148話 異常な女ですみません
「…。大丈夫みたいだな。」
赤い火炎を体から噴きあげる2人を見ながら、シリュウさんが呟く。
この状況のどこに大丈夫な要素があるんです??
いやまあ、服とか髪の毛が焼け焦げたり、部屋の中の物に燃え移ったりはしてなさそうだから燃えない火炎なんだろうけども。
それでもこの光景はちょっと…。
「安心しろ。伝わった俺の魔力が溢れ出ただけだ。耐性も一緒に備わってる感じだし怪我を負うことはないだろう。
なんなら回復力も上がるかもな。」
「シリュウの魔力が加護の様なものになっておる…、と思えば良いかの。」
「多分な。大した問題にはならん。」
「さ、左様…です…か?」
シリュウさん。推測混じりに適当なこと言ってません?
「だが、誓約に違反したら制裁が発動して内側から焼け死ぬ。調子には乗らないことだ。」
「…!」冷や汗…
「僕にもおじさんみたいな火属性が使える様になってるかな?」のほほん
孫さんは随分と余裕な感じだ…。
「どうだろうな?」
「むぅ…。一時的な適性が発現しておる…かも、の?」
「俺の魔力を扱える訳じゃねぇし、意味ないだろ?」
「どうでもいいこと言ってないで、とっとと話を進めな。」
ダリアさん。その通りかもですけど、あなたのお孫さんが火の中に居るのに心配じゃあないんです…??
──────────
契約が終了した──目に見える魔法の火がなんとか治まった──のを確認してからお付きの女性達が馬車の外に出ていき、私達6人での話し合いが始まった。
さあ、いよいよここからだね…。
許可がまだ出ないから私は喋れないけど。
「して…、シリュウよ。闇の魔石を4つも譲るとはどんな意図で言ったんじゃ…?」
ああ~。紫って、闇属性の魔石の意味か~。
「一応はそのままの意味でも言ったぞ。かなり珍しい宝石でもあるし、興味あるだろ?」
「それはまあ、のぅ。」うずうず…
「こ、顧問。それは本当のことなのですか…?」
なにやら秘書さんが戦慄いている。
「ああ。シリュウなら持っとるだろうよ。」
「禁術指定魔法に繋がりかねない代物ですよ!?ギルドや各国が厳重に保管すべき危険物を複数持つなど…!?」
「ははは!シリュウだからのぉ!何も不思議ではないわい。」
闇属性の魔力を溜め込める様になる訳だから、まあ危ないよね。
気配隠蔽とか精神操作とか、性質の悪い魔法が使える可能性が生まれるし。
「とりあえず見るか?この場に居る奴なら問題ないだろ。」
「頼む!」
呆れた顔のダリアさんを気にも留めず、ノリノリな顧問さん。なかなか楽し気な感じだ。
シリュウさんが黒の革袋から握った手を引き抜き、私達の前で開いて見せてくれた。
手のひらの中には…、紫色の針金?
暗い紫色に光る、細長い菱形の塊が乗っていた。長さは手の幅以下で、思ったりよりもだいぶ小さい。
まあ綺麗な感じはするがその程度だ。本当に、超希少魔石なの??
「「「「…!!」」」」
私とシリュウさん以外の4人が息を呑んでいる。
なんで?
…。
あ。これは、あれか。魔力がやべぇのか。
「な、なんと…いう…。」わなわな…
「ああ…。凄まじい魔力じゃ…。」
「まあ、黒袋にずっと入ってたからな。俺の闇属性魔力が際限なく籠められて、こうなった。」
「闇属性持ち…ですと…?」
「おじさんが適性持ってるのは知ってたけど、この魔力の密度…、おかしくない??」
「闇の特性「凝集」が原因だ。魔力が勝手に圧縮されて闇魔石に際限なく詰め込まれていくんだ。」
「…そうなんだ…。」
「ああ、これも俺の「秘密」だから一応誓約で縛る内容に含める。喋るなよ?」
「……、了解…、しました…。」
「もちろんだよ──です。」
「シリュウよ。譲ってくれるにしても1つで良いぞ…。これ程の物が複数有っても持て余すわ…。」
「…。まあ、それもそうか。」
顧問さんが私を思案顔で見やる。
「この少女に、これ4つ分の価値があるとお主は見ておる…。そんな認識で合っとるか?」
「まあ、そうだな…。具体的に言えば…、
テイラは…、──特級案件が4つ。関係している。」
「え?」
「うん!?」
「……は?」
顧問さん達3人が信じられないものに遭遇した様な表情で私を見つめる。
うん?特級案件?〈呪怨〉と──世界樹の葉……、の2つくらいでは…??
葉っぱだって、本来の持ち主はレイヤだけど…。
「先ずは、聴け。
テイラは、相当に厄介な存在複数に、深く、関わっている。放置すれば面倒な問題を発生させる可能性が高い。
そこで、俺個人としてはテイラを、特級冒険者に推薦したいと思っている。」
「「「!?」」」
「ついでに。俺のパーティに加えたいとも考えててな。」
「「!?!?」」
「待て待て!何故そんな高位存在を儂の所に連れてきた!?何もできることが無いぞ!?」
「…。テイラ本人は。ギルドに不信感を持っている上に、そんな存在になれる訳が無いと卑下しててな。
強制的に仲間にするつもりもないから、様子を見ているところだ。
それで、ともかく腰を落ち着けて諸々のことができる場所がここだった。」
「「…。」」
「諸々って…。はしょり過ぎだよ…。」
「シリュウよぉ。もっとちゃんと話してやんな。」
ダリアさんが溜め息混じりに促してくれる。
「…。そうだな。
まあ、先ず1つ目。テイラは〈呪怨〉持ちだ。」
「「「!」」」
「さらに言えば。単なる被害者ではなく──〈呪怨〉の、適合者だ。」
「「な!?」」
「え…?」
私を見る目に、警戒や怯えの色が混ざった。
ははは~…。当然だよね~…。
いやぁ、本当に申し訳ない~…。
次回は19日予定です。




