137話 布と夜の移動
ねぇ、知ってる~?
布って、糸から出来てるんだよ~?
…。
いや、知ってるけども。
服の解れた所を引っ張ったら、糸に戻るのは経験あるけども。
現代日本でそうそう、糸から布作るとかやらんて…。
確かに糸は、布を作れる程に存在する。
だが、ちょっと無理がないかなぁ…。
「別にアタシは「やれ。」なんて言ってないよ。布が欲しけりゃ作れるって指摘しただけだ。服だってこのままでいいって言ってるだろ?」
「むぅ~ん…。」
保留にしよう。何かしら見通し立ててから取り組むべき案件だな。
とりあえずシリュウさんに糸の束を3つだけ貰って、私のリュックに入れておく。適当に時間見つけて色々弄ってみるか。
糸…、糸…。大量の毛糸…。糸車、糸紡ぎ、機織り…。
毛糸だから、マフラーとか手袋とか編めるよね。
かぎ針は私の鉄でいくらでも作れるけど、編み方覚えてねぇ…。この毛糸、普通に細いから編み物の毛糸とは異なるし…。
そもそもモコモコ防寒着が欲しいんじゃないんだよなぁ。
必要なのは通気性のいいシャツとかズボンなんだよなぁ。
むぅ~ん………。
──────────
悩みながら料理の下準備なんかをしているうちに、日が落ちた。
完全に暗くなってから徒歩でギルドロードに近づく。
シリュウさんの灯りの魔導具が足下を照らしてくれているが、私にはかなり辛い移動だ。前を歩く2人を頼りになんとか付いていく。
大きな道の上には誰も居ない。とても静かだ。
横に目をやると、僅かな灯りが見えた。その光に照らされて、ぼんやりと巨大歩道橋の輪郭らしき物が浮かんでいる。
橋の根本の町も起きてる人がほとんど居ない様子。市場みたいに人が集まるだけの所なのだろうか?
そこからさらに向こうに街灯の様な灯りが点在していて、遥か彼方の巨大な光源に続いている。魔導具の灯りか、篝火か。ともかく夜通し動き続ける大都市でもあるのだろう。
視線を上に向けると、灯りに慣れた目でも見えるくらいに煌々(こうこう)と、星々が輝いていた。
地球とはまるで違う配置で、色とりどりの星達が夜空いっぱいに敷き詰められていた。
異世界だなぁ。
でも。幻想的だ。
ギルドロードの上はめちゃくちゃ歩きやすかった。とんでもなくしっかりした平面。ここなら鉄自転車でギュンギュン飛ばせただろう。
…まあ、そんなの目立って仕方ないからやらないけど…。そもそもこの道沿いに目的地はないから無意味だけど。
無駄なことをちょっと考えている間に、硬い道を渡り終えて再び背の低い草が茂る地面に突入した。
しばらくそのまま歩き、離れた所にある木の陰に鉄の家を設置して、今日は就寝だ。
──────────
「ここからマボアまでアタシは走るよ。」
「なんだ突然。」
「いや、ヒゲジジイの所にテイラ連れてくんだろ?
ならとっとと町に入った方が良いだろうと思うんだ。」
「…。まあ、確かに。」
「町に入れば食い物も服もちゃんと手に入るだろ。魔法が使えない奴がこんな草原で悩むこたあねぇんだよ。」
「…俺もあいつも。マボアに入れると決まった訳じゃ無いが。」
「大丈夫だろ?ヒゲジジイがあんたを無下に扱う訳がない。」
「とは思いたいが、な。ギルド組織としてどう扱うかは未知だ。大して期待はしていない。」
「慎重だねぇ…。」
「集団ってのは、異物を嫌うからな。
──そんなことより早く動かせ。」
将棋の盤を挟んで話をしていた2人。
現在はダリアのターンだが、良い手が思いつかないのか会話で時間を稼いでいた。
「もうちょい待ちな!ここが肝心なんだよ!」
「待ち時間は時計で計るのが、本来の決まりごとらしいぞ。」
「ここに時計なんてねぇだろ!寝ないあんたに付き合ってやってんだから、いくらでも待て!」
「投了してとっとと寝たらどうだ?
明日は早いぞ?年寄り。」
「うるせぇ!ショウギではアタシが勝つんだよ!!」
「…。(面倒な奴…。)」
「…、ここだ!」カチッ!
「…。(面倒な手を…!)」
「へっへっへっへっ!」
こうして夜は更けていった。
──────────
まだ薄暗い中、起きて早々に活動開始だ。
ギルドロードを背に、人力車が出発する。人が集まる前に幹線道路から離れる算段だ。
今日は、ダリアさんは乗らずに走るらしい。
体力は回復しているだろうけど大丈夫なのかね…?
体格の良いダリアさんとその棍棒が無い分、人力車の速度は上がるかもだし、こちらは問題ないけれど。
シリュウさんと相談して決めたことなら、良いか。
「あんな棍棒担いでて…。なんでこんな速度で走れるのか…。」
結構な速度で走る人力車とほぼ並走している。
いや?この場合、シリュウさんの方がおかしいのか??
鉄の塊+私の体重を引っ張って草原を走っ──
「何言ってる。俺達の所に来た時と同じだろう。」
私の独り言をシリュウさんが拾ってくれた。
人力車を引きながら、頭だけ振り返って喋ってくれる。
「棍棒が呪具からドラゴンの骨に変わっても重さは大して変わらん。体力維持の為のポーションを飲んでない代わりに、飯を食べてるからなんとかなるだろ。」
「そんな問題なんですかね…。」
「あいつは普段、飯は食わないからな。」
そういう問題じゃないと思います…。
「ダリア!もっと西だ!」
「こっちの方が早ぇだろ!」
「街道に出るだろうが!山地を突っ切る!」
「その車で進めんのか!?」
「無理なら歩きだ!」
「道に出て突っ走れよ!!」
「その辺の馬鹿が騒ぐだろうが!!」
「めんどくせぇな!」
喧嘩する程、仲が良い…のかな?
次回は14日予定です。




