144話 素敵な出会い
ようやく目的の町に着いた私達の前に、頭の悪そうな集団が現れた。
「妙な魔力を垂れ流しおって!!不遜だぞ!」
なんか…、漫画で見る様な、典型的高慢貴族だな…。
新たな町に着いて特権階級と揉める…。これぞ異世界転生物の醍醐味っすね…。(棒読み)
「アタシ達に敵対の意図は無い!ギルド所属の冒険し──」
「無礼な!!下賤な身で口答えしないでちょうだい!!」
ダリアさんが緩衝役を買ってでてくれたが、更なるバカ女騎士の発言で遮られる。
賤しい身分って意味合いだよね…。エルフを見下してるのか…?
それとも冒険者を低賃金の労働者と見なすタイプか…?
ともかく、完全に上から目線のバカ貴族だ。
「町には入らないよ!ここで人と落ち合う──」
「口を開くんじゃありません!」
「亜人ごときが何様のつもりだ!」
ダリアさんはスンッと真顔になって黙った。
当然だわ。
「お止めください、ローリカーナ様。こちらの方は恐らく──」
「うるさいぞ、ナーヤ!」
「立場を弁えなさいな!」
「で、ですが──」
女騎士達の後方に居た、短い茶髪の女性が苦言を呈するが聞き入れられない。
この人だけ装備が違う。他の騎士みたいな頭を覆う兜や全身鎧ではなく、最小限の装備で身軽な感じ。おかげで顔がよく分かる。
お付きの侍女…いや、斥候職…かな?
必死な様子で蛮行を止めようと奮闘するも、バカ2人と追随する周りの勢いは止まらない。声とかからして全員女騎士みたいだな…。
その様子を白けた目で見ていたシリュウさんが軽く手を上げてダリアさんに合図し、代わりに口を開いた。
「失せろ。」
わあお…。ど真ん中、火の玉ストレート…!?
貴族相手に一切媚びない…!痺れるぅ~!!(泣)
「ハッ!!生意気な子供ですこと!」
「我々は名誉ある魔猪討伐騎士だ。この町に来る愚かな民どもを統率する義務がある!
お前達の様に立場を理解しない者どもをな!!」
どこに名誉が在ると言うのか…。
愚かとか、立場が分かってないとか、むしろバカ達のことでは…?
「だが、大人しくこちらに従うなら殺処分は許してやろう!代わりに我らの魔力奴隷になり、奉仕する権利をくれてやる!」
「良い考えですわね!ローリカーナ様!」
奴隷発言いただきました…。そして、「権利をやる。」とか…。
もう典型的過ぎて化石か何かだな…。どう処理し──
シリュウさんが右手をだらりと前に出した。
間を置かずに指先に3つの火の玉が現れる。
そのまま手を軽く払う様な動作をすると、火の玉達は緩い速度で山なりに飛ぶ。
高魔力持ちバカに威嚇するならもっとキツい魔法──
いや!貴族だから楯突いたらマズくねぇ!?
女騎士達は舐めくさって、その場でへらへら笑っている。
あ。斥候職っぽい茶髪さんだけ全力逃そ──
ドゴオォォン!! ドゴオォォン!! ドゴオォォン!!
「ウぎゃあ!!」
「何!?」
「「「ひぃ!?」」」
真っ赤な巨大火柱が3本、出現しました☆
女騎士達の阿鼻叫喚が聞こえる。
「出現しました☆……じゃねぇよ!?
シリュウさああん!?
何エグい魔法撃ってんですかぁ!?」
「威嚇だ。」
「威嚇の域を超えてますってぇ…!!?」
火柱はたちまち消え去り、向こう側にバカ女達が見えた。無傷ではあるみたい。
火の玉は手前に着弾させていた様だ。
確かに当ててなければ、威嚇行為ではあるけども…。
「コッ…!コのっ!!無礼者めが!!?我らにこの様な──」
ゴオオオオオ…!!
恐怖で声を裏返しながら、なおも高圧的な態度をとろうとしたバカの声が途中で止まった。
更なる異常事態を目撃したからだ。
シリュウさんの、頭上に掲げた手の、先に。
ミニ太陽が出現しました☆
女騎士達が蒼白な顔──炎に照らせれてるから色は正直分からないが間違いない──でこちらを見つめる。
わあ~~、おっきい火の玉だぁ~~。視界を覆い尽くす炎の塊とか、規模すご~~。
わたし、ワ○ピースでこんなシーンを見た気がする~~☆
側に居るのに何故か全然熱くないよぉ??あれれ~~??
「…シ、シリュウさん…?」
「次は当てる。
──とっとと失せろ。」
シリュウさんが静かに呟く。
あ。これ、本気なやつだ。
横目に見れば、ダリアさんも黙ったまま静観の構え。
さ、流石に不味いよね…?
まだギルドの顧問さんと会ってすらいない時に、その町の貴族を焼き殺すとか。いくらバカどもの自業自得とはいえ。
女騎士を見ると、未だ硬直したままだ。口の軽さは何処へ行ったのか、完全に沈黙してしまっている。
周りの奴らも無様に尻餅をついたままだったり、恐怖で震えていたりして使い物にならなさそう。
プライドだけ高い貴族だろうから、死んでもこちらの意見を聞かないかもしれない…。このままだと…。
…。
穏便に、済ませるには──
鉄メガホンを形成。握りこんで、口に当てる。
「放火犯の捜索!!ご苦労様です!!」
炎の轟音に負けない様に、身体強化まで使った全力の大声でバカどもに話かける。
「あ?」
「…な…??」
シリュウさんと女騎士が揃って変な顔を私に向けてくる。
そのまま良い感じに話を聞いていてください。
「見ての通り!!私達は高ランクの冒険者パーティーです!!
あなた方が行っている犯人捜しには関係ございません!!」
「テイラ?」
「なに…?」
「はんにん…?」
「日夜、要塞都市マボアを守る貴族の皆様のおかげで、我々は生活できております!!本当に感謝の言葉しかありません!!」
「あ…?」
「そう、ね…?」
あんたらはその貴族に含まれてないけども。
「きっと今回も火属性の魔法を使う、凶悪な犯罪者を探していらっしゃる途中に違いません!!
ですが!!私達は冒険者ギルドに身分が保証されていますので犯人足りえません!!」
「は、犯人? たりえ、ない??」
「ええ!!人違いです!!」
「!! そ、そうか!!人違いか!」
やっと私の意図が通じたかな?
「ええ!!そうです!!」
「なら、仕方ないな!?」
「しか、仕方!ありませんわね!?」
「ええ!!ええ!!仕方ないですとも!!」
「で!では!我々はこれで失礼する!!捜査協力、感謝する!!」あせあせ!
「しますわ!!」あせあせ!
「これも!冒険者の務めですとも!!皆様の行く先を“火の明かりが照らしますように”!!」
「ああ!“火の導きがあらんことを”!!」あせあせ!
適当に貴族の挨拶っぽい言葉を言ってみたが、通じたらしい。
本来なら魔法の4属性を相手との関係や季節に合わせて使い分けるはずだが、まあいいだろう。
私が設定してあげた「逃げ道」を使って、女騎士達は脱兎の如く退散していった。
人死には、回避できたな。
ゴオオォォ!!
じとーっ…
さあて、ここからはメインフェイズ2…。
巨大火の玉とジト目の対処、開始…。
デュ○ルスタンバイ…!(汗)
次回は7日予定です。




