141話 帰還と救助要請の方法
鉄芝居と鉄人形劇を完成させた日の夜、シリュウさんとダリアさんが帰ってきた。
「お帰りなさい。お疲れ様です!」
「ああ…。疲れたよ…。」
ダリアさんが珍しく弱々しい雰囲気。
何か良くないことが有ったのだろうか?
「もしかして、怪我した方、助からなかったんです…?」
「いや、全員生きてるよ…。」ぐったり…
それにしてはえらく暗いけど──
「…。無事みたいだな…。」
シリュウさんが私を見て呟く。
「ええ。こちらは問題有りませんでしたよ。暇過ぎてやることなかったくらいですね。魔法の毛糸、もっと貰っておけば良かったです。」
「…。」はあ~…
ん?なんか白けた顔をしてる…?
「えっと…、不謹慎な発言でした…?」
「違う。…。」
「…?」
「…。〈呪怨〉。発動してただろう。今日の昼前。
何事か有ったのか心配してただけだ…。」
「…え?いや、鉄をちょっと増やそうと軽く発動はしましたけど──え゛っ?そんなおかしな気配が駄々漏れてました!?」
「それなりにな。大して強くもないからいつもの工作だろうとは思ったんだが。」
「まさかあんなちょっとが、そんな離れた所にまで及んでいたとは…!?」
なんてことだ…。
今までも周りに変な圧力を放っていたのか??
「あ!?もしかしてダリアさんが弱ってるのも、私の呪いの気配を感じとってのこと!?」
「なんでそうなる。こいつは単に疲れてるだけだ。」
「アタシにはそもそも気配なんか、分かんないよ…。」
「…あれ?出会った時に「気色悪い気配してる。」って言われた様な…??」
「あの時は呪具が有ったから…。
そんなことより休ませてくれ…。」
その後、鉄の家を設置するや否や、ダリアさんは鉄の寝台に横になって早々に寝てしまった。
そう言えばダリアさん、竜骨の棍棒を背負ってない…??
人力車を出して家の外に置いたシリュウさんに、話を聞く。
「俺の黒袋の中だ。あいつの方は疲れてるだけだ。」
「そうなんですか…?」
「ああ。ただ、あの武器が少し壊れてな。落ち込んでるんだろう。」
なんでも、相当頑張ってくれたらしい。
助けた冒険者は男4人組で全員怪我をしていたそう。
彼らは手持ちの中級ポーションを重症な2人に応急的に使用したものの、危険な状態から脱するには足りず。魔物を仕留めていたダリアさんに助けを求めたのが今回の始まり。
シリュウさんが重症人を乗せて爆走した訳だが、
なんとダリアさんも軽症な2人を両肩に担いで一緒に走ったと言う。
いや、明らかにおかしいでしょう。その身体能力…。
シリュウさんも「そいつらと残って、後から来い!」とは伝えたらしいが、「あんただけじゃ心配だ!」って言って聞き入れずに付いてきたそう。
さらに道中、出会す魔物をダリアさんは棍棒で仕留めつづけたらしい。魔法で浮遊させて。
両腕が塞がってるから握れないのは分かるけど…、だったら風とか砂の攻撃魔法で対処すれば良いのに…。
「棍棒の風の噴出点から、滅茶苦茶に突風を出しててな。あの重量の塊が飛来する光景はなかなかだったぞ…。」
シリュウさんが割りと呆れている…。
まあ、その甲斐あって魔物が彷徨くエリアを素早く抜け出せ、街道を走る馬車の一団に怪我人全員を預けることができたらしい。その馬車はギルドの商品を運んでおり、ポーションを緊急使用させてくれたので危機を脱して助かったそうな。ダリアさんが交渉を買って出たので、面倒なやり取りをスムーズに終わらせることができたから有り難いことではあった、と。
そんな無茶な移動の代償が棍棒の破損だった訳か。納得。
飛行操作しづらくなった棍棒はシリュウさんが黒の革袋に回収しているらしい。
そして2人で戻る最中にシリュウさんが私の〈呪怨〉が発動したことを感知し、多少急いで帰還することになった様だ。
「それはご迷惑かけました…。」
「ダリアが自分で決めて選んだ結果だからそこは気にするな。明日にでも棍棒の傷んだ部分を修復してやれば機嫌も直る。」
「それはもう…。
あの、シリュウさん。私の〈呪怨〉のことを相談しておきたいのですが。」
「いや。俺も少し神経質になってた。悪い。」
「いえいえ、気持ちの良いものではないでしょうから。」
シリュウさんが複雑そうな顔で何事か言おうとしている。
「あの!ルールを決めておきたいのですが!」
「…。あ…?…ルール…?」
「はい。今後余計な心配をかけない様に…、発動の仕方をいくつかのパターンに分けるとか…。そんな決まり事を。」
「…。(…?)」
「例えば…、鉄を補充する時は小さく何回も一定間隔で。私に危険が迫った時は強く1回、発動させる。
──みたいな?」
「…。なるほどな…?それなら…対応できる、か。」
「まあ、事情を知らない人には区別つかないでしょうし、単純になるべく発動しない方が良いのかもですけど…。」
「…。いや。テイラの案は悪くない。そもそも他の奴らには感知すらできんだろうから、俺が判断できれば大丈夫だな。」
「…感知されないんです…?他の方に…?」
「ああ。〈呪怨〉は、魔法とは別の感覚が必要だからな。」
「う~ん…?今までも鉄の生成時に騒ぎが起きたことはなかったですけど…。
なるべく人が居ない所でやってたしなぁ。」
そもそも、この能力が使える様になって3年も経ってないしねぇ…。人が少ない寂れた港町が大半で、後は放浪して1人の期間ばかりだし。
「シリュウさんは〈呪怨〉に鋭いんです?」
「…。まあな。」
あ。あんまり触れない方が良さげな表情。
「ともかく。呪いの発動させ方を決めよう。」
「了解です。とりあえず、普段のやり方をまず確認してもらいますね。」
その後、私が眠くなるまでシリュウさんと〈鉄血〉発動について色々と確認した。
理屈は本人にも分からないが、かなり正確に私の〈呪怨〉の起動を感じとれることが判明した。
例えば、
〈鉄血〉!みたいに1度に長く発動しても、
〈鉄血〉!!みたいに瞬間的に短く発動しても、
事前予告無しで両腕に、ダブル!〈鉄血〉!ってしても。
シリュウさんは全て言い当てた。
本人もちょっと驚いていたくらいだ。
「普通の〈呪怨〉ではここまでじゃなかったんだがな…??」
「近くで触れ過ぎましたかね??」
「分からんな…。」
「まあ、他の人に迷惑をかけないなら別に──
ハッ!?これ、モールス信号になる!?
シリュウさんに遠距離通信じみたことができるのでは!?」
「…。(またおかしなことを言いだしたな…。)」
あれだ、「トン」「ツー」の2種類の信号を組み合わせて文章を遠方に送る方法だ。
念話が使えない私にはかなり有用…!!
と、思ったのも、つかの間。
流石に50音全てを対応させて互いに覚えるのは無理があるので断念した。せめて「・」「─」の平仮名…、いや?イロハ文字…かな?への変換表を私が覚えていれば良かったのだが…。
とりあえず単なる鉄増やし、シリュウさんへの呼び出し、そして全力で敵を呪う、等々の場合に応じた発動パターンについては打ち合わせた。
「一方向でも遠距離通信っぽいことが可能になった!
これでピンチになってもシリュウさんにいつでも救助要請できますね!!」
「…。頭が痛くなりそうだな…。」
「なるべくそうならない様に頑張ります!」
「…。」ふぅ~…
ちなみに人力車はシリュウがかなり意識して保存したので、座席の毛皮が硬化してはおりません。
次回は26日予定です。




