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145話 素敵な出会い(真)

巨大火の玉をゆっくり(しぼ)まして消滅させたシリュウさんが私を見つめる。


「どういうつもりだ?」



良かった。あの火の玉が私に向かってこなくて…。

とりあえず、素直な気持ちを伝えてみるか。



「いやあ…、顧問さんに会う前に、人死にが起こったらマズいだろうな~…。と、愚考した次第です…。」

「まあ、視界から消えればそれで良いと言えば、良いが…。」

「アタシはぶっ殺しとくべきだと思うね。」


「あのバカ騎士が鬱陶(うっとう)しいのは、私も大賛成ですけども。

流石にあんな些細なことで、貴族を殺しちゃうのはこちらの立場が(あや)うくなるでしょう?」


「それはどうでもいい。」

「こいつはギルドの最高戦力様だ。こっちと向こうの魔力の多寡(たか)が分からん様な奴、処刑されても文句は言えないよ。」

「こっちの立場が、国の貴族よりも上なんですか??いくらなんでもそれは…。」


特級冒険者だからって、理不尽な私刑(しけい)(まか)り通るかなぁ??



「貴族なんて魔力が有って()()()だ。ならシリュウが一番偉いに決まってんだろ。」ケッ

「偉いかどうかも、どうでもいい…。(完全に(うら)んでやがるな…。)」


私怨(しえん)増し増しダリアさんだな…。亜人扱いされたんだから、それも仕方ない(さもありなん)だけど。



「あんな奴、また馬鹿なことをやらかすとは俺も思うが。」

「まあ、その時は全力で潰すことにしましょう?

今回のことで手出しが危険だと学習してくれると良いんですけどね…。」

「…、(追いかけてまで潰す手間が()しいね。)…、今回だけだよ。」


「ええ。もちろん。

もしも潰すことになったら、私も〈呪怨(のろい)〉使うんで声かけてください。」


「…、何言ってんだい…?」

「わざわざ助けたのに呪うのか??」


「ええ。助けたのはこの後の話し合いに影響しない様に、ってだけですし。あんなバカ貴族とか愚かさ(それ)だけで雑に条件を満たし(のろえ)ます。

ほら?死んで楽になるより、生きたまま魔法が使えない体になる方が苦しむでしょう? ()()なら。」


「…、それもそうだね。期待してるよ。」ふんふん…

「(それを肯定するのは流石にどうなんだ…?)」


ダリアさんが女騎士の無様(ぶざま)を想像して多少機嫌が良くなり、シリュウさんがそれを呆れた顔で見ている。

この後の話し合いが決裂でもして、町に入らないってことになるのもアリだけど。



「あのバカ女騎士に、最低限の知性が有ることを祈るばかりですね~。」

「…。(なんでこいつらの方が、俺より危険なことを言ってんだ…。)」頭が痛い…





──────────





女騎士達を追い返し──違う。職務に戻る様に誘導してから数十分後。


町の方から新たな何かがやってきた。

女騎士が仲間を(ひき)いてリベンジに来たとかでは無さそう。(おそ)らく。


こちらに向かってきているのは、1台の馬車…だと思う。

前を走る馬…?っぽい生き物がかなり変わっているせいで、ちょっと確信が持てない。

明るい橙色(オレンジ)と濃い緑色(グリーン)の塊が、2頭立てで木製っぽい車を引いているみたい?

ちょっとクリスマスカラーに近い。



「イーサンだな。」

「ああ。間違いないね。」


「なんか、随分と目に鮮やかと言うか、派手好きなんですね?」


「ああ。あのギルド馬車を引いてるのは「パナ」だよ。ヘヤヘアに似てるけど色とりどりな毛を持ってんだ。魔力も多くて大人しいから、ヒゲジジイが大陸中央から連れてきてんのさ。」



ってことは、馬車(あれ)山羊車(やぎしゃ)とでも言うべき乗り物か…。やぎぐるま、の方がらしいかな…??



そんなどうでもいいことを考えているうちに、山羊馬車は私達の近くまで来て()まった。


うん。山羊と言うより羊だな。角があるのに、毛がモコモコ。良い毛糸が作れそうな気がする。色味のせいで、バカデカいぬいぐるみチックだが確実に生き物だ。


御者(ぎょしゃ)が台から降りて車体の横に回りこみ、中の人が出てこれる様に手早く準備を整えはじめた。




──────────




馬車から降りてきたのは5人ほど。御者も合わせれば6人乗っていたらしい。

そんなに大きくなさそうな車体なのに、どうしてその人数で乗り込んでいたのか…。中、ぎゅうぎゅうじゃない?


身の回りの世話をするらしい女性2人、秘書みたいな男性2人、そして最後に降りてきた、かなり背が低い人物が1人。



その低身長な人が、1人で、こちらに歩みよって来る。


背丈はシリュウさんと大差無さそう。顔を、明るい赤茶けたモジャモジャ髪と(ひげ)が覆っている。体の横幅もかなりがっしりしていて、着てる服も上等そう。

多分、この人が──



顧問さんらしき人物が私達の目の前までやってきた。


シリュウさんと互いに目を合わせ、(うなず)きあう。



──すると、シリュウさんが斜め後ろ、私の方に下がった。


顧問さんはシリュウさんが退()いた空間を通って、ダリアさんの前に立つ。

そして、ダリアさんの手をそっと両手で取り、自分の顔の前で握りしめた。



良く(よう)生きとった…!良く(よう)戻った…。」

「…、…、心配かけたよ…。」


顧問さんが半分涙声でそう口にし、ダリアさんはむず(がゆ)い様な表情で応えている。



うん。なんか良い人そうだ。ダリアさんを深く心配していたことが(さっ)せられる。

ダリアさんはもう夫婦ではないとか言っていたけど、親愛の情がしっかりあるらしい。



「やっぱり家族、って、感じですね。」

「…。ああ。そうだな。」



そのまましばらく、2人を見守るのだった。


次回は10日予定です。

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