146話 賠償と詫び
「改めて。マボアギルドの外部顧問をしているイーサンだ。シリュウ、良く来たな。歓迎するぞ。」
馬車の中に案内されて、話し合いの場が開かれた。
顧問さんの向かいにシリュウさんが座り、私はその隣に無言で着席。ダリアさんは何故か横の壁の近くに腕を組んで立っている。警戒して座らないなら、背中の棍棒が壁に近過ぎて振り回せないから意味なくないですか…?
中に入って驚いたのだが、かなり広々とした応接間が私達を出迎えてくれた。
大きなテーブルに、3人掛けのソファが対面に2つ、壁際には書類棚なんかの収納スペース、給仕道具らしき物が乗ったワゴンみたいなのもある。
床は板張りだが、不思議と柔らかい踏み心地でなんだか上等そう。
マジックバッグの要領で、普通の馬車の内部に応接部屋の「空間を収納」しているんだとか。ハ○ー・ポッターに似た感じのテントが有ったかも。
もっと良く知りたいけど、シリュウさんに話し合いの最中は口を出さない様に指示を受けているので、詳しく尋ねることもできずに大人しくしている。
「ああ。
悪いな、イーサン。突然押しかけて。」
「なあに、お主ならいつでも良いとも。」
「積もる話がたくさんあるんだが…。何から話したもんか…。」
「なら、先ずは一杯──」
「──では、賠償の話を。」
顧問さんの秘書っぽい男性が突然口を開いた。
「ゴウズ。もう少し間をおいてから──」
「イーサン顧問。こちらの少年は件の特級冒険者で間違いないのですよね。」
「ああ。それは間違いないが──」
「でしたら。フュオーガジョンを混乱に陥れた咎があります。その清算をしなければなりません。」
「…。」
なんだか不穏な雰囲気。
この秘書さん、眼鏡を幻視しそうな程に堅物キャラだ。正論を連発して心を折ってくる未来が見える見える…。
これはシリュウさんと衝突するつもりかな…。
「特級冒険者「ドラゴンイーター」のシリュウ。貴方には我が国の都市フュオーガジョンの地において、領主・貴族・騎士を含む全町人に過剰な魔力威圧を展開し意識を失わせた疑いがかけられています。
相違ありませんね?」
「…。ああ。」
町の人を全員気絶させた…。
確か…あのムカデ女が出現した場所の話…かな?そんなこと言ってたよな、シリュウさん。その後、スティちゃんが居た作業村で私と出会ったはずだな…?
「気絶させる程の対人魔力威圧を使う粗暴さ。それをあろうことか国の貴族に向ける蛮行。そして、湖都に次ぐ我が国の大都市を機能不全に陥らせた無謀さ。
ギルドに所属する冒険者としてあるまじき行為です。」
「…。」
「現在ではフュオーガジョンは正常に機能していますが、冒険者ギルドに対して巨額の賠償金を要求し彼の支部はそれを受諾しています。既に貴方の個人口座は凍結され強制接収が行われておりますが、賠償額を賄えてはいません。
貴方には、その埋め合わせをする義務があると進言します。」
な、なんか、想像以上に大事だな…。
「…。イーサン?」
「あー…。こいつはゴウズ。マボアのギルドマスターが儂に付けてくれた優秀な職員でな。顧問になって間もない儂を助けてくれとる。
そして、こいつが言っとることは事実だ。向こうの領主連中は大方、シリュウから買ったとか言う特級ポーションの代金を踏み倒そうといった魂胆なのだろうよ。」
「…。なるほどな。」
「貴族方の意向はともかく国益を損なったことに対して、誠意ある対応をしな──」
シリュウさんが胸元に手を入れた。
その動きを見てビクリと硬直する秘書さん。
シリュウさんはその様子を気にも留めず、取り出した革袋の中から何かを握りこみ、テーブルの上に置いた。
ゴトン!
「なっ…!?」
現れたのは、火の魔石だ。両手で抱えるくらい大きく、多少のくすみは有るがかなり煌めいている。秘書さんが驚くのも無理はない。
こんな大きさとか、命懸けでドラゴンを倒してもその体内にあるかどうか…。
ゴトン! ゴトン! ゴトン
「はっ…!?」
まあ、シリュウさんはそんな現実を軽くぶち超えてくるのだが。
ゴトン ゴトン ゴトン…
「いえ、あの!?その!?」
ゴトン ゴトン ゴトン… … …。
最終的に火の魔石が10個、土の魔石も10個、テーブルの上に燦然と並んだ。最初のやつよりは大きさは劣るがどれも相当な値打ちの物だろう。
うん。有るのは知ってても、直接見たらただただ凄いとしか言えないね~。
秘書さんだけでなく、他の皆も震えてらっしゃる。
ん?もう1人の若い男性秘書だけ、なんだか苦笑いしてる…??
「イーサン。こんなもんで足りるか?」
「ああ。問題無いじゃろう。」
「土よりも火の方がもっと要るか?」
「ははは!この大きさなら土属性でも十分な価値があるわ。安心せい、お前さんの魔力が籠められてるんじゃ。それだけでいくらでも活用できる。この国の他の支部からも文句は出んだろうよ。」
「なんならギルド硬貨も有るが出すか?1000万ギルは入っていたはずだ。」
「!?!?」
「それはお前さんが持っておけばいい。また問題が起きた時の備えにしておけ。」
「そうか。じゃあ、ついでにこれを。」
ゴトン
「「「!?」」」
今度は少し変わった物が出てきた。
見た目は…恐竜の歯?の化石と宝石のルビーを結合させた様な感じ。これも魔石か…?
「ほおお!これはまた素晴らしいな!元はドラゴンの角か?」
「いや、火虎の牙だ。かなりデカいやつでな。色んなもんを喰う為に歯に魔力を籠めまくったのか、半魔石化してるんだ。」
「ふむぅ…。魔石として活用するには削るしかないが…、これを加工するのは惜しすぎるのぉ…。」
「それはイーサンへ個人的に譲る分だ。こういうの好きだろ?」
「良いのか!?」
「ああ。
…。ダリアを。殺しかけたからな。詫び代わり…と言ったらなんだが。」
ダリアさんが呆れた顔でシリュウさんを見ている。気を使う必要はないのに、とでも言いたげだ。
「自分から突っ込んでいったんじゃ。そんな理由でこれを受け取る訳にはいかん。」
「さっき騎士連中と揉め事も起こしたからな。色々込みで魔石角を譲っておく。」
「大した事ではなかった、と報告を受けとるが…。
…色々、のぉ…。相当な厄介事か?」
「まあな。今回、イーサンに頼み事…、いや、相談か。話を聞いて欲しくてな。」
「シリュウに頼られるとはのぉ…。」
顧問さんが私の方をちらりと見る。
「察してる通り、テイラのことでな。」
「ほお。」
「冒険者…、元冒険者のテイラ、だ。あの町に出た呪い女を倒すのに…手を…貸してくれた…、一般?…人だ。」
ちょっと。シリュウさん?
歯切れ悪く疑問符での説明は止めてくれません?
「ふむ…?」
「こいつに関する情報を聞いて、他に漏らさないと約束してくれるなら…──「紫」を譲ろう。」
「なあ…!?!?」クワッ!!
ちょっ!?顧問さん!?目が怖いです!?
今までのシリュウさんの奇行にずっと柔らかい態度だった顧問さんが、凄まじい形相で私を凝視してきた。
つーか、紫って何!?そんなやべぇ何かなの!?
何の隠語なのー!?
「こ、顧問…。落ち着いてください。怯えてらっしゃいます。」
「むぅ…?す、すまん…。」
インテリメガネ(幻)秘書!!
ナイスアシスト!!良い人だったんですね!
正論ごり押し野郎とか思っててごめんなさい!!
「話を聞いた上で、手を貸してくれるなら
「紫」を──4つ。譲ってもいい。」
「………なん……じゃと……?」
シ゛リ゛ュウ゛さ゛ん゛ん゛ん!?
なんで追い討ちをかけたああ!?!?
顧問さんが世界の終わりみたいな絶望顔でフリーズしましたよー!?
次回は13日予定です。




