儂への信頼を感じれたよ。その期待に応えねばな。」
「…。残りを一気に言う。心してくれ。」
「うむ。」
「…、」冷や汗…
「…、」ドキドキ…
「…。特級案件2つ目。テイラはセル・ココ・エルドの出身者で、風氏族のエルフと親友なんだが。そいつが初の管理者だ。風の世界樹の、な。」
「なんとお!?!?」
「!?!?」
「???」
「3つ目。激流蛇の分霊と縁を結んでいる。その水精霊はテイラの呪いと共存している。」
「なん!??ちょ、ちょっと待て!シリュウ!?」
「「??」」
「4つ目。〈呪怨〉の力で…──アーティファクトを創出できる。条件はあるが。」
「「「………???」」」
顧問さん達3人が完全にフリーズした。
なーる。そこが特級案件かあ~。
〈鉄血〉とアーティファクトで別なのね。
つーかアクアの本体さん、特級案件なんだ。それは凄い。
しっかし、シリュウさん。誓約で縛ってるとは言え随分ぶっちゃけたよね。顧問さんには掛けてないけど、大丈夫なのかな?
「(シリュウの奴、本当に畳み掛けたね…。)」
レイヤやアクアと知り合いってだけで、〈呪怨〉持ちってマイナス面が中和されるのかなぁ??
2人を利用する様な話になったら、ご破算にするかな~。
そんなの、とてつもなく嫌だし。
「…。(異なる世界からの生まれ変わりって問題もあるが…。特級案件と言うよりは、論外の域だしな。話す必要は無い。
…テイラの思考がぶっ飛んでるのは、自然と分かるだろうし…。)」
〈呪怨〉ぶっ放より、シリュウさんの地雷を連呼しまくって大混乱を起こせば諸々有耶無耶にできるかもだな~。これもあんまりやりたくないけど、お手軽な状況リセットとして選択肢には入れておこう、っと。
──────────
「テイラ。もう喋ってもいいぞ。」
固まった3人の様子をしばらく見ていたシリュウさんから、ようやく許可が出た。
「とは言えシリュウさんが全部伝えてくれましたし、もう話すこと無さそうですけどね?」
「お願いですから…、説明をください…。」
絞り出す様な悲痛な声が発せられた。秘書さんからだ。
顧問さんは完全に放心状態。お孫さんは諦めたのか、ふわ~っと笑っている。
流石は敏腕秘書。この状況でも対話の心構えを保つとは。
「呪い女の言葉を、聞いて大丈夫なんです?」
「…、大変失礼な発言をしたこと、お詫びいたします…。
対話の為にこの場が設けてあるので、窺いたく思います…。」
随分、下手に出てきたな。
「別に良いですけど。…どこから、話しますか?」
「初めから…全てを…、詳かにお願いできれば…。」
「言いたくない所も多々あるので、雑にざらっと解説しますね。」
その後、私の16年の人生を軽く説明した。
まあ、島でのことは話すつもりはほとんど無いから、この大陸に着いてからのことがメインだが。
──魔法使いと氏族エルフだけの島で唯一生まれた非魔種であり、多少苦労して育ったこと。
同じ歳の風エルフの女の子とは色々あって仲良くなったこと。
結局勘当されたところに、親友エルフが突撃してきてそのままこの大陸に連れてこられたこと。そのまま2人で、寂れた港町の冒険者を始めたこと。
〈呪怨〉が発現したけれど、その力を親友と一緒に生活していく糧にしたこと。その能力は血を鉄に変えるもので、それを〈鉄血〉と名付けたこと。実験する内にアーティファクトの素材になれる不思議金属が出来たこと。
ある日、水スライムとでも言うべき変な生き物に出会って仲良くなったこと。
町のギルマスのせいで冒険者を続けられなくなり、親友と離れ離れになったこと。
親友の魔法で国境の巨大湖を越えて、この国に不法入国したこと。
浮浪者やりながらなんとなく西に向かっている過程で、ムカデ女──呪いの化け物と遭遇し死にかけたところをシリュウさんに助けてもらったこと。
ウカイさんやダリアさんと出会いながら、この町までシリュウさんと移動してきたこと──
等々…。
はあ…。思ったより長くなったなぁ。
人生丸々を語るのって疲れるね~…。
次回は22日予定です。




