143話 ついに町へ
山地を進むこと数日、草原に抜けて爆走すること更に十数日。
ひたすら砂麦を集めまくったり、魔物の肉を調理したり、具だくさんのスープを大量にストックしたり、鉄を追加して娯楽になりそうな物を増産したり。
鉄芝居・鉄人形劇を披露して呆れられたり。
機織りした布を、ダリアさんの破れた服に縫い合わせてパンク風の改造を施したり。
そんな変わった日々を過ごす中。
気温が幾分下がって、秋っぽい雰囲気になりはじめた頃。
ついに──
──────────
「でっ……かい…。」
私達は、要塞都市マボアに辿りついた。
今はまだ町の外の草原。人力車に揺られながら遠くに見える光景を眺める。
私の強化した視力には、相当な規模の外壁?が映っていた。
座席からだとよく見えるね。
黒に近い茶色の城壁?がかなりの長さに広がっている。
壁かどうか自信が持てないのは、創作物でよく見る城とか要塞の姿からはおかしな感じになっている為だ。
外壁全体に巨大な木目が有る気がするし、所々にある尖塔らしき建物に緑の葉っぱが生い茂っている──いや、あれは建物そのものが巨木なのか??とにかくそんな感じ。
根を張って生きてる木と木の間に、木板を嵌め込んでいった様な…。説明はできるが、巨大な町の外壁としては謎過ぎる構造。要塞と聞いていたからてっきり石造りなのだと思い込んでいた。
木に擬態させた石壁??
蔦が絡まりまくってる??
森の木をくり貫いて町が出来てる??
単なるデザイン??
…何なんだろうね?
──────────
「こんなに離れた所で大丈夫なんですか?」
「ああ。十分伝わる。」
道中の細々した打ち合わせの時に確認したが、私達の目的はこの町の冒険者ギルドに居るちょっとしたお偉いさんに会うことだ。
その人物はシリュウさんの昔馴染みの、イーサンさん。
「さん」が被って言いづらいな。マボア冒険者ギルドの外部顧問?みたいな役職に就いているそうなので、「顧問さん」って呼ぶのが良いかも?
この人はダリアさんの夫で、土のエルフ。ダリアさんより年下だそうだが、年老いた土エルフみたいな顔をしているとかで「髭ジジイ」と呼んでいるそうな。
ともすれば悪口になりそうな渾名で呼ぶなんて仲良いですね、と言ったら「娘も大人になってるから夫婦なんてとっくに終わってるよ。」とのこと。
どうなんだろうね?
普通の人間よりも長生きするエルフだからこそ、不思議な付き合い方をしている可能性もあるっぽい?
会った時に余裕があれば観察してみるか。大陸で出会う初のエルフ夫婦になるのだし。興味ある。
まあ、その話は置いておいて。
とりあえず、この顧問さんに会って呪い女の相談をすることが最終的な目標だ。
シリュウさんは私を特級冒険者にしたい・パーティー仲間にしたいと考えている。私とギルドとを結ぶ架け橋として顧問さんに協力を願い出るつもりなのだ。
まあ、私としてはそんな大層なものに自分が成れるとも思ってないし、冒険者ギルドとはあんまり関係を深めたいとも思っていない。
けれど、シリュウさんのパーティーに入って飯炊き女してる現状は存外、肌に合っている。独りで放浪をするのも限界はあるし、〈呪怨〉持ちの私でも受け入れてくれる場所が在るなら…、と期待はしてしまう。
こう…、保護観察って名目でシリュウさんの側で手仕事をする…、みたいな。
とりあえず顧問さんに会うだけ会って、話をしてみようとは思う。
独りで考え込んでも、思考が堂々巡りになって単に苦しいだけだし。
ダメだったら全力で逃げればいいさ。なんなら〈呪怨〉全開で。
ともかくこうして町から離れた所で待機していれば、何かしら人を寄越してくれる手筈になっているらしい。普段は抑えてるシリュウさんの異常魔力を軽く緩めて、到着の先触れ代わりにしているそうな。
ウカイさんにも間接的な連絡は頼んであるし、ダリアさんを制圧した後に来た冒険者達にも言伝てを渡してある。
シリュウさんがここにたどり着くのは向こうも承知のはずなので、出迎える気があるなら魔力を感知できる体制をちゃんと整えているだろう。とのこと。
そう言えば…
「結局、ウカイさん、来ませんでしたね…?」
「…。まあ、何か有ったのかもな。」
「…〈呪怨〉の魔の手…的な?」
「十分に警戒したあいつなら早々やられることはない。単に仕事か何かだろう。」
「シリュウさんに食材とか調味料を持ってくる事より重要な…?」
「…。あいつも特級だしな。色々面倒事を押しつけたし、大目に見るつもりだ。
──くだらん理由だったら潰すが。」
「今更遅いけど、頑張れ。ウカイさん…。」
「テイラは自分の心配をしときな…。」
交渉が決裂した時に素早く逃げられる様に、出したままの人力車の側で待つこと、10分程。
町の方から集団がこちらにやってきた。
「迎えが来たみたいですね。」
「…。いや…。」
「これは面倒事だね…。」
視力を再度強化して、集団を観察する。
歩いている集団は…十数人くらいの…、騎士??
鎧や剣が入っているらしき鞘を装備している。鎧の色味から察するに魔法銀が混ぜてあるらしく、形も装飾が付けてあって上品な様な印象を受ける。
これは冒険者じゃない。武装した貴族だ。
「…たまたまこっちに移動しているだけで、無関係かも──」
「真っ直ぐこっちに来てるよ。」
「普通に冒険者として対応する。いいな?」
シリュウさんはまだ逃走や迎撃の意思は無いみたい。
まさか討伐隊だったりしないよね…。〈呪怨〉の…。
「安心しな。大した魔力量じゃない。こっちがやられることは無いよ。」
安心できない台詞です、それ…。
みるみる内に騎士集団は私達の近くにやってきた。
先頭に立っている騎士が、口を──
「怪しい奴め!なんだお前らは!」
なんだか頭の悪そうな女の声が、私の耳に届いた。
やっと町に来れました。
きっと素敵な出会いが待っているに違いない。
次回は4日予定です。




