142話 スナムギと圧力鍋
捏ねり捏ねり… グニグニ…
極小風魔石を捏ねて混ぜた魔獣鉄を、小規模の突風を引き起こす刻印に配置して…、
棍棒本体と接続──
「風の噴出点を増設だ!
もっと速く!より鋭く!」
横から無茶な注文が飛んでくる。
現在、ダリアさんの棍棒を修復中。
棍棒が直る見込みが立ったのでダリアさんの機嫌は一気に良くなり、棍棒の更なる魔改造を推し進めようとしている。
移動の際に泣く泣く預けていたらしい、シリュウさん人形が無事に返ってきた喜びもあるのかも知れない。
シリュウさんはもう受け入れているみたいで、気にせず手渡していたからずっと預けても良いと思うのだが。
そう言えば、棍棒は壊れたのに人力車はまるで壊れてなかったなぁ…?
話を聞く限り相当無茶をしたはずだが…。怪我人に配慮したにしても、悪路を走って鉄タイヤが割れるくらいしても良さそうなものだが…。
そもそも錆びてすらいないよね??
「棍棒が壊れたのは鉄と魔石の相性??
角兎の火・土とダリアさんの風が馴染まないから??属性が合ってるから人力車は破損してない?それにしては──」ぶつぶつ…
「なんなら、普段から空中に浮かせるぐらいが良いね!」
先に面倒事を片付ける必要があるな。
「もういっそのこと。
空飛ぶサーフボードみたいなのを別に作った方が早くないです?」
「あん?」
サーフボードが通じないか。
「だから…、こんな風に。」
バーニア付きサーフボードに乗り、棍棒を振り回しながら、空を往くダリアさん人形(全身黒色)を作って解説する。
人形の背中に差したスタンド棒で、ちゃんと空中に浮かしている様に見せるのも抜かりない。
イメージしたのはエ○レカセブン的なやつ。
「いきなりアタシの似姿を作るんじゃないよ!!?」
「頭の中の映像を送ったりできないんですから、こうした方が早いでしょう?」
魔力がある人同士なら映像を送受信するみたいなことも可能らしいが、私はできないし。
レイヤなら闇属性の精神魔法で、私の頭の中を覗くことはできたけど。あれは超絶に特殊だろうしねぇ。
「普段は直接乗って移動に使い、ダリアさんが歩く時なんかは横に浮かせて棍棒とか荷物を運ぶ。って形ならどうでしょう?」
「…、短い距離ならともかく。長期間は魔力が持たないね。」
「町から町への移動くらいなら──」
「アタシは風エルフとしても半人前だ。あんたが比較してるのは氏族様だろう。」
確かにレイヤみたいにはいかないか。
「それに、そんな空飛ぶ板、どうやって作るんだい?アタシの髪の残りもそんな量は無いだろう。」
「…ですね…。
──じゃあ、ダリアさんの棍棒改造案も無理ですね!!」
「…、それは残りの極小魔石で…なんか出来るだろ。」
「なんか、って何ですか…。」
「なんかはなんかだよ。あんたなら出来るさ…。」
自分の無茶は押し通そうとしてくるな…。若干めんどくさい。
──────────
ああ、やっとシリュウさんが帰ってきた!
「何か見つかりました?」
「旨い魔物は居なかった。だが、これを見つけてな…。」
シリュウさんが黒い革袋からごそごそと取り出したのは…
猫じゃらしチックな見た目の穂!
「これは、スナムギ!」
「いつだったか、よく食べてたって言ってたのを思い出してな。実をつけてるのは全部採ってきた。
…調理できるか?」
「任せてください!!」
「…、(食う物無い奴が無理矢理口にするやつだろ…。大丈夫か??)」
──────────
スナムギとは、そのまま砂麦と書く。字の如く砂の様な麦だ。一応食用ではある。
だが、その実を覆う殻は相当に硬く、小石なのではないかと感じるレベル。なんとか殻を砕いて中の実を取り出しても、可食部分もそこそこ硬くその上小さい。
要するに、得られる物がほとんど無いのだ。
そんなものをどう調理するのかと言うと──
「遮蔽物設置、及びその陰への避難完了!加熱作業、開始します!!」
鉄ヘルメットを被った私が、しげしげと見つめるシリュウさん、その隣でげんなりしているダリアさんに声をかける。
少し離れた位置には黒い岩の如き威容の、金属塊が鎮座している。
これは私が鉄を形成して作った分厚い鍋釜だ。
そう、スナムギの調理方法とは!圧力鍋である!!
硬い実も何のその!高圧力の前に屈するがいい!
これが〈呪怨〉の力だぁ!!(「違う!未来を切り開く力だ!」)
頭の中でガ○ダムの台詞が響く程の謎テンションで、釜の下に火を突き入れて加熱を開始した。
仕組みは簡単。
厚みが5センチくらいある鉄の鍋に、頑張って脱穀し洗っておいた砂麦と水を入れた後、これまた分厚い鉄の蓋を融合接着。蓋に空けてある細い縦穴を塞ぐ様に、鉄の重しを蝶番で固定したら準備完了。
スライド式にしたかまどの火を出し入れすることで、点火・温度調整・消火を疑似的に行う。鍋が重過ぎて移動できないから、これがまだ楽なんだ。
半分密閉された鍋の中で、逃げ場を失った水蒸気により内部の圧力が高まる。その高圧力により水の沸点が上昇、つまり100℃以上でも沸騰せずに加熱し続けることが可能になる。高温・高圧力により食材に効率良く熱を通すのが圧力鍋の真骨頂だ。
あまりに過剰に高い圧力になった場合は、蓋に有る穴から重しを押し退けて水蒸気が出ていく。
久しぶりにやったけど、冒険者時代に結構数はこなしてるからそうおかしなことにはならないはず。
炊きあがるまでの時間、そんな解説をシリュウさんにしながら避難場所で待機する。(ダリアさんは途中で離脱した。今は棍棒の素振りをしている。)
金属を直接、成形・接合できるが故の荒業だからね。ちゃんとした圧力鍋に比べたら破損・爆発する危険は常にある。用心はせねばなるまい。
「蓋の上の重しがガタガタと浮き上がり始めたら、加熱フェイズ終了です!そしたら焚き火を引き離して、蒸らしていきます!
火加減が大事なのでシリュウさんにもご協力お願いします!」
「…。ああ。(…加熱…「ふぇいず」…?「時間」くらいの意味合いか?)」
──────────
では!炊きあがった砂麦飯の実食といきますか!
見た目は薄茶色の粒々。大き目の砂の集まりっぽいと言えばぽい。
だが表面はしっとりとしており、美味しそうな湯気もたっている。
お箸でつまみ上げて──ぱくり
もぐもぐ…
「ちょ~っと水分多かったかな~?
でも、うん。そこそこ美味しい…。」もぐもぐ…
お米のもちもち感はないが、ぷちぷちに近いむにむに感は有るので、噛めば程々に甘い。慣れ親しんだご飯の味だ。
スプーンを構えたシリュウさんも後に続く。
もぐもぐ…
「普通に。麦飯になってるな…。むしろ小麦のやつより美味いか…?」
「硬い殻で守ってるくらいですからね~。栄養満点なのかもですね~。」
私達が食べるのを見てから口にしたダリアさんは、片手で顔を覆ってしまった。感じからすると味が微妙だったかな?
別に強制する気はないので自由に食べてください。
「量を集めるのは難しいな…。」もぐもぐ…
「栽培されてる小麦とかと違って、砂麦は野生種ですもんね。穂の上から順に花を咲かして実をつける。同じ環境でも育つ速度はバラバラ。
たくさん生えてても1度に少量しか採れませんもんね~。」
過酷な野生の中で、1度に種が全滅しない為の工夫なんだろうけど。
「まあ、大概の時季に探せば一定量収穫できる、って利点ではありますね。」
「この山の中でガンガン集めるか。」
「…、(それ、アタシが先ず見つけるのか…?)」
白米ではないが、美味しい主食が手に入った。次は、美味しい主菜と合わせて食べたいね~。
果たして、こんなので圧力鍋の機能が再現できるのだろうか…?
次回は3月1日予定です。
そろそろ話を次の段階に持っていけたら良いな…。




