136話 焼き鳥と機織り
トカゲ肉のハンバーグはシリュウさんに任せて、私は蒼翼鷲の調理に移ろう。
普通に美味しいとの評判通り、良い味であった。臭みも別に気にならない。下味に胡椒をつけておけば大丈夫だろう。
旨味が部位毎に異なるから、むね肉、もも肉、手羽で分けて使いたいが…。
もも肉と言えば唐揚げ。これは問題なくいけるだろう。
手羽は煮込みに使うイメージ。
でも、煮込みにするには調味料がなぁ。板肉スープの具にするのが限界だな。
他に思いつくのは…フライドチキン?骨付きのやつ。
旨味たっぷりの衣が必要だけど…。香味野菜の粉末と塩胡椒では足りないよなぁ。今は卵も無いし…。
デカい鳥の手羽だから相当に大きいが、鍋やフライパンの大きさは自由自在なのでそこは問題ない。いっそ左右で別々に調理するか?
魔物の肉だし私の鉄で覆ってるから1日くらいは持つはず。後回しにするかな。
ふむ。むね肉はシンプルに焼き鳥でいくか。
鉄の串にむね肉のぶつ切りを刺して、その後で鉄操作で串の先端を丸くして、と。
こっちは太陽熱じゃなくて、炭火焼きが美味しいだろうな。
ん?炭じゃなくて薪だから、薪火焼きか??薪火って何?
まあ、いい。とにかく火でやんわり焼いていこう。
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もぐもぐ!もぐもぐ!
シリュウさんが出来上がった料理をどんどんと食べていく。
パンチの無いハンバーグもお気に召した様子。
私は唐揚げと焼き鳥を少しで十分だ。やっぱり熱の入りを見れるシリュウさんが作ると、より美味しく感じるな~。
「あんたの頭の中、どうなってんだい…。」
トカゲ肉ハンバーグを一口食べたダリアさんが、私の方を見て何か呟いている。
ちょっと日本の知識が詰まって…、いや詰まるほどは覚えてないな。謎アイデアが頭の片隅にあるだけで一般人の構造してるはずですよ~。
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「美味かった。」
「お粗末さまです。」
食事が終わってしばし休憩。雑談タイム。
ここからは日が暮れるまで待機だ。お腹が落ち着いたら料理を追加で作るかな。
「野菜があれば付け合わせとか色々できたんですけどね。買い物行きたかったなぁ。」
ねぎもどきがあればネギマになったし、にんにくもどきを入れればハンバーグにもパンチが出たはずだ。
「十分だと思うが。」
「アタシも別にこの格好で良いし。」
少しは気にしてくださいよ。
いくら旅の途中とは言えこの先、人と会うこと有るだろうに。
「野菜はともかく、服はなぁ…。せめて布があれば…そして、糸もあれば…なんとか縫えなくもないけど…。針だけ有っても無駄だなぁ…。」
他人と関わることが少ない放浪は気楽でいいけど、物が無さすぎて不便だよねぇ…。
「おい、シリュウ。あんたのマジバには入って無いのか?」
「いや、ダリアさん。有ったらシリュウさんもそう言ってますって。」
「その通りだ。魔物の革とか毛皮なら有るが、服に加工するか?」
シリュウさんが私の方を見て尋ねてきた。
「できなくもない…でしょうけど…。それなら今着てる服でまだ足りてる感じですね~。」
毛皮も縫えば、服…と言うか防具だな。
ゲームに登場する序盤装備みたいな物は作れるだろう。革の胸当てとか、毛皮の腰布とか。
だが、今必要なのは防御力ではなく、見た目と快適性だ。毛皮装備を直に着るとかファンタジーが過ぎるし。
「毛皮の服はこの夏にはちょっと…。できれば植物素材の綿とか虫由来の絹が助かりますかね。」
「割りとなんでも放り込んでるだろ。探せば案外あるんじゃないかい?」
「…。意識してないやつは、大抵劣化して駄目になってるが…。
まあ、もっと深く調べるか。」
シリュウさんが黒い革袋を掴んで瞑目した。
「…。(布…、布…。綿とか繊維…。)これか。」
出てきたのは手ぬぐいだ。人力車を引く時に濡らして首に掛けているやつ。
「駄目だな。綿はこれだけだ。」
そう呟くと、手ぬぐいを仕舞って再び瞑目した。
「…。(絹なんざ入れた覚えもないが…。やはり無いか。
動物素材は大量に…。革、皮──いや、毛織物なら…?
そんなもんあったか…?…。ん?これは。)」
「!?」
革袋が突然膨らんだ!?
大量の何かが詰まっているのかボコボコしている。
シリュウさんが袋の口に手を突っ込んで取り出したのは──
「糸…??」
糸がぐるぐると巻き付いた木の棒だった。
「有ったな…。」
「ほらね。
にしても大量だね。全部それと同じやつかい?」
「ああ…。」
シリュウさんが驚いている。本当に自分のマジックバッグの中、把握してないんだなぁ…。
糸は灰色に近い茶色だろうか。
手に乗るくらいの長さの棒に、たっぷりと巻きついている。これと同じのが膨らんだ袋いっぱいに有るの…??
「何の糸だい?」
「…。分からん…。」
「…、いつ、手に入れたんだい?」
「…。忘れた…。」
「まだ百年も生きてねぇだろ。呆けるには早いよ。」
「…。うるせぇ。」
年寄りマウントトークは他所でやりましょう。
「とりあえず。触ってもいいですか?」
「…。ああ。」
「ふん、ふん…。普通に糸っぽいですね。感触からすると、なんだろ…??」
ぶちぶち切れたり、けばけばに解れたりは特にしてなさそう。
手触りもなかなか良好。土属性の硬化もしてないみたいだ。
「魔獣の体毛だな。それは分かる。」
「ってことは──これ、魔法の毛糸か…!!」
なんだろ!なんかテンションが上がる響き…!
「…、もしかしたらこれ、ヘヤヘアじゃないか?」
同じ様に毛糸の束を触っていたダリアさんが何かに気付いたらしい。
「ヘヤヘア…?はて…?その字面、どこかで…??」
「ロッテギラ山脈に居る魔獣だよ。パナに似てる──大陸東部には居ないか。
角が2本生えた、毛の長い馬みたいなやつだ。」
角が2本で、山に居る哺乳類的なやつ…。
山羊かな?
…。
山羊の魔物…って…。
「襲いかかってきたドラゴンを蹴り殺して返り討ちにすると噂の…!?」
「原種はそうだね。家畜になったヘヤヘアは小さめで大人しいよ。蹴り殺せるのはせいぜい人くらいだ。」
「なんで、そんなヤバい魔物を家畜にできたんだ…。
いや、できてるのかそれ…??」
ロッテギラ山脈は、この大陸の最東部にある大山脈だ。
今居る国、コウジラフの東の果てであり、そこを越えた向こうはイラド地方と言う巨大半島へと繋がっている。
シリュウさんが嫌いなことでもお馴染みの半島だな。
この南北に長い大山脈は一般人が立ち入れない魔境領域で、強大な魔獣が複数種類居るらしい。筆頭がドラゴンだ。
コウジラフのドラゴンライダー達が召還する、分身体の大本達が生息しているとか。
他にもドラゴンと縄張り争いができる魔獣や、ドラゴンに補食されるだけで普通に強い魔獣に出会える危険な場所だ。
そんな草食魔獣の内の1種類が、山羊の魔物。
山羊よろしく、岩場を俊敏に飛び跳ねることで生き抜く生活をしている。その後ろ足から繰り出される蹴りはドラゴンの鱗や骨を破壊できるほどなのだとか。
親友が無謀なドラゴンライダーの為に、いつか行きたい場所として調べてたなぁ。
この山脈の南西に私達が冒険者してた国があるから、目指すべき場所最有力だった。その時に他の魔物についても頭に入れてたっけ。半分忘れてたけど。
まあ、何せ直に見たことないから、地球の山羊と勝手に関連付けて覚えただけだしね。
「まあ、ドラゴンに抵抗できる強さがあるなら、シリュウさんの袋の中でも存在を保ってるのは納得。
でも、布が無いから糸だけ有っても活用できませんねぇ。」
「糸があるなら布も出来るだろ?」
ダリアさんが謎なことを言いだした。
「…はい?」
「布を織れるだろ?」
布をおる…、
織る、か。それって…糸を布に…!?
「まさかの機織り!?」
次回は11日予定です。




