147話 話し合いとおじさん
「…、(どうしたものか…。)」ふむぅ…
なんとか落ち着いたものの、頭を抱えたまま考え込んでいる顧問さん。
いやぁ…、なんかすみません…。
シリュウさんは「今、断ってもいいぞ。」と言って完全に待ちの体勢。顧問さんが答えを出せる様に選択肢を与えた形だ。給仕をしようとした侍女さんを止めているくらいだから、断られたらすぐさま席を立つ気らしい。
口出しを止められて、飲み物で間を潰すこともできず、ただただ様子を伺うしかない私だった。
メガネ(幻)秘書さんはその間、他の人に指示して魔石の処理を施している。綿か何かを敷き詰めた魔法銀製の箱達に、魔石を小分けにして蓋を閉じ、箱をなぞって表面の刻印や紋様を光らせる。そんな感じ。
魔石には手袋を装着して直接触れない様にしているし、魔法刻印の起動には小さな木製の杖を握って魔力を慎重に流している様だ。
随分と厳重だね。価値を考えたら当然だけど。
「ゴウズ。皆を連れて外に出よ。シリュウと話をする。」
皆の作業が終わったくらいに顧問さんが意を決して口を開いた。
「いけません!顧問!」
「これはかなり重要な案件じゃ。皆には荷が重い。分かってくれ。」
「それでもです!この冒険者と供を付けずに話をするなど何をされるか分かったものではありません!」
「ははは!これでも付き合いは長い方じゃ。早々おかしなことにはならんよ。」
「貴族相手に平気で攻撃魔法を撃つ輩ですよ!?危険極まりない!」
「だからこそ、お主らを巻き込む訳にはいかん。これは外部との折衝を受け持つ顧問の仕事じゃ。」
「私も貴方の部下なのですから──」
「それでも事の重さを──」
顧問さんと秘書さんがお互いに譲らず意見をぶつけ合う。
紫、ってもしかしたら〈呪怨〉の暗喩なのかな?
〈呪怨〉の案件だと分かったから顧問さんは悩んでいる、と考えると辻褄が合う。
でも、紫を4つ渡す、って文脈と合わないよな~?
呪い女は私1人だし…、ダリアさんの呪具はもう無いし…。
「最低限、向こうと人数を合わせるべきです!顧問を含め3人でやり取りをしなければなりません。」
「じゃがのぉ…。」
「トニアル!貴方も説得なさい。」
秘書さんが、若い男性秘書に協力する様に指示をした。
「顧問。私も力になりたく思っています。同席させてくれませんか?」
「トニアル…。」
うーん…。この若い秘書、なーんか裏が有りそうな変な笑顔してる気がする…。髪もツヤツヤキラキラな茶髪だし、チャラ男っぽいのよなぁ。
「…。お前、やっぱりトニアルか。」
あれ?シリュウさん、お知り合いですか…?
「ええ。お久しぶりです。──シリュウおじさん。」
「おじさん!?」
「…。」じとー…
はっ!?思わず声出しちゃった!?
シリュウさんのジト目が突き刺さる…。他の人も一斉に私を見ている…。
ごめんなさい。どうぞ、会話を続けてください。と、口を片手で押さえながらジェスチャーで伝える。
「…。(全く…。)数年ぶりか。デカくなったな。」
「うん。おじさんは相変わらずみたいだね。」
「トニアル。」
「え?あ、ごめ──すみません、ゴウズさん。」
ふむ。社会に出たばかりで敬語に慣れてない感じか。
笑顔も作ってたから変な感じがしたんだな。
「…。なんでここに居るんだ?」
「ギルドの職員になることができたんです。今はおじい──いや──いえ。イーサン、顧問。の下で修行中です。」
「そうか。良かったな。」
「う──はい。」
見た目成人してるくらいの男性が、10代前半の子どもに見える冒険者を「おじさん」呼びして慕っている…。脳がバグる光景だな…。
「お前を巻き込みたくはないから、他の奴と変われ。」
「自分はこれでも正規の職員です。職務を全うしたいと思ってます。それにダーち──」
「」クワッ!!
「んん!おばあちゃ──様。が、既に巻き込まれているのです。家族として話を聞きたいたいと思うます!」
ダリアさんが会話の途中で若秘書さんを凄く睨みつけて、何かの言葉を遮った。
ん?てか、ダリアさんのことを祖母って言った??
「顧問。私とトニアルを加えた3人で話をするべきです。」
「トニアルは孫への情として遠ざけたいが、それ以上に力量不足じゃ。それに儂と違ってゴウズの代わりはおらんからのぉ…。今回は控えてくれんか?」
「なりません。」
「頑張ります!」
「むぅ…。」
「…。(面倒だな…。)」
「アタシが外に出るよ。それでどっちか外れな。」
今まで無言だったダリアさんが口を開いた。
「それもなりません。」
「あん?」
「貴女が「砂塵のダリア」であるか確認できない以上、勝手な行動は謹んでいただきたい。」
「ゴウズ。こやつは確かにダリアじゃぞ。」
「見た目も、魔力波長も、その上武器までも以前とは変わっているのですよ?
信用するには足りません。」
「…、相変わらず口うるさい奴だねぇ。」
「秩序を守らない者に正当な対応を取っているまでです。そこで大人しくしていてください。」
「…、」ケッ!
さじん…。多分、砂塵だな。格好いい二つ名…!砂嵐で戦うダリアさんにぴったりだ。
しかし、ダリアさんを言葉で負かすとはこの秘書さん、やるなぁ。
「…。仕方ない。同席してもいいぞ。」
「じゃがのぉ、シリュウ…。」
「2人には条件を付ける。
イーサン、誓約書はあるか?俺が書けるやつ。」
「本気か!?」
「ああ。堅物は信用できんし、トニアルは誓約で守る方が逆に安全だろ。」
「顧問。何を惑う必要があります?妥当な落とし所ではありませんか。」
「ゴウズ…、シリュウは魔力の質・量共に破格なんじゃ。それと誓約で繋がれば耐えられるか判断できん。」
「…、それ程ですか…。」
「孫はまだ触れたことがあるから耐えれるじゃろうが、お主はなぁ。
それに、使用するのは最上位の誓約書になる。」
「超級を使うのですか!?」
「ああ。これでもギリギリじゃがな。」
色々困難そうだけど、方針が決まった様だ。
それから、誓約の準備が為された。棚の引き出しからペンや書式が取り出されテーブルの上に並ぶ。
置かれた誓約書を見てみたが、確かにこれはとんでもない。基本は堅い質感の木板に貼り付いた紙みたいで、文章を書くスペースの周りに光沢のある金属で複雑な紋様がたくさん描かれている。
多分魔法金属の類いを吹き付けたのかな。これが誓約の魔法式を構築している様だ。
誓約の中身──許可なく秘密を漏らさない、誓約者同士で協力し不利益を回避する、等々──を互いに読み上げ確認する。
それから、秘書さん、ダリアさんの孫、シリュウさんがそれぞれ署名を行っていく。他2人はなぞった紙の色を魔力で変化させる魔法筆だったのだが、シリュウさんはなんと自分の血をインク代わりにして書いていた。
魔法銀のナイフを取り出し私の方をチラリと見て「血を出すからむこう向いてろ。」と言われた。血を見たらパニックを起こす私を気遣ってくれたらしい。有り難いね。
まあ、指から滲む程度の量ならまだなんとかなるのだけど。
そして、3人が内容と自身の名を宣誓して、誓約が履行される。
──途端に秘書さんと孫さんが、赤い火炎に包まれた。
「な、な、ななな!?!?」
「おじさんの魔力はやっぱり凄いなぁ…。」
え!?どういう状況!?
その頃、馬車の外。
山羊魔物達 (草美味しい。)モシャモシャ…
御者「この鉄の塊な車?は何だろうな…。」
人力車 (逃走用の足です。)
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次回は16日予定です。




