140話 鉄芝居
鉄テントの中で1人、惰眠を貪った翌日。
外に置いた鏡でテント内に太陽熱を集中させ温め直したスープを、朝ご飯に頂いた。
晴れてて助かったね。最近、暑さはそう強いでもないが長い間放置できる料理ではない。まあ、痛む前にシリュウさんが帰ってくればまた保存はできるが、不確定だしね。無理しない程度にお腹に入れよう。
うむ。肉ダネ水餃子スープ、栄養価的にも完璧だな。
今日も今日とて、やることがないので引きこもり生活を続行中。
テントから出て食材を探すことは可能だけど、動物は解体できないし無意味だからと言い訳をしておく。
既に糸の束は使いきったから布も作れない。
もっと大量に貰っておけば良かったなぁ。数があれば暇も潰せたのに。
今居るのは、魔物も出てくる山地の中。迂闊に外を出歩けば危険に遭遇するだろう。私だけでもマボアに近づいておくのは選択肢として無くはないが、上手く合流する方法もないので博打が過ぎるな。相談も何もしてないし。
やはりここに留まるのが正解だな~。
とは言え、ただただ寝てるのもなぁ。
こんな時は、私が今持っている物を確認してみよう。
「冒険者時代から使っているポーチ…。中身はほとんど空…。革の袋を改造したリュックサック…。その中に入れてある魔法銀の箱…。空っぽの、上級ポーションの容器…。糸の束を巻きつけてた木の棒3つ…。失敗作の布もどきと、完成した中途半端な大きさの布…。あと、服…。」
見事に何もないな。
ほとんどの物をシリュウさんに預けてる弊害だね。
完成した布は服を作る程の量はないからどうしようもない。
作れそうなのは…小さなぬいぐるみとか?いや綿が無いから…。平面的な物…。手ぬぐいとかハンカチもどきなんか有ってもなぁ。
歌詞をメモした鉄板は腕輪の中にあるけど…、将棋も鉄トランプもここには無いし…。
「こんな時は原点に立ち返って、鉄細工でも弄るとしますか。
まずは鉄、増やそう。」
鉄輪の内側に針を形成して、腕に軽く刺して、
──〈鉄血〉発動、と。
ご飯は満ち足りてるし、たんぱく質も十分に摂取できている。そこそこ消費しても大丈夫だろう。
お水はごくごく飲んでるから、血液の水分も問題無いだろうし。
「さてはて。何を作るかな~?」
メモを確認していくか。
…。
娯楽、としてはアリかぁ?
まあ、とりあえずで、やってみるか。
──────────
コッ コッ カリカリ…
鉄板に溝を、刻み刻み…。
この場面の構図は…
手に持てる様に縁は丸くして…
今作っているのは紙芝居だ。
いや、オール鉄製だから「鉄芝居」??
う~ん、名前は保留しよう。
そもそも色を付けれないからどのみち完成しないし。
とりあえず作成しているのは定番中の定番、「桃太郎」と「かぐや姫」のお話。
これなら著作権もへったくれもないから気兼ねなく人に話せるし、完全にストーリーが頭にあるから作りやすい。
そもそも「かぐや姫」──じゃない。「竹取物語」は原作者の名前すら無いんだったか?確か民草に語られる物語を聞き取りして、日本書紀?に編纂したのが始まり?だったか?
ともかく、異世界の人に紹介しても何も問題はないだろう!
…。
「竹」はこの大陸にも割りと有るっぽいけど…。
「桃」って存在してたっけ…??
橙色の「橙」は存在してる。意味不明なことに名前まで一緒。見た目や味も聞く限り、オレンジ色の柑橘類だ。
なんでもロッテギラ山脈に生えている高魔力の果実らしく、周辺国の上位層が口にできる貴重な物らしい。庶民憧れの甘味で──
いや、橙はいい。今は桃の事だ。
う~ん…。どうするか…。
でも“桃から生まれた桃太郎”なんだし、こっちに似た果物が存在しても一々名前を変えるの面倒だな…。“橙から生まれた橙太郎”とか言いづらいにも程がある。
桃が伝わらないでも、なんかすっげぇ果物ってことで良いか。
そもそも原典的には、仙人の食べ物たる「桃」を食べたおじいさんとおばあさんが若返って新婚みたいにイチャイチャした結果、子どもが生まれた。って話だったはずだし。うん。ト○ビアの泉で言ってたよな。他でも聞いた覚えもあるし。まあ、確かめ様もないが。
あと…、猿と犬はともかく、雉って異世界には居たっけ??
面倒だし、いざとなったら蒼翼鷲でも仲間にさせとくか。鳥なら何でもいいだろうし。
犬も、魔物の狼とかに変えたら馴染みやすいか?…。
魔物の猿を知らないな…。
…。
無視して作るか!適当ゴーゴー!
かぐや姫が欲した宝物は…、
火鼠の唐衣、
燕の子安貝、
蓬莱の玉の枝…、
…。
あと、何だっけ?
…!?あれ!?
思い出せよ!私の頭!!
確か…!竜の宝珠みたいなのが有ったよね…!?名前…!?
そして5つ目は!?
落ちつけ…!
こう言う時は素数を数えて──る場合じゃない。物語を順番に思い出すんだ。そう。ジ○リでもアニメ映画になってただろう。大丈夫。いける。
燕の巣から糞を掴んで墜ちた人、居たよね。うん。
偽物の宝石付けただけの木の枝を持ってきた人、居たよね。うん。
燃えないはずの唐衣を燃やされた人、居たよね。うん。
確か…、嵐の中に船を出して…荒れ狂う空に龍神を見た人、居たな。居たよね??
龍神の宝珠…、違うな。龍の宝珠…?なんか語呂が違うな…。
あと、5人目の男は…??
…。
帝の顎、鋭かったよね。うんうん。
…関係ねぇわ!!
…。
もう宝物4つで物語描くかぁ。そのうち思い出すこともあらあな。
…。
そもそも…。
超絶、大前提の。肝心要の話…。
「月」がこの世界、通じないのでは…!?!?
月が無いじゃん!?衛星が無い世界でどうやって「月」を伝えるのか!?
かぐや姫が、物語として終わってるのでは!?
…。
もう、“神々に連れられて空の彼方に飛んでいきました…。完”
でいいか…。
適当ゴーゴー!(2回目)
──────────
カリカリ… カッ カッ
捏ねり捏ねり…
乗せ乗せ固定固定…
フッ。良い感じだ。
完成した布を切り貼りして、鉄芝居の絵に2色目を乗せる計画(思いつき)は上手くいったな。漫画で言うところの「トーン」的な扱いだね。
白味のある茶色だが、鉄の黒には良い対比。見やすさが段違い。
まあ、まさかこんなことに使うことになるとは思いもしなかったが…。
鉄で色々作れる能力があるんだから平面の絵じゃなくて、立体的な鉄フィギアとジオラマで、鉄人形劇とかやった方がウケるかなぁ??
こう…、鬼と桃太郎一行の戦闘シーンは人形劇の方が見映えが良い気はする。黒一色でもまだ立体物なら見やすいとも思うし。
両方作ってみて、実演してから意見を募る…、が正解だな。
…。
私はこんな場所で、いったい何を目指しているのか………。
マジ、謎い。
ちなみに4つ目は「龍の首の珠」、5つ目は「仏の御石の鉢」です。
千年以上昔の話が現代まで伝わっているってのも浪漫がありますね。
次回は23日予定です。




